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トラウマ爆発

瞬く間に時は経ち、あれから四年。

私は七歳になった。

今も、ウッドさんの家に預けられたり、自宅に戻ったりという生活を繰り返している。

勿論、お祖父ちゃんに時々会うのも変わらない。

かといって、生活に何も変化がないわけじゃない。

少し前、私はなんと王女様と知り合い、お友達になったのだ。

その日も私は、いつものようにウッドさんのお手伝いで庭師の仕事の中でも比較的簡単な作業をしていた。

するとふいに何処からか女の子のすすり泣く声が聞こえてきて、気になって声の聞こえるほうへ行くと、植え込みの影に隠れるように、ふわふわとした銀髪に紫の瞳の、とても可愛らしい女の子が涙を浮かべて座り込んでいた。

ハンカチを差し出して泣いている理由を聞けば、お兄さんの大切にしている懐中時計を内緒で持ち出した挙げ句、この庭園の何処かで落としてしまったようだという事だった。

そこで更に庭園の何処を歩いたのか尋ねたら、私が勝手知ったる、ウッドさん一家が担当する範囲内だった。

『なら大丈夫! すぐに見つけられるよ! 私も一緒に探すから、見つけたらお兄さんに返そ! ちゃんと謝ってさ!』と、笑顔でそう言って、私は女の子に手を差し出した。

女の子は涙を浮かべながらも微笑んで私の手を取り、二人で懐中時計の捜索を開始した。

それが、王女様、フローラ様との出会いだった。

後でその女の子が王女様だと知った時は飛び上がる程驚いた。

それ以来、フローラ様は私に会いによく庭園へと来るようになった。

私平民なのに王女様と親しくしていいのかな~、と疑問を感じていた私はある日、フローラ様付きのメイドさんに尋ねたら、『貴女と出会ってからフローラ様が明るくなられたから、良いのです。陛下も、そのままフローラ様の好きにさせるようにとの仰せですから』との返事が返ってきた。

国王陛下にまで知られてて、それを良しとされているなら、私にはもう何も言う事はない。

遠慮なくフローラ様と仲良くさせて貰うだけだ。


「プリム、プリム! このお花、つぼみがついていますわ! 一昨日はなかったですわよね? いつ、どんなお花が咲くのかしら……楽しみですわ」

「わ、本当ですね! これはピンク色のかわいいお花が咲くんですよ。楽しみですね!」

「まあ、そうなんですの。早く見てみたいですわ」


今日も庭園に来たフローラ様に、私は作業をしながら受け答えする。

この周辺は後は草むしりだけなので、ウッドさんは既に他の場所へと移り、今ここにいるのは私とフローラ様とお付きのメイドさんだけだ。

邪魔にならないよう気をきかせているのか、メイドさんは少し離れた場所で佇んでいる。


「ねえプリム、こんど私のおへやに遊びにきて? いっしょにお茶しながらおちついてお話したいわ。プリムはいつもお仕事しながらだから、たまには、ね?」

「え、フローラ様のおへやにですか? う~ん、私、お城の中へはまだ一度も入ったことないんですよねぇ」


平民の私には敷居が高いし、特にお城の中に入る必要もなかったし。

そんなお城の中に初めて入る理由が、フローラ様の、王女様のお部屋でお茶かぁ。

う~ん、でも、せっかくの友達(フローラさま)のお誘いだし……。


「プリム……? イヤかしら……?」

「あ、いえ。イヤってわけじゃ。……ただ、フローラ様。私、作法とか全然できませんよ? それでもいいなら、お邪魔します」

「ほ、本当? プリム?」

「はいっ」

「あ……ありがとうプリム! 作法なんて気にしなくてもだいじょうぶですわ! あ、なら、いつがいいかしら? 楽しい時間にしましょうね!」


私が誘いを受けると、フローラ様は満面の笑顔になり、目に見えてはしゃぎ出した。

そんなに喜んで貰えるなら、敷居の高いお城に行くのも、悪くないかな。

本当に作法を気にしなくて大丈夫なのかは……疑問だけど。

まあ、フローラ様付きのメイドさん達とは既に顔見知りだし、私が平民だって事も知られている筈だから、多少の無作法は、大目に……見て、貰える……よね?

……うん、きっとそうだと信じたい。


「ねえプリム、あなたお菓子は何が好きかしら? 紅茶は? 好みのものをそろえておきますわ!」

「えっ? えっと……な、何でも?」

「何でも? ……む……プリムったら、私に試練をあたえるつもりですのね」

「へ? 試練?」

「そうなのでしょう? お茶会を開くなら、招待客をきちんとおもてなししなければならないとお母さまが言っていましたもの! ……いいですわ、私、プリムがおいしいと言ってくれるようなお茶とお菓子を用意して、きちんとおもてなししてみせますわ!」

「え、えっと……はい。じゃあ、楽しみにしています……」

「ええ! さぁ、そうと決まれば善は急げですわ! さっそくじゅんびを始めますわね! プリム、今日はこれで失礼しますわ!」

「あ、はい。それじゃあ、また」


フローラ様は勢いよく立ち上がると、くるりと踵を返して去って行く。

……私は、王女様であるフローラ様と、平民の私じゃ食べるお菓子の種類が違うだろうから答えられなかっただけなんだけど……まあ、いっかぁ。

興奮したようにメイドさんと話ながらお城へと戻るフローラ様に苦笑しながら手を振ると、私は作業に戻った。

けれど、次の瞬間。


「きゃああああ!! フローラ様~~!!」

「え?」


耳をつんざく悲鳴が聞こえ、私は後ろを振り向いた。

直後目に入ってきたのは、倒れたメイドさんと、全身黒ずくめの男性の姿。

そして、男性の肩に担がれた、ぐったりとしたフローラ様――。


「……っ!!」


こ、これは……!!

脳裏に、縛られた自分と、電話をかけてた男の姿が蘇る。

心臓がドクドクと波打って、息が苦しい。

フローラ様を担いだ男性は、物凄いスピードで私のほうへと駆けて来る。

……わ、私も拐う気なの?

それとも、子供なら邪魔できないと思ってる?

……どっちにしても、このままじゃ……!!


「……フ。……フローラ様を、離せぇぇ~~~~!!」


私は震える体を叱咤してそう叫ぶと同時、私はコンテナの中に手を突っ込んだ。

そしてごみ袋やらじょうろやらスコップやら植え木鉢やらを、手当たり次第に次々と男性めがけて必死に投げつけた。

男性がそれらを振り払うように腕を一閃させると、口を縛っていないごみ袋から中身がばらまかれ、大量の雑草が一瞬男性の視界を塞いだ。

その為、男性は最後に飛んできた植え木鉢に反応できなかったようで、結果。

ドゴッ!!


「うっ……!!」


植え木鉢は男性の顔面にクリーンヒットしたあと地面に落ち、ガシャーンと音を立てて割れた。


「うぅぅ……っ」

「!!」


よほど痛かったのか、男性は顔を抑え呻いている。

その様を見た私は、考えるより先に動いていた。

台車を掴み、男性に向かって突進する。

三歳児では押すだけで精一杯だった小さな台車は、七歳になった今では自由自在に操る事ができる。


「……私はっ、今度はお婆さんになるまで長生きするのよ!! 誰にも邪魔させない……っ、フローラ様だって、殺させないんだから~~~~!!」


男性の数歩手前で足を止めると、私はそう叫びながら右足を軸にして、駆けてきた勢いのままぐるりと回転し、台車を振り回して思いきり男性にぶつけた。


「ぐはっ……!」


速度に乗った台車は男性の体にクリーンヒットし、男性は担いでいたフローラ様ごと後ろに倒れた。


「フローラ様!!」


私は急いで駆け寄ると、男性が衝撃から立ち直る前にと、フローラ様の手を掴んでずるずると引きずり、メイドさんのほうへ近づいていった。

王女様を引きずるなんてとんでもない行為だが、この時の私には気にしている余裕などなかった。

しかし途中でどれだけ引っ張ってもフローラ様が引きずれなくなり、疑問に思って後ろを振り返ると、なんと起き上がった男性がフローラ様の足を掴んでいた。


「……小娘……貴様ぁぁ……!!」


男性は凄まじい表情で私を睨み、低い声で憎々しげにそう叫ぶ。


「ひっ……!! ……は、離せぇぇぇぇ!!!」


恐怖に身をすくませた私は、それでも後ろ手に地面を探り、手に触れた"何か"を男性めがけて投げた。

ガシャーン!!


「ぐあっ!!」


その"何か"……お花が植えられた植え木鉢は、男性の頭部にヒットし、男性はそのまま、動かなくなった。

き、気絶した……?

そう理解すると、足から力が抜け、私はへなへなとその場に座り込んだ。

そして、ようやく立ち上がる事ができたメイドさんがフローラ様を男性から離すのとほぼ同時に、バタバタと駆けつけてきた騎士様達は、素早く状況を確認すると、その場に転がる男性を拘束した。


「メイド殿! 姫様はご無事ですか!?」


騎士様の一人に連行されて行く男性を、私は呆然と眺めていると、そんな声が耳に入った。

そうだ……フローラ様!!

私は慌てて立ち上がり、フローラ様とメイドさんの所へと駆け寄った。


「ええ、大丈夫です……気を失ってらっしゃるだけですわ。すぐにお部屋にお連れ致します」

「そうですか、わかりました。では、万一の為お供致します」

「ええ、お願い致します。それと……どなたか、その子を庭師のジュナックさんの元へ送り届けて下さいませ。フローラ様を必死に守って下さったの。……プリムさん、フローラ様をお守りして下さって、ありがとう」

「え、い、いえ……フローラ様は、友だちですから」

「そう……そうね」

「なんと、この子が……。わかりました。庭師のジュナック殿ですね。私が責任を持ってお送り致します」

「ええ、よろしくお願い致します」

「では、メイド殿。参りましょう」

「はい」


……フローラ様、特に怪我はないんだ、良かった。

メイドさんと騎士様に連れられて、お城の中へと戻って行くフローラ様を見送ったあと、私も騎士様に連れられ、ウッドさんの所へ戻った。

余談だが、あの男性にぶつけた植え木鉢に植えられてたお花は奇跡的に無事だったようで、後日ウッドさんの手によってきちんと植え替えられたのだった。


プリムは隠しスキル"火事場の馬鹿力"を発動した!!

プリム、WIN~~!!(笑)

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