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襲撃

 まだまだデートを楽しむ様子のお父さん達をその場に残し、私達は広場を出た。

 お父さんのプロポーズを見守るという目的は果たしたし、後は本当に二人きりにしてあげる事にする。

 館に戻るというフローラ様達とも別れ、私とフレイ君は街に繰り出した。

 色々なお店を覗いて、買い物をする為だ。

 お祖父ちゃんやクラウド君にお土産も買いたいしね。

 けれど、もうすぐ外れから街中に戻るといった所で、突然『やっと姫様方から離れたわね!』という声と共に、大きな火の玉が出現した。

 その火の玉はなんと、私に向かって勢いよく迫ってくる。

 驚き身を竦めた私だったけれど、すぐにフレイ君の背中が私の視界を覆い、火の玉よりも大きな水の玉がそれにぶつけられ、大量の水蒸気となって消え失せた。

 だけど、それで終わりではなくて……。

 その後も次々と攻撃魔法が迫ってきて、それを全てフレイ君が防ぐ事態になり、やがて一向に当たらない魔法に焦れたのか、剣を手にした二人の少年が現れ、フレイ君に襲いかかった。

 その間も、魔法攻撃は止まなくて……フレイ君は自身の剣を抜き放ち、二人の少年の剣を捌きながら、魔法をも防せがなくてはならなくなってしまった。


「フ、フレイ君……っ!!」

「大丈夫だプリム、問題ない。そのまま俺の後ろにいろ!」

「う、うんっ……!!」


 確かに、フレイ君は涼しい顔で少年達の相手や魔法の打ち消しを行っている。

 だから私はフレイ君を心配しながらも、襲撃の恐怖にかられてはいなかった。

 ……フレイ君って、こんなに強かったんだなぁ。

 だけど……どうして彼らは私を襲って来たんだろう?

 あの二人って確か、灰色商館の一階にいた子達だよね?

 私のお試しを受けてくれたけれど、貴族じゃないならって帰っちゃった子達な筈だ。

 そんな彼らが、どうして私を……?


「……ああもう、何やってるのよ! 使えないわね! さっさとその女を傷物にしなさいよ!!」

「えっ……!?」


 フレイ君と少年達の戦いを見ながら思考に沈んでいると、ふいに木の影から女の子が飛び出してきた。

 そしてそれを追うように、もう一人、こちらも女の子だ。

 その子は見覚えがある。

 灰色商館の七階にいた、食べ物の好き嫌いが激しかった魔法使いのあの子だ。

 けど、先に飛び出した女の子には、まるで見覚えがない。


「だ、誰……?」

「……誰、ですって? 貴女、私を知らないの!? これだから平民は!! いいこと、よくお聞きなさい!! 私はジャスミン・ステラリング! 名門貴族であるステラリング伯爵家の一人娘よ!!」

「……ジャスミン・ステラリングさん? ……ステラリング伯爵家……」


 ……それは、お母さんの浮気相手で現ご主人の、昔お父さんを異動させた、元上司さんの家じゃなかっただろうか……。

 あの頃、家に来ていたその人を、お母さんは『ステラリング様』って呼んでいたし。

 その家の一人娘って事は……私より年下に見えるこの女の子は、もしかして。


「わ、私の異父妹……?」

「はあ? やめてちょうだい、冗談ではないわ!! 貴女のような平民が姉だなんて……平民が、この私を差し置いて姫様や皇太子様と親しいなんて!! どんな手を使ったのかは知らないけど、分不相応なその愚かな行為の報いを今こそ受けさせてあげる! さあ、早くその女を二度と姫様や皇太子様の前に出られないような姿にしなさい!!」

「えっ……!!」


 ひ、姫様や皇太子様と……って、今襲われてるのってそれが理由!?

 そんな……確かに私は平民だし、身分は違うけど、フローラ様はそんな事構わずに友達だって言ってくれてるし、私もそう思ってる。

 それに、皇太子様……?

 フローラ様のお兄さんとして会話したり、フレイ君含む四人でたまにお茶したりするけど、個人的には親しくないよ?

 あくまでフローラ様ありきの交流だし。


「……無駄だ。こいつら程度の実力じゃ何人集まっても俺には敵わない。従ってプリムを傷つけられもしない。諦めるんだな」

「なっ……!! ……い、いいわ! なら貴方を雇えば済むもの! その女の家よりずっと高いお金で雇ってあげる! だから今すぐこちら側について、その女を襲いなさい!!」

「へ?」


 ……フレイ君を、あの子が雇う?

 うちよりずっと高いお金で?

 それでフレイ君があの子の側について、私を襲う……。


「そんな事するわけないよ。何言ってるの?」

「その通りだな。馬鹿馬鹿しい」

「なっ!? 何でよ!? こちらにつくのが普通でしょう!! 私は伯爵家の娘で、その女よりあらゆる面でずっと優れてるのよ!?」

「……くだらない。……もういい。諦めないんなら、これまでだ。……終わりにしましょう!」

「!?」


 フレイ君が声を上げると、直ぐ様周囲からお父さんを含めた何人もの騎士様方が姿を現した。

 そしてその後ろから、フローラ様と公爵子息様が歩いてくる。

 それを目にすると、二人の少年と魔法使いの女の子は、何故かぴたりと攻撃をやめた。

 その様子にフレイ君も剣をおろしたが、しまわずにまだ警戒している。

 そんな中ゆっくりと歩いて来たフローラ様達は、私の隣に立つと口を開いた。


「お兄様の言う通りになりましたわね。私達が離れプリムとフレイが二人になれば間違いなく手を出すと。……格の違いを知って尚諦めないなんて愚かですわ。だからこういう事になるんですのよ? 捕らえなさい!!」

「はっ! 公道での暴行・障害行為の現行犯、及び先日の王城での破壊行為の容疑で捕らえる!! 神妙にせよ!!」

「えっ」


 せ、先日の王城での破壊行為、って……まさか私が世話してた花壇のあれ?

 犯人、この子だったの!?

 うぅっ、無念だったろう可愛いお花達の為に一発だけばしりと殴りたい……!!

 そう思って睨み付けていたら、ふいにフローラ様が進み出て、騎士様達に縄をかけられてもまだ暴れる女の子の前に立った。

 騎士様に『危険です、お下がりを』と言われても構わず女の子を見据える。

 そして。

 手を振り上げ、ぱしんっと、女の子の頬へそれを振り下ろした。


「これは、私の大切な友達を悲しませた罰ですわ。身分なんて関係ない、そんなものの為に引いたりしない、大切な友達ですのよ……! プリムを傷つけた貴女を、私は絶対に許しませんわ!!」

「……フローラ様……」

「さすが、僕のフローラ。君があれをやったならステラリング家が黙ってないだろうからね。代わりに、というところかな。……まあこれは、今後のステラリング家に君を咎める暇があるならの、話だけどね?」


 フローラ様の行為(ひらてうち)をにこやかに眺めた公爵子息様は、最後、その目を冷たく輝かせて、そう言い放つ。

 騎士様に拘束されてもまだ抵抗していた女の子は、呆然とフローラ様を見つめ、やがて、目に涙を浮かべて、項垂れた。

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