公爵領へ
時折カタカタと揺れる馬車の座席に行儀良く座り、窓の外を眺め続ける。
そこには流れる景色と、それぞれ色の違う馬に姿勢良く乗り駆ける護衛の騎士様方とお父さん、そして、青い立派な体躯の馬に乗り馬車のすぐ隣を並走する、フレイ君の姿があった。
「うわぁ、格好いい……。騎士様方に混じっても見劣りしてないよ……凄いなぁ、フレイ君……」
「まあ、プリムったら」
フレイ君を見つめながらうっとりと呟きを溢すと、私の正面に座るフローラ様がくすくすと笑い声を上げた。
そして、視線をゆっくりと窓の外へ向ける。
「けれど、本当にそうですわね。騎士達の中にあっても堂々と、そして凛としていて、素敵ですわ。さすがは、プリムの愛しの殿方ですわね?」
「えっっ!? ちょっ、ちょっと待って下さいフローラ様!? わ、私は別にっ! フ、フレイ君は、家族のような人で、い、愛しいとか、別に、そういうわけじゃ……!」
「あら? ……ひょっとして、自覚、ありませんでしたの? プリム?」
「っ!! ……い、いえ、その、自覚、って、いうか……その」
「その?」
「う……。……す、好きは、好き、ですけど、こ、恋なのか、どうかは、まだ……」
うう、さっきのあれは失言だったかな。
まさかフローラ様からこんな事を言われるとは思わなかったよ……。
突然発されたフローラ様の言葉の爆弾と追及に、私は俯き、しどろもどろになりながら返答を返す事になってしまった。
きっと顔は真っ赤だろうと思う。
「……まあ、そうでしたの? 私はてっきり、プリムとフレイは相思相愛なのだと思っていましたわ」
「そっ!? い、いえ、ですから……って、フッフローラ様っ!? その顔! からかってるんですねっ!?」
「あら、バレましたわ、残念」
「フローラ様っ!!」
更に続けられたフローラ様の発言に弾かれるように顔を上げると目に入った、フローラ様の楽しそうなその表情に状況を悟り、私は更に顔を真っ赤にして抗議の声を上げる。
それに対してフローラ様はしれっとした言葉を返し……やがて、二人声を揃えて笑い出す。
フローラ様となら、こんなふうな言葉の応酬もまた楽しい。
私やフレイ君の周りにあった日常の話、フローラ様が習っている勉学の家庭教師や仕えているメイドさんや騎士様の話、窓から見えた景色や動物の話など、二人で様々な話をしては笑い合い、そして時折ちょっとした言葉の応酬をしてはまた笑い合う。
そんな私達を、同乗するメイドさんが温かく見守って……。
私達が乗る、公爵領へと向かう馬車の中は、終始、そんな楽しく温かな空気が流れていた。
★ ☆ ★ ☆ ★
公爵領へ着くと、小休憩を挟んで、フローラ様は早速視察へと出掛けた。
お供は婚約者の公爵子息様、その護衛数名、フローラ様、私、フレイ君、お父さんとその同僚の騎士様数名。
残念ながらツェリさんは公爵様のお屋敷でお留守番だ。
フローラ様は公爵子息様と一緒に、色々な所を見学してはそこの責任者さんのお話をにこやかに聞いている。
時には質問などもしているようで、真剣にこの土地の事を知ろうとしている様子が窺える。
将来嫁ぐ土地の勉強、かぁ。
「凄いなぁ、フローラ様。私と同じ年頃なのに、もう人生決めてるんだもんだねぇ」
「うん? プリムだって、もう人生を決めているんじゃないのかい? 庭師になるんだろう?」
「庭師に……うん。そうだけど……でも、どこの庭師になるのか、はっきり決めてないし……漠然とそう思ってるだけだもん」
「どこの? ……王城の庭師になるんじゃないのかい?」
「……う~ん……それも、候補として考えてはいるんだけど……」
「…………プリムは、この公爵領の館で庭師になるんじゃないのか? フローラ様の為に」
「え? ……フローラ様の為に……? どういう事? フレイ君?」
「耳栓役。公爵夫人になるフローラ様には必要だろう? 今回のように。だからプリムは、フローラ様の近くで庭師をするんだろうと、俺は思ってたけど?」
「! あっ……!!」
そっか、そうだよね……!!
耳栓役の私が近くにいれば、フローラ様は安心できるよね。
私も、大事な友達の力になれるのは嬉しいし!
「うん、それが第一希望かな! 私ここの庭師になりたい!」
「だろうな」
「こ、公爵領の館の……!? ……将来は、遠く、離れる事になるのか……」
あ、お父さんが落ち込んじゃった。
でも、子はいつか巣立つものだし……お父さんの側にはツェリさんがいるだろうから、大丈夫だよね?
それにまだまだ、先の話だしね!
……でも、いつか、それが叶ったら。
フローラ様との関係は公爵夫人と使用人になるけれど、それは表向きで、裏では……時々、ううん、たまにでいいから、今みたいに仲良くお茶したり、できたらいいなぁ。




