作戦開始
翌日のお昼、私とフレイ君はお城の中庭にある東屋で、お弁当をテーブルに広げ食べる準備をして、お父さんが現れるのを待った。
お昼を一緒に食べる約束は、今朝既に取りつけてある。
そうしてまずは三人で食べ始めて、ある程度経った所で協力者となったあの女性がお父さんの想い人を連れ"偶然"通りかかり、そして……ふふふっ。
「楽しみだねぇフレイ君! 最初が肝心だし、今日はしっかり好印象をもたれるように頑張ろうね! お父さんと想い人さんの両方に"これなら家族になっても大丈夫だ"って思われる事が最終目標だよ! その後は、お父さんに頑張って貰わないとだけど!」
「そうだな。頑張ろう、プリム」
「うん! ……あっ、お父さん来た。作戦開始だね!」
「ああ。始めよう」
『やあ、お待たせ、二人共』と言って席についたお父さんを合図に、私達はお昼ご飯を食べ始めた。
お父さんが仕事に行ってからの過ごし方やお弁当のおかずをフレイ君と二人で作った時のあれこれ等を、面白おかしくお父さんに語って聞かせる。
今日は、お花に関する事や庭師の仕事に関する話は封印だ。
それをすると、どうしてもあの無惨な光景を思い出して暗くなってしまうから。
大事な作戦の最中に、暗い雰囲気はご法度なのです!
そんな話題の選択が項を奏したのか、明るい笑い声が東屋を包み、楽しい空気の中美味しいご飯を食べれていた。
そして、しばらくが経った頃。
「あら? プリムちゃんにフレイ君じゃない? こんにちは!」
「えっ? あ、お姉さん! こんにちは!」
「ああ、こんにちは。先日は、どうも」
満を持して、協力者さんと想い人さんの登場です!
まさに偶然といった雰囲気の台詞と態度、完璧ですね!
女優になれるんじゃないでしょうか?
さあ、この後は私も女優になりますよ!
フレイ君にも打ち合わせ通りに頑張って貰わないとね!
あっ、お父さんの想い人さんが私達を見て動揺し、『ちょ、ちょっとっ、フォルツ様のお子さんと知り合ってたの? いつ? どういう事?』と小声で協力者さんに詰め寄ってますよ、ふふふ。
けれど協力者さんはそれを無視して……。
「プリムちゃん、擦りむいた膝は……うん、もう大丈夫そうね?」
「はい、もうすっかり! お父さん、私この間、このお姉さんに転んで擦りむいた膝を手当てして貰ったの!」
と、いう事で知り合いました、という設定!
知り合っても不自然でない理由をしっかり考えたよ!
「え、そ、そうなのか? それは……ありがとうございました。娘が、お世話になりました。礼を言います」
「ああ、いいえ、大した事ではありませんから。けれど……ツェリ、残念だけど東屋は先客がいるようだから、今日のお昼はまた別の場所で食べましょうか?」
「えっ、ああ、ええ、そうね! そうしましょ! あの、フォルツ様、失礼しまし」
「えっ、お姉さん達も東屋でお昼を食べに来たんですか? なら、一緒に食べませんか? 椅子のスペースはまだ空いてるから座れますし! ねっ、フレイ君、お父さん!」
「ああ、そうだな。……いいですよね、旦那様?」
「あ、ああ、勿論だ。是非どうぞ」
「あら、よろしいんですか? ありがとうございます。では、お言葉に甘えて」
「えっ、ちょ、ちょっと! そんな……!!」
にこにこと相席を薦める私とフレイ君に、ちょっと緊張したような雰囲気のお父さん。
対する協力者のお姉さんは笑顔でささっと席に付いたが、想い人さんは動揺と混乱を露にしてその場に立ち竦んでいた。
それを見て、お父さんが意を決したように立ち上がる。
「ツェリさん。俺達は構わない。さあ、席に座って、一緒に食べよう」
そう言いながらお姉さんの元に行き、その手を取って席に戻って……わっ、自分の隣に座らせたよ!
いい傾向、いい傾向!
作戦は順調な滑り出しだよ、やったね!




