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お祖父様、現れる

軍手よし。

じょうろよし。

スコップよし。

鋏よし。

ごみ袋よし。

今日お手伝いするウッドさんよし。

これらを私専用に貰った小さなコンテナつき台車に入れて、さあ出発!

あ、ウッドさんは勿論コンテナには入れないよ!

重くなって運べなくなるし、そもそも入らないからね!

――お城のお庭は、とてもとても広い。

その為、管理する庭師はウッドさん一家の他にも数人いて、それぞれ管理を担当する区域があるそうだ。

私はお手伝いとして、ウッドさん一家の担当である庭の一角の草むしりやら水やりやら剪定やら植え替えやらを、ウッドさんやククルさんについて行っている。

ウッドさんとククルさん、どちらのお手伝いをするかは日替わりで違う。

これは二人の娘であるアメリアお姉ちゃんと交替制である為だ。

アメリアお姉ちゃんは、私の三つ歳上で現在六歳。

私を妹のように可愛がってくれる、とても優しい女の子だ。

ウッドさん一家に預けられてから、早二週間。

毎日四人で楽しく食卓を囲み、ククルさんとアメリアお姉ちゃんと私の女三人で一緒にお風呂に入るほど、私は一家に馴染んでいた。

あ、だからって、お父さんの事は、忘れてないよ!

昼間が楽しい分、夜寝るとき一人になると寂しさが二割増しで襲ってきて、お父さんに会いたくなるし。

……お父さん、元気かなぁ。

お仕事で怪我なんてしていないといいけど。

そう思って空を見上げると、ぽん、と頭に手が置かれた。


「どうしたプリムちゃん? 急に沈んだ顔になって」

「あ……ごめんなさいウッドさん。大したことじゃあないんです。ただ……お父さん、げんきかなって、思って」


空からウッドさんに視線を移し、意識して笑みを作ってそう答える。

するとウッドさんは少し困ったように微笑んで、私の頭を撫でてくれた。


「あいつなら大丈夫だよ、プリムちゃん。きっと元気でやってるさ。……全く、仕事だから仕方ないとはいえ、愛娘に寂しい思いをさせるなんて、駄目な父親だな、フォルツは」

「……そんなことないです。お父さんは、いいお父さんですよ?」

「……プリムちゃんは、いい子だなぁ」

「全く以て、同感だな」

「「 えっ? 」」


ウッドさんに頭を撫で撫でされながらそんな会話を交わしていると、ふいに知らない声が混じってきた。

後ろを振り向くと、深い緑の長い髪を後ろで束ねた、やや青みがかった緑の瞳をした男性が立っていた。

仕立ての良さそうな服をきっちりと着て、姿勢をぴんと伸ばして佇むその姿からは、紳士的な雰囲気が滲み出ている。


「そして、母親はどうしようもない愚か者だ。よもや、あそこまで酷いとは思わなんだ」


男性は溜め息を吐きつつ、最後にそうつけ加えた。

えっと……この人、誰だろう?

ウッドさんの知り合いかな?

あれ、でも、お父さんやお母さんの事、知ってるみたい……?

私が首を傾げているその横で、ウッドさんが息を呑んだ。


「シュ、シュヴァルツ伯爵……!!」


続いてそう声を上げると、私の腕を引き、背中に隠した。

え、何で?

突然の事に訳がわからず、私は呆然とウッドさんの背中を見つめた。


「……失礼ですが、何か、ご用でしょうか? この子は今、父親であるフォルツからの直々の頼みで私達一家が預かっています。故に、いかに貴方とてお渡しはできませんが」


どこか強張った表情に固い声でウッドさんがそう告げると、男性はひとつ頷いて口を開いた。


「……承知している。親権は既にフォルツにある故、娘や私がその子を連れていく事は敵わんと理解しているよ。……もっとも、娘はそんな事は露程も考えていないようだが」

「……では、何を……?」

「ただ会いに来た、ではいかんか? 母は姿を消し、父は仕事で幾日も留守。そんな寂しい環境に置かれた孫を哀れに思って、会いに来たのだよ」

「……孫……?」


目の前で交わされている会話の中聞こえた単語に反応して、私はぽつりと呟いた。

するとハッとしたように二人は口を閉ざし、その視線を私に向けた。

私は変わらず呆然としたまま、ウッドさんの向こうに見えた男性を見つめる。

孫……今、孫って言った?

ウッドさんとこの人の、今の会話から推測するに、その孫っていうのは、私の事だよね?

という事は、この人は私の……。


「おじいちゃん……?」


私がそう呼びかけると、男性は大きく頷く。

次いでウッドさんを視線で制して私の前に進み出ると、地面に膝をつき、私と目線を合わせた。


「ああ、そうだ。私はクロウ・シュヴァルツ。君の母の父親で、君の祖父にあたる男だ。……すまないなプリム。娘の性格から、平民の質素な生活など無理だとわかっていたからこそ、結婚に反対していたのに……あれの常にはない情熱を見て、これならばもしやと、許してしまった。君の今の寂しい環境は全て、判断を誤った私の責任だ。どうか、許して欲しい。この通りだ」


お祖父ちゃんらしいその男性は、そう言って頭を下げた。

えっと……ど、どうしようこれ、どうしたらいい?

お祖父ちゃんが会いに来るだけでも予想外なのに、許して欲しいとか言って頭を下げられても……。

と、とりあえず。


「あの、だいじょうぶです。私、その、たしかに、さびしいですけど、それでも、ウッドさん達がいてくれるおかげで楽しくすごしてますし。お父さんも、そのうちに帰ってきますし。だから、えっと、とにかく、だいじょうぶです」


だから頭を上げて下さい。

戸惑いながらそう言うと、お祖父ちゃんは顔を上げて微笑んだ。


「そうか、大丈夫か……プリムは強い子だな。……君は、ウッド・ジュナック、だったな。今日の昼休憩は何時かな? 孫と昼食を共にしたい。勿論、君達の目の届く場所でで構わない。それならば、良いだろう?」

「えっ……!? ……は、はぁ……それなら……はい」


私の前に膝をついたままウッドさんに視線を移したお祖父ちゃんは、驚きの言葉を口にした。

ウッドさんはそれに困惑しながらも、譲歩されているその提案に頷いた。

……どうやら私、今日のお昼ご飯はお祖父ちゃんと一緒に食べる事になったようです。

でもお祖父ちゃん、伯爵様なんだよね?

作法とか必要なのかな……私そんなの一切知らないんだけど、大丈夫なのかな?

あれそういえば、私まだお祖父ちゃんに名乗ってないのにプリムって呼ばれた。

お祖父ちゃん、私の名前、知ってたんだね。

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