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調査は密やかに動き出す

父、フォルツ視点です

 殿下に呼ばれ、出かけて行ったフレイの帰りを寝ずに待つ。

 呼ばれた理由が昼間の花壇荒らしの件に違いないのは一目瞭然だ、帰って来たらフレイの話を聞かねばならない。

 そうしてリビングで待つこと暫し、家に騎士団の同僚がやって来た。

 『陛下が至急登城するように仰せです』、と。

 殿下でなく、陛下が、という事に事態の深刻さを感じ取り、神妙な面持ちで登城し陛下の執務室へ行くと、そこには陛下と殿下、宰相閣下に騎士団長、そしてフレイがいた。

 俺が挨拶の口上を口にし一礼すると、早速陛下が口を開いた。

 そして告げられた内容に、俺は目を見開く。


「……何故、今更」


 そんな言葉が、思わず口から溢れ出る。

 荒れた花壇に残っていた魔力。

 その残肢をフレイが辿った結果、判明したその場所にあった家。

 そこに住んでいる人物。

 それはもう二度と、関わりを持つ事などないと思っていた者だった。

 もう何年も前に、自分とは、いや、自分達とは縁などなくなった者の筈だ。

 なのに、何故今更、しかもこのような件でその名を聞く事になるのか、意味がわからない。


「……かの家の主には、以前から良くない噂があってな。密かに調べてはいたのだが、どこに隠しているのか、どうしても確たる証拠が見つからなかった。……だがまさか、こんなボロを出すとは。まあ……主自身のした事ではないのだろうがな」


 半ば呆然としていた私を尻目に、宰相閣下が溜め息混じりにそう呟いた。

 その横で、陛下が頷く。


「明日、朝一番でシュヴァルツ伯爵を呼ぶ。予め事の顛末を伯爵にも話した上でかの一家を改めて調べ上げ、処遇を決める。そなたもそれで良いな、テイエリー? ……テイエリー?」

「っ! ……あ、し、失礼致しました。はい、私は……今後、私達家族に今後もう、今度こそ二度と、関わりさえしなければ……もう、それで……」

「……そうか。あいわかった。必ずそのように取り計らおう。……だが、テイエリー。そなた、それを直接言い渡してはみんか? あの者達には色々と苦渋をなめさせられたであろう? せめてもの報復……というわけではないが、捕縛の際には、そなたも参加してはどうだ?」

「陛下……! いえ、報復など、そのような…………いえ、そう、ですね。……プリムとフレイが大切にしていたものを踏み荒らした、その礼だけは、させて戴きたく存じます」

「……ほう、娘達の為だけに、か。ふ、良かろう。ではテイエリー、捕縛にはそなたも参加せよ。追って指示を出す」

「はっ!」

「では、今日はもう良い。夜分にご苦労だった。下がれ」

「は、失礼致します。帰ろう、フレイ」

「はい。……それでは。陛下、殿下」


 陛下方に一礼し、フレイと共に部屋を後にする。

 扉を閉めて歩き出すと、フレイが一歩、距離を詰めて来た。


「旦那様。かの家からの関わりを案じるのは、家族だけで良いのですか?」

「ん?」

「もう一人、"まだ"家族でない大切な人が、いるのではないですか?」

「は? ……まだ、家族でない、大切な……?」


 突然のフレイの言葉に、何の話だ、と、俺は暫く考え込む。

 だが、やがて一人の姿が脳裏に浮かんでくると、ゆっくりながらも目を見開き、息を飲んだ。


「フッ、フレイッ!? ま、まさか彼女の事を……っ、き、君が知っているという事は、つまりプリムもっ」

「知っています。プリムは貴方に幸せになって貰おうと、二人の仲を進展させる作戦を俺と二人で立てています」

「なっ!? ど、どうしてバレて……いつから……」

「旦那様。今大切なのは、あの人の安全も確保する事では? かの家がもしあの人の情報を得ているなら害が及ぶ可能性はあります。警戒は、すべきかと」

「……ああ、そうだな。……だが、彼女にまで騎士を護衛に着ければ、もし、向こうがまだその情報を掴んでいなかった場合、その存在をアピールしてしまい、逆効果にもなりえるが……」

「騎士をつける必要はありません。俺が守ります。プリムは、自分と俺をその中に含めて、旦那様とあの人とを交流させる作戦を立てています。……暫く庭仕事は休みにしざるを得ませんし、その作戦に集中させればプリムのいい気分転換にもなるでしょう。俺は作戦の決行を急ぎますから、旦那様はそれを機にあの人を家に呼んで下さい。共にいれば、プリム共々俺が守れます」

「な、い、家に……!? 彼女を!?」

「旦那様。プリムの為です」

「う」

「ああそれと、俺がこうして話してしまった事はプリムにはご内密に。プリムは、旦那様に内緒で作戦を進めるつもりですから。……俺も、こんな事態にならなければそのつもりでしたし。なので、よろしくお願いします」

「そ、そうか……わかった」


 フレイに念を押され、俺は頷くより他なかった。

 彼女の事をプリムとフレイに知られていたのは気恥ずかしいが、知った二人が俺を幸せにしようと考えていたというのは、とても嬉しい。

 まあ、それを急いで進め、彼女を近いうちに家に呼ばねばならなくなったのは……彼女の安全の為とはいえ……あ、あらゆる意味で緊張するが……覚悟を決めておかねば。

 今まで気掛かりがあり秘密にしていたが、どうやら賛成してくれているらしいプリムは元より、きっと彼女も、プリムと仲良くやってくれる事だろうし……。

 そんな事を考えながら、俺達は二人並んで、家路を歩いた。

 けれど時折、フレイがちらりと寄越す、まだ物言いたげな、俺の覚悟を探るような視線が、ちくちくと痛い。

 それにより、どうやら基本的には賛成のフレイにも、俺と同じ気掛かりがあるらしいと悟る。


「大丈夫だ、フレイ。俺が一番大切なのは、プリムだよ。……実際会ってみて、もし万一、彼女がプリムと仲良くできないのなら……その時は」

「……そうですか。俺の予想でも大丈夫だとは思いましたからプリムの作戦にも賛成しましたし、旦那様の為にも、今回も守りもしますが……プリムを害するなら話は別ですので、もしもの時は、よろしくお願いします」


 『その言葉が聞けて安心しました』と、俺の言葉に淡々と、そんな返答を返すフレイに、苦笑する。

 あり得ない事だが、もし仮に、俺がプリムよりも彼女を取ると言ったなら……フレイは即座に俺に見切りをつけ、プリムを何処かに拐って行くのだろうなぁ。 

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