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フレイの怒り

フレイ視点です

 フローラ様に退室を告げ、泣き疲れて眠ってしまったプリムを自宅に連れ帰ってプリムの部屋のベッドにそっと横たえると、涙の痕の残る顔を見つめながら、起こさないように気をつけつつ、ゆっくりと頭を撫で続ける。

 やがて玄関の扉が開く音がして、『ただいま』という旦那様の声が聞こえると、静かに部屋を後にした。


「お帰りなさいませ、旦那様」

「フレイ。ただいま。……プリムは?」

「眠っています」

「……そうか。フレイ、王太子殿下から君に伝言を賜ったよ。自分の部屋へ来て欲しいと」

「……そうですか、わかりました。すぐに向かいます。……元々、呼ばれずとも、行くつもりでしたし。旦那様、俺の不在の間、プリムを頼みます」

「ああ。君が戻るまでは、私がしっかりと守るよ。心配はいらない」

「お願いします。では、行って参ります」

「行ってらっしゃい、気をつけて。……君が怪我をしたら、プリムが悲しむ事を忘れないようにな」

「はい」


 旦那様の言葉にしっかりと頷くと、玄関の扉を開け、俺は夜の闇の中へと駆け出した。


「謝罪はしっかり、してもらわないとな」


  王城へと駆けながら、俺は小さく一人ごちた。

 プリムの側を離れるにあたって、俺はこっそり、王太子殿下にプリムの護衛を願い出た。

 プリムは、フローラ様にとって私的にも公的にも必要な人物だ。

 彼の方は自身の持つ力のせいで、人の集まる公けの場ではプリムがいなければ公務もままならない。

 そんなプリムを守る為なら、騎士の一人くらい貸してくれるだろうと踏んでの事だった。

 けれど王太子殿下は、それに条件をつけてきた。

 俺がプリムの側を離れる事を周囲が認識するようにわざと多く人目につく場所を通って城を出ろ、と。

 それを知り、今がチャンスとばかりに自分達を目当てにプリムを利用しようとする輩を釣り上げたいとの事だった。

 俺はそれに、プリムの心身を必ず守るならと更に条件をつけて頷いた。

 殿下は、それを固く約束した。

 ……だと、いうのに。

 プリムが泣くような事態を、それが起こる事を、許した。


★ ☆ ★ ☆ ★


「……怖い顔だな、フレイ」


 王城に着き、王太子殿下の自室へと入った俺を見て、殿下は開口一番そう言った。

 その表情は、困ったように苦笑を浮かべている。


「……プリムが、泣きました」

「そうらしいな。フローラから聞いた。悔しいような、怒ったような、悲しいような、何とも言えない複雑な表情をしていたよ」


 短く告げた俺の言葉にそう返すと、殿下は静かに立ち上がり、頭を下げた。


「すまなかった。プリム嬢にも、私が謝っていたと伝えてくれ」

「……随分あっさりと謝罪なさるのですね。貴方の立場上、こちらから強く求めても、なかなか口にして戴けないかと思っていましたが」

「ふ……他人の目があれば、そうするだろうな。……君との約束を破る事になった失態に対する挽回も、迅速に行うつもりだ。君の信頼を失ってプリム嬢を預けて貰えなくなる事は、何としても避けなければならないからな。……だが、(くだん)の魔法使いはなかなかの使い手のようで、残肢を辿るのに苦労している。そこで、君の手を借りたい。頼めるかい?」

「いいでしょう。プリムを悲しませた罪は、きっちり償って貰わなければなりませんから。……それにしても、情けないですね。王城に仕える者達が、残肢ひとつ辿れないとは」

「そう言わないでくれ。……恐らく、相手は灰色商館の上階にいた者なんだろう。うちの者が辿れないとなれば、間違いない」

「ああ……商館の。それなら、まあ、仕方ないか。とりあえず、庭に移動するが、貴方はどうする?」

「勿論、ついていくよ。……ところでフレイ、君は何階にいたのだったかな?」

「八階です」

「八階……。もし、相手が最上階の九階にいた者だったとしたら、勝ち目は?」

「勝ちますよ。何をしても」

「……そうか」


 俺の返答に殿下はそう言ったきり黙りこみ、二人とも無言のまま庭へと足を進める。

 やがて荒らされたその場所へ着くと、何も植わっていない花壇を見て苦い気持ちになりながら、そこに残肢を辿るべく、俺は意識を集中させた。

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