憤りと周囲の気遣い
明けましておめでとうございます!!
お昼を食べている間に、ここに賊が現れたらしい。
昨日に引き続き、殿下やフローラ様目当てに私に接触してくる人物をチェックしようと、殿下付きの側近様がこの場所を訪れた時には、もうこの状態だったそうだ。
その側近様の指示で花壇の状態を調べている騎士様方を呆然と眺めていると、側近様が私に近づき、口を開いた。
「プリム殿、念の為お聞きしますが、この花壇に植わっていた花ばなはどういったものですか? 葉や根などに毒性があるものはありましたか? もしあったならば、それらの花の数が合っているかをご確認下さい。……この惨状では難しいかもしれませんが、大事な事ですので、どうか。万一持ち去られていたとしたら、犯人の調査はそれを念頭に入れた上で行わねばなりませんので」
「あ……はい。で、でも、この花壇にはそういった類いのものは一切植わっていませんでした。だから、大丈夫、です」
「……そうですか。ならば、それが不幸中の幸いと言えますね」
「……。……はい」
不幸中の、幸い。
確かに側近様からしたらそうだろう。
だけど…………。
この花壇には、綺麗な花が咲いたはかりの花があった。
蕾をたくさんつけ、今にも咲きそうで、それを楽しみにしていた花があった。
花が終わりかけて、種子を取って次の季節にまた繋ごうと思っていた花が、あった。
それら全てが、こんな姿になってしまった……。
フレイ君と二人で、一生懸命、手入れをしていたのに。
悔しさと悲しさに、私は唇を噛み、両の手をきつく握り締める。
すると次の瞬間、そんな私の手を優しく包む感触があった。
「プリム、そんなに力を入れては手を痛めてしまいますわ。……ねぇ、もう良いでしょう? プリムを休ませたいですわ。ここは貴方にお任せします。さぁ、私の部屋に行きましょう、プリム?」
フローラ様は優しく私の手を開かせるとそれを握り、側近様に声をかけてから私の手を引いた。
それにつられて足を踏み出した私は、慌てて声を上げる。
「あっ、あの、いえ、フローラ様! 私、私も花壇を調べないと……! もしかしたら、もしかしたらひとつくらいは、無事に残っている花があるかもしれないですし……!!」
「……いえ、プリム殿。お気持ちはわかりますが、それはご遠慮願います。賊は魔法を使っています。荒らされた花ばなに残る魔力の質を調べれば複数犯か単独犯かがわかりますし、上手くいけば、その残肢を辿り居場所が掴めるかもしれません。ですからどうか、後処理はこちらにお任せ下さい」
「え、で、でも……っ!!」
「プリム。……残念だが、無事なものはひとつもなかったよ」
「え、お父さん……?」
花壇を見つめ側近様の言葉に抵抗を示すと、その向こうからお父さんが姿を現した。
こちらへと近づきながら、眉を下げ辛そうな顔で首を振る。
「先程、庭の南側に賊が現れ、荒らされたと聞いて、プリムとフレイに何かあったのではと心配になってな、駆けつけたんだ。南側はお前達の担当場所だったから。……今考えれば、フレイが側にいるならそんな心配はなかったんだが……聞いた直後は、そんな事は全く思い浮かばなかったよ」
「あ……えっと、ご、ごめんなさい、心配かけて……。ありがとう、来てくれて」
「いや。とにかく、無事で良かったよ。……プリム、ここはお父さんと騎士の皆に任せて、休ませて貰いなさい」
「えっ……。……あの、お父さん、本当に、お花、ひとつも……?」
「……ああ。ひとつも、無事なものはなかったよ」
「…………そう。わかった……」
「プリム……行きましょう? 私のお部屋に行ったら、美味しいお茶を淹れるわ」
「……はい。ありがとうございます、フローラ様」
もう一度お父さんに確認するも、変わらぬ表情で首を振られた私は、今度こそ諦め、フローラ様に促されるまま、その場を後にした。
やがて、今までにないくらい慌てた様子で駆けつけたフレイ君の姿を目にした私は、自分を気遣うフレイ君のその腕にすがり、泣いたのだった。




