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お相手調査 1

あのあと、食事を手に戻ってきたフレイ君に庭の光景を見せ、『あの医師の女性の事を調べたいの! 手伝ってくれる?』と聞くと、フレイ君はひとつ頷いて『わかった。それなら俺が調べる。プリムはウッドさんの家で待っているといい』と言った。

けれどこれは、お父さんに関わる、大切な事だ。

調査には、私自身も参加したい。

フレイ君だけに任せてただ待っているなんて、絶対に嫌だ。

その旨を伝えると、フレイ君は一瞬何かを言おうと口を開いて、けれど何も言わず、ただ『わかった』と頷いてくれた。

そうして、やって来たお城。

私はまず手始めに、フローラ様付きのメイドさんや騎士様に、お抱え医師の人達が使っている場所の周辺を掃除するメイドさんや見回りをする騎士様を紹介して貰って、あの女性をよく知る人を探していこうと思っていた。

そう、そうするはずだった。

けれど私は今、何故かお城の通路の天井に潜み、足音を立てないよう慎重に慎重を重ねて移動している。

……おかしいな、どうしてこんな事になったんだろう?

お城に入った時は、普通に通路を歩いてた。

けど、曲がり角をひとつ曲がって、周りに誰もいなくなると、突然フレイ君に抱き抱えられて、それで…………気がつけば、天井にいたんだったっけ。

そしてフレイ君が『静かに。ゆっくり歩くから、足音を立てないようにな』って言って、何でもない事のように平然と天井を進んで行くから、何となく私もつられてそのまま…………。

……けど、だけどさ?

さっきまで突然起こったこの状況に思考が追いつかなかったけど……冷静に考えると、これってまずくないかな?

天井に隠れてこそこそと進むって、思いっきり不審者だよね?

も、もし警備の騎士様に気づかれたらどうなるんだろう……。

もう、何なんだろうこのドキドキ感満載の調査という名の冒険(スリル)

ねぇ、フレイ君、私こんな展開は全く想像してなかったよ?

そう思いながら、前を歩くフレイ君の背中を見つめた。

するとその視線に気づいたのか、フレイ君が振り返る。

よし、これはチャンスだ。

普通に通路を進んだらどうかなって、提案してみよう!


「あ、あの、フレイく、きゃっ!?」

「静かに! 気づかれた。逃げるぞ」

「へっ!?」


声を潜めて話しかけようとした途端、私はまたもフレイ君に抱き抱えられた。

続いて早口に告げられた言葉に驚くと、ドスッという音が耳に届く。

音の元を探るように足元に視線を向ければ、さっきまでフレイ君がいた場所に、剣の刃先が飛び出しているのが見えた。


「!!!!!」


それが何を意味するかを理解した途端、ゾッとするような衝撃が全身を駆け抜けた。

串刺し、拘束、牢屋行き、という単語が頭に浮かび、目が潤み出す。

私を抱えながら走るフレイ君の肩を掴む手が沸き上がる恐怖で震えた。

どうして……本当にどうして、こんな事に。

私はただ、お父さんの恋のお相手の事が、知りたかっただけなのに。


「……大丈夫だ、プリム、心配ない。安全な場所まで逃げおおせてみせる。そこは結構近いから、心配いらない」

「あ、安全な場所……?」


近くに、そんな場所があるの?

本当に、大丈夫なの……?

いくらフレイ君の言葉でも完全に不安は拭えず、私は祈るような気持ちで、その場所に無事につく時を、フレイ君の腕の中で、ただ待った。


★  ☆  ★  ☆  ★


「失礼します」


そう言ってフレイ君が天井から降りたのは、広い部屋だった。

一瞬、フローラ様のお部屋かな、とも思ったけれど、置いてある家具の色や形が違う。

フローラ様のお部屋には人形やお花が置いてあるけれど、ここにはそれがなく、代わりに草原に馬が佇んでいる絵画がひとつ、壁にかかっていた。

その絵画や置いてある家具から品のいい高級感は漂うものの、全体的にすっきりとした印象を受ける部屋だった。


「ああ、君達か。やはり来たな。ようこそ、私の部屋へ」

「えっ。……お、王子殿下……!?」

「やあプリム嬢。騎士との追いかけっこは楽しかったかな?」

「へっ……!?」

「まあ、あとは私に任せるといい。こちらに座ってくれ。二人にお茶を」

「はい、かしこまりました」


王子殿下は話を終わらせると、控えていたメイドさんにお茶を頼んだ。

私はフレイ君に抱き抱えられたままソファまで移動し、その上におろされる。


「……えっと……な、何が、どうなっているの……?」


まるで訳を知っているような王子殿下の様子に私はすっかり混乱し、ぽつりと呟いた。


「……プリムが一緒だと、気づかれる可能性が高かったからな。昨夜のうちに王子殿下に事情を話して、避難場所の提供をお願いしておいたんだ」

「ええっ!? フ、フレイ君、王子殿下になんて事お願いしてるの……!?」

「はは、いいんだよ、プリム嬢。近頃の騎士達はどこか緊張感に欠けていたから、フレイの話はこちらにとってちょうど良かったんだ。君達が天井に潜んだ時間が短くても長くても、そんな状態を許した騎士達に叱咤激励ができるからな。それが済んだら、お抱え医師の仕事場を見回る騎士を呼ぶから、その者達からまず話を聞くといい」

「あ……! は、はい! ありがとうございますっ!」


よ、良かった、なんだか物凄く遠回りをした気がするけど、なんとか無事に当初の予定通りの調査ができるよ……!!

うん、ここに来るまでの怖かった事はもう全部綺麗さっぱり忘れよう、そうしよう!

よぉし、気を取り直して、調査、頑張ろうっと!

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