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こうして私は預けられました

今日は、とても大事な日。

今日一日の過ごし方次第で、私のこれからの日々の善し悪しが決まるだろう。

第一印象は、特に重要だ。

明るく元気良く、そして笑顔でしっかりと挨拶をしなくては。

あ、でも、もし騒がしい子が苦手な人だったら、おしとやかに挨拶したほうがいいよね?

う~ん、どっちにするべきのかな……。


「ね、ねぇ、お父さん。私がこれからおせわになるお父さんのお友だちって、どんな人? こども好きなの?」

「ん? ああ……不安なのか。ごめんな、プリム。でも、大丈夫だ。あいつは優しいから、心配いらない。俺からもよく頼んであるから、安心していいよ」


私の手を引き歩く父を見上げて尋ねると、父は穏やかな笑みを浮かべて私の頭を撫でた。

う、頭撫で撫では嬉しいけど、肝心の答えを得られなかった……失敗。

仕方ない、会った時の印象で判断しよう……。


「さ、もうすぐだよプリム。あいつの家はこの先を少し行ったところだ。あとちょっとだから、頑張って歩くんだぞ」

「うん! だいじょうぶだよ、私まだ歩けるから! この先をすこし行ったところなら、ちゃんと最後まで歩け、る……よ……?」


再び手を引いて歩き出した父から声をかけられ、大きく頷きつつ視線を進行方向に向けると、目に飛び込んできた立派な造りの門とその遥か奥にそびえ立つ建物に、私は目を見開いた。

え……い、家はこの先って、ちょっと、お父さん?

あれ、城門じゃない?

奥に見えるの、お城だよね?

わ、私がこれからお世話になるお父さんのお友達って、まさか……まさか~~~!?

脳裏に過った嫌な予感に私の緊張は更に増し、いっそ家に逃げ戻ってしまいたい気持ちに駆られながらもなんとか耐え、私は父に手を引かれるまま、城門をくぐった。


★  ☆  ★  ☆  ★


「はじめまして、私、プリム・テイエリーといいます! 三さいです! これからしばらくおせわになります、よろしくお願いします!」

「おや……これは、立派な挨拶だな。元気で賢い子じゃないかフォルツ。初めましてプリムちゃん。俺はウッド・ジュナックだ。君のお父さんの親友だ。隣にいるのは俺の奥さんのククル。その隣は娘のアメリアだよ。このお城で一家揃って庭師をしてるんだ。よろしくな」

「初めましてプリムちゃん。うちにいる間は、私達を家族と思って遠慮しないで何でも言ってね?」

「初めましてプリムちゃん! 仲良くしようね!」

「はい!」


お父さんのお友達の一家に引き合わされると、私は当初の予定通り元気良く挨拶した。

返ってきた反応から、どうやら無事に好感触を得る事に成功したらしいとわかる。

とりあえず、第一関門は突破だ。

私はホッと胸を撫で下ろした。

――父に連れて来られたのは、お城の中の一角だった。

ここは、お城に勤める人達が住む宿舎らしい。

宿舎は独身の男性用と女性用、そして既婚者の為の家族用とで別れていて、今いるここは家族用との事だった。

お城が家と聞いて、父の友達というのが王族の誰かの事で、まさか王族に預けられるのかとだらだらと冷や汗をかいていた私は、そうでなかった事に物凄くホッとした。

それにしても、庭師か。

ならちょっとした家事以外に、それについてもお手伝いできそうだ。

水やりとか、草むしりとかは、三歳児でもそれなりには手伝えるだろう。

預けられお世話になる身としては、その家の人達のお手伝いくらい、やらないとね。

お花は好きだし、預けられる場所としてはちょうどいいかも。

前世でも、お母さんと一緒にガーデニングしてたし。

……懐かしいな。

そういえば、あの時植えた私の好きだった花の種、ちゃんと芽吹いたのかな。

お母さん、悲しみにくれて花の世話忘れたりしなかったかな。

綺麗な花を咲かせてくれてたならいいな……。


「……それじゃあ、プリムの事、くれぐれもよろしく頼むよ。プリム、できるだけ早く仕事を片づけて帰ってくるから、寂しいだろうけど、ウッド達の言うことをよく聞いて、いい子で待っていてくれな」

「あっ、う、うん! だいじょうぶだよ、私ちゃんといい子で待ってるから! だからしんぱいしないで、お仕事がんばってねお父さん! いってらっしゃい!」


前世の感傷に浸っていた私は、突然父からかけられた声に慌てて返事を返した。


「……ああ、ありがとう。行ってくる。……プリム……本当に、すぐに帰ってくるからな? 寂しくても泣かないで待っていてくれよ? 食事は好き嫌いせずにちゃんと食べて、夜も夜更かししないで寝るんだぞ。あまりここから離れた場所に行っちゃ駄目だし、知らない人についていくのも駄目だ。それから……」

「……おい、フォルツ。俺達がちゃんと面倒見るから、心配するな。ったく、プリムちゃんより、お前のほうが寂しそうに見えるぞ?」


眉を下げ、私に向かって次々と注意事項を上げ連ね出した父に、ウッドさんは呆れたような声を上げた。


「ウッド……し、仕方ないだろう! プリムはまだ三歳なんだぞ? 幼い愛娘を人に預けてまで出張に行かなきゃならない俺のこの辛さと寂しさを察しろ!」

「はいはい。じゃあその愛娘は俺達が責任持ってしっかり任されるから、お前は愛娘の為に任務を成功させ、元気な姿で帰ってくる事にだけ気を配れ。ほら、そろそろ他の連中との合流時間だろ。早く行け」

「う……。……それじゃあプリム、俺が帰るまで元気でいるんだぞ。行ってくるな」

「うん! お父さんもげんきで、お仕事がんばってきてね! いってらっしゃい!」


ウッドさん一家と私に見送られ、父は渋々歩き出した。

何度もちらりちらりと心配そうに振り返る父に、私は苦笑しながらも、その姿が見えなくなるまで、手を振り続けた。

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