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周囲には謎が潜んでいた

差し出されたクラウド君の手を取って、クルクル回る。

そんな私の頭の中は、もはや疑問でいっぱいだった。

おかしいな、どうしてこんな事になったんだろう?

フローラ様の側で踊らなければならないにしても、相手はずっとフレイ君でいいはずだ。

なのにどうして、王子殿下やクラウド君とまで踊ってるんだろう、私。

うぅ、緊張しすぎて胃が痛い……。


「……お祖父様から、貴女は今回の舞踏会の為に、初めてダンスを習ったとお聞きしましたが、さぞ熱心に取り組まれたのでしょうね。ダンス、とても優雅に踊っておられます。元々素質をお持ちだったのでしょうか。流石ですね」

「え? ……あ、えっと、あ、ありがとう、ございます……。お褒め戴けて、嬉しいです……」


間違っても足を踏む事がないようにダンスに集中していると、突然クラウド君からそんな言葉をかけられた。

私は笑顔の仮面を張り付けて、なんとか返事を返す。

……クラウド君は、付け焼き刃の私と違い、伯爵家の跡取りとしてしっかり教育されているようだ。

喋りながらも流れるようにステップを踏み、社交辞令まで繰り出す余裕があるとは。

……いや、社交辞令、だよね?

もし本気で私が優雅に踊れていると思っているなら、視力の検査を強く薦めるよ。

クラウド君はそれからも、ダンスが終わるまで私を持ち上げ、褒めまくった。

それはもう、社交辞令にしても褒めすぎだろうというくらいに。

一体何がクラウド君の口をこうも美辞麗句で飾りつくさせているんだろう……伯爵家の跡取りだからという理由だけではすまないような気がするよ。


★  ☆  ★  ☆  ★


「クラウド! プリム! 見ていたぞ、素晴らしいダンスだった!」

「あ、お祖父ちゃん」

「お祖父様!!」


ダンスが終わって、踊る人達の輪から外れた私達は、お祖父ちゃんに出迎えられた。

ゆっくり歩いてその側へと行くと、頭にポンとお祖父ちゃんの手が置かれ、そのまま軽く撫でられる。


「プリム。ダンスの練習、よほど頑張ったようだな。とても初めてとは思えぬほど立派に踊れておったぞ。どこの淑女かと思ったわ」

「え、ええ? それは大袈裟だよぉ、お祖父ちゃん!」

「何を言う、大袈裟なものか! ……と、いかん、あまり話してはおれんな。すまぬ二人とも、私はまだ到着したばかりでな。挨拶回りをせねばならんのだ。またあとでな」

「あ、うん、わかった。またねお祖父ちゃん」

「ご苦労様です、お祖父様。では、また後程」


私とクラウド君がそう返事を返すと、お祖父ちゃんは風のように颯爽と立ち去っていった。

それにしても、挨拶回りかぁ。

貴族って大変だなぁ。

……さて、どうやらフローラ様ももうとりあえずダンスはしないみたいだし、私も引っ込もうかな。

お祖父ちゃんを見送ったあと、ちらりとフローラ様のほうを確認して、私は再びクラウド君に視線を戻した。


「あの、クラウド君、踊ってくれてありがとう。私フローラ様のところに戻るから、これ」

「プリム嬢。……もうひとつ、どうしても貴女に言っておかなければならない事があります」

「え?」


これで失礼するよ、と、そう言おうとした私の言葉を遮って、クラウド君は言葉を紡いだ。

次いで私に向けられた視線には、何故か仄かな敵意が感じられる。


「いいですか、お祖父様が一番可愛がっている孫は、貴女ではなく私です」

「へ?」

「今しがた貴女の事だけを褒め去って行かれたのは、ただ単に、貴女にそれを伝える事が今しかできなかった為であって、私の事は自邸に帰ってからゆっくりとお褒め下さるおつもりなのです。……ですからどうか、私よりも貴女がお祖父様に可愛がられているなどという勘違いはなさいませんように。では、私はこれで失礼します」

「え……う、うん……?」


クラウド君は一方的に捲し立てると、私に向かって一礼して、すたすたと立ち去ってしまった。

ダンスの時の友好的なそれとは一転した態度に、私は呆然と返事をしてその背中をただ見送った。

な、何がどうして、突然あんな態度になったんだろう、クラウド君……。

私、何も変な事はしてないよね?

う~ん、謎だ。


「……彼は、祖父であるシュヴァルツ伯爵を病的なまでに崇拝してるんだ。その伯爵がプリムだけを褒めて立ち去ってしまったから、やきもちをやいたんだろうな」

「へっ!? ……え、フ、フレイ君!?」


心持ち首を傾げながらクラウド君が去った方向を見続けていると、ふいにすぐ後ろから声が聞こえ、私は驚きに体を揺らし、振り向くと、いつのまにかフレイ君がそこに立っていた。


「ダンスお疲れ様、プリム。フローラ様の隣に行ってまた談笑するんだろう? 行こう」

「あっ、う、うん!」


同じ方向を見つめていたフレイ君が私に視線を移して告げた言葉に頷くと、フローラ様の元へと歩き出す。

けれど、フレイ君の口から発せられたばかりのその内容が気になって、私は歩きながらフレイ君を見上げ、口を開いた。


「ね、ねぇ、フレイ君? クラウド君がお祖父ちゃんを崇拝って、本当なの? 何で、そんな事知ってるの?」

「本当だよ。プリムが伯爵の孫としてこの舞踏会に出席するにあたって、あの一家の情報がいると思ったから、調べたんだ」

「え、そうなの? ……ふぅん……」


そっか、調べたから、知ってるのか。

…………それは、いつ調べたの、とか、聞いてもいいのかな…………?

だってフレイ君は、私の護衛だ。

朝起きておはようの挨拶をしてから、夜寝るときおやすみの挨拶をするまで、毎日ずっと私と一緒にいるのだ。

だから、調べ事をしたのを私が知らないっていうのは、あり得ない……はず、なんだけど。

……どうしよう。

クラウド君の態度に関する謎が解けたら、今度はフレイ君の行動に関する謎が出てきちゃったよ……。

私はフレイ君から進行方向に視線を戻し、遠い目をした。

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