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ダンス・ダンス・ダンス

耳栓役をするだけならダンスは踊らなくてもいいはず!

……とか思っていた時期が私にもありました。

しかし、それは大きな間違いだったようです。

この舞踏会は、フローラ様の社交界デビューの場。

となれば、フローラ様は当然ダンスをするのです。

いや、たとえ社交界デビューでなくとも、王女という身分にある上、美少女であるフローラ様がこのような場で1度も誰からもダンスを申し込まれず、踊らないということはきっとあり得ないでしょう。

そして、私は耳栓役としてフローラ様のすぐ側にいなくてはならない身。

つまり、フローラ様がダンスをする時は私もダンスをしなければならなかったのです!

踊らないとしても、せっかく教えて貰うのだからと、ダンスの特訓も真面目に受けておいて本当に良かった……。

そんな事を思いつつ、フレイ君にエスコートされながら会場の中央へと移動する。

いよいよ初舞踏会の初ダンスです。

どうしよう、緊張してきた。


「フ、フレイ君。もしステップ間違えて足とか踏んじゃったらごめんね?」

「……大丈夫だよプリム。ちゃんと修得(マスター)したろう? ダンスの相手は俺なんだし、緊張なんてする必要もない。そうだろう?」

「え、う、うん、まぁ、そうだけど……」

「なら、気を楽にして。多少の失敗は俺がフォローする。だからプリムはただ、ダンスを楽しめばいいよ」

「え……」

「さ、踊ろう」

「え。わ、わ」


小声で会話しながら歩き、中央へとたどり着くと、フレイ君は流れてきた音楽に合わせてダンスを開始した。

私も慌ててそれに合わせ、踊りだした。

最初こそステップを間違えないようにと気を張っていた私だったけれど、相手がフレイ君なのが良かったのか、段々緊張が解れてきて、最後にはほんのり楽しささえ感じられた。

……の、だけれど。


「プリム嬢、私とも是非一曲、踊って戴けますか?」


一曲踊り終えて早々、私にそう声をかけてきたのは、先ほどまでフローラ様と踊っていたフローラ様のお兄さん、つまり王子殿下だ。

私は目を見開いて、差し出された手を見つめ、数秒固まる。

……こ、断るのって、可能かな?

そう思いながら助けを求めるようにフレイ君を見ると、フレイ君は首を左右に振り、フローラ様の手を取った。

あ……フレイ君は今度は、フローラ様と踊るんだね?

という事は王子殿下、これ、パートナーを取りかえて踊ろうって事なんですね?

そうですか、フローラ様も踊るから拒否は不可能ですか、了解しました。


「ヨロシクオネガイシマス」

「ははっ。そんなに、緊張しなくて構わないよ。私の事は王子ではなく、ただフローラの兄、友人の兄だと思って接してくれていい。それならば、少しは気を楽にできるだろう?」


抜けたはずの緊張が一気に戻ってカタコトで返事を返しながら王子殿下の手を取ると、王子殿下は小さく笑い、そう言って微笑んだ。

うん……その微笑みは、間近で見るには破壊力がありすぎます。

王子殿下なんて雲の上の御方にうっかり惚れてしまったらどうしてくれるんですか。

まあ、お父さんやフローラ様、そしてフレイ君のおかげか、いつの間にか美形に耐性がついてたようで、ちょっと見惚れるくらいですんだから、良かったけど。


「プリム嬢。……本当に、ありがとう」

「え?」


ダンスが始まり、失敗しないよう集中していた私は、ふいに王子殿下からかけられたお礼の言葉を不思議に思い、顔を上げた。


「これだけ大勢の中にいても、フローラの様子にはまるで変化がない。これまでには、なかった事だ。……フローラはやっと、社交界に出る事ができた。全て君のおかげだ。ありがとう」

「え、い、いえ……そんな。み、耳栓の力は、私が意識して何かしてる訳じゃないですし……だから正直、実感ないですし。お礼なんて、言われても……困る、というか」

「……そうか。……けれど、それでも……言わせて欲しい。ありがとう。きっと父上や母上も、君に礼を言いたいと思うから」

「……は、はぁ……」


私を真っ直ぐに見つめてお礼の言葉を口にする王子殿下に、私はなんだか恐縮してしまい、曖昧な返答を返す事しか、できなかった。

だって、耳栓は、私がそうしようとしてしてる事じゃない。

本当に全くの無意識だ。

だから正直言うと、今だに実感がない。

お礼を言われて困るのは、そのせいかもしれない。


「……ああ、もう曲が終わるな。プリム嬢、ダンスの誘いを受けてくれてありがとう。楽しかったよ」

「えっ!? あっ、い、いえ、そんな、こちらこそ……! ありがとうございました!」


曲が終わる間際、王子殿下は再び口を開いて社交辞令と取れる言葉を紡いだ。

一瞬言葉通りに受け取りそうになった私は、焦りながらもなんとか返答を返すと、王子殿下は、にこ、と微笑んで、曲が終わると共に去って行った。

そして。


「プリム嬢。どうか一曲、お相手願いたい」


王子殿下と入れ代わるようにして、クラウド君がダンスを申し込んできた。

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