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突然の邂逅

ダンスやマナーの特訓の日々は忙しなく過ぎ、舞踏会の日は駆け足でやって来た。

いよいよ、フローラ様の社交界デビューである。

耳栓役の私は、フローラ様と一緒に会場入りした。

勿論、王族の皆様と並んで歩くわけには行かないから、少しの誤差はあるけどね。

皆様が会場の奥にある席に着くと、私はフローラ様が座る席の斜め前に移動し、フローラ様と談笑した。

そうしていると、王様を始め、王族の方々にご挨拶にくる貴族の人達から突き刺さるような視線を向けられる。

でも、お父さんからも、お祖父ちゃんからも、そして王様や王妃様からも、そうなるだろう事は事前に聞かされていた。

だから覚悟はしてた。

……してたけど、実際に視線を向けられると、やっぱりちょっと、怖いと思ってしまう。

でも、フローラ様の為だ。

気にしない、気にしない。

怖くない、怖くない。

心の中でそう唱えながら、意識して口角を上げ、必死に笑顔を作る。

特訓の成果は発揮されてる、と、自分では思うんだけど、フローラ様の笑顔がどこか困ったように見えるという事は、実際には発揮されていないのかもしれない。

うぅ、ごめんなさい。

私が自分の笑顔の不出来さを悟って心の中でフローラ様に謝ると、ほぼ同時に、またフローラ様の前に人が立った。

また貴族の人が挨拶に来たらしい。

私とフローラ様の会話が途切れ、視線がそちらに向いた。


「お初にお目にかかります、王女殿下。私は伯爵家の、ローランド・シュヴァルツと申します。こちらは妻のエリスと、息子のクラウドでございます。どうか、お見知りおきを」

「お初にお目にかかります。エリス・シュヴァルツと申します」

「お初に、お目にかかります。クラウド・シュヴァルツと申します」

「まぁ、シュヴァルツ伯爵家の方ですのね。ごきげんよう」


私とフローラ様の視線を受けとめると、貴族の男性と女性、そのご子息はにこやかに挨拶の言葉を述べた。

……シュヴァルツ、伯爵家。

ローランド・シュヴァルツ様に、エリス・シュヴァルツ様に、クラウド・シュヴァルツ様。

……なるほど。

この人が、お祖父ちゃんの息子でお母さんのお兄さん。

この人が、その奥さんでお母さんの義理のお姉さん。

そして、この子がお祖父ちゃんの孫でお母さんの甥っ子かぁ。

つまり、私の伯父さん、伯母さん、従兄なわけだ。

うわぁ、会っちゃった~~……。

姫様であるフローラ様の側にいるなら会って当然の存在なのに、ダンスや作法で頭がいっぱいでうっかり失念してたよ……。

フローラ様と伯父さんと伯母さん、従兄が笑顔で会話するその横で、私は遠い目をしてその場に固まった。

この上は早く会話を終わらせて、会場の何処かへと立ち去って欲しい。

それまでは私は空気になっているから。

しかし、そんな私の思いも虚しく、伯父さんの視線は私に向いた。


「……君が、プリムだね。初めまして。君の事は父からよく聞いているよ」


うわっ、は、話しかけられた!

思わぬ事態に、私の表情から笑顔が消える。

しかし伯父さんは構わず、半歩ほどフローラ様の前から私のほうへと体を移動させると、更に口を開いた。


「妹が、すまない事をした。フォルツ殿の心情を思えば、父に続いて私まででしゃばるわけにもいかず、フォルツ殿の留守中君をうちで預かるわけにもいかず。君には本当に苦労をさせてしまっているね。どうか許して欲しい」

「えっ!? ……い、いいいえ、そんな……苦労なんて、わ、私、別に……ゆ、許すとか、そんな、別に」

「……別に、か。……君は優しいいい子だね。父の話の通りだ」


謝罪を口にすると共に軽く頭を下げられ、私は驚きと戸惑いにどもりながらも返事を返す。

すると伯父さんはどこかホッとしたような微笑みを浮かべた。

や、優しいいい子?

お祖父ちゃん、伯父さん達に私の事を何て話しているんだろう……?


「プリムさん、この先、女性特有の事象で何か困った事が起きたなら、お義父様に言付けるか、手紙を下さいね。私でよろしければ、相談に乗りますから」

「えっ」


伯母さんが優しい微笑みを浮かべて告げた言葉に、私は戸惑いの声を上げた。

じょ、女性特有の事象?

相談って……ええ!?


「プリム嬢、せっかくこうして会う事ができたんだ。これを機に、従兄として仲良くして欲しい。今度、遊びに行かせて貰う」

「へっ!?」


プ、プリム嬢!?

従兄として、仲良く!?

あ、遊びに来るぅ!?


「それはいい。プリム、是非、そうしてやって欲しい」

「そうね。けれどクラウド、プリムさんに迷惑をかけてはいけませんよ?」

「はい、母上。ではプリム嬢、またあとで。後ほど僕と一曲踊って貰えると嬉しい」

「え、あ? えっ?」

「それでは王女殿下、失礼致します」


戸惑いに理解が追いつかず、おかしな声しか発さない私を他所に、シュヴァルツ一家は話を纏めると、去って行った。


「……プリム、プリム? 大丈夫か、プリム?」

「プリム……気を確かに持って? プリム?」

「……フレイ君、フローラ様……。……私、もしかして、クラウド君と踊る事になっちゃった……?」


シュヴァルツ一家が去った方向を呆然と見つめながらそう呟いた私に、二人は揃って、コクリと頷いた。

……ねぇ、二人とも。

否定してくれても、いいんだよ?

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