恐怖、のち、安堵と喜び
今日はフローラ視点です!
「さて……フローラ、話がある。大事な話だ」
お父様がそう切り出したのは、贅が尽くされた美食と穏やかな談笑に包まれた、いつも通りの夕食が終わった直後だった。
お父様は、父親としての優しい笑顔から、国王としての真面目で威厳に満ちたものに表情を変えている。
その様子を見て、私は姿勢を正し、次の言葉を待った。
「フローラ。次に行う王家主催の宴、その舞踏会から、そなたを社交界に出す。そなたの力については、心配なきよう手を打つ。……テイエリーに、明日、娘のプリムを伴って私を訪ねるよう申し伝えた。プリムを宴に出席させ、そなたの側に控えさせる」
「……えっ?」
「舞踏会に出る理由を、そなたの力の事を、明日テイエリーとプリムに話す。……覚悟をしておきなさい、フローラ」
「…………」
……私を、社交界に?
……プリムを出席させて、私の側に?
……プリムに……私の力の事を、話す……?
お父様から告げられたその内容に私は絶句して、ただ呆然とお父様を見つめた。
お父様の表情は変わらず厳しいものだったけれど、その目には私を気遣う光が見え隠れしている。
その事から、私の力をプリムに話した後の事を、お父様も危惧なさっているのがわかる。
でも、それでも、仰った言葉の撤回はなさらない。
……もはや決定事項なのだとわかって、私は俯いた。
「……承知致しましたわ。お父様」
俯いたまま、それだけを言って頷くのが、精一杯だった。
★ ☆ ★ ☆ ★
翌日、私はお父様の執務室の前で静かに佇んでいた。
手を組んで目を閉じ、心の中で繰り返し祈りを捧げる。
どうか、プリムが私を恐れませんように。
どうか、プリムが私を敬遠しませんように。
どうか、プリムが私を嫌いになりませんように。
どうか、どうか、どうか。
何度も何度もそう繰り返していると、ふいに、お父様の執務室の扉が開く音がした。
顔を上げると、プリムとテイエリー様が開いた扉の向こうから姿を現し、私の視界に映る。
そして、プリムが、私を見た。
「っ」
目が合った瞬間、私は息を飲んだ。
体が強ばるのがわかる。
逃げ出したい気持ちが胸一杯に広がり、私は踵を返そうとした。
けれど、まさにその瞬間。
「あ、フローラ様!」
いつもとまるで変わらない声色で私を呼ぶ、プリムの声が聞こえた。
プリムは私に駆け寄ってきて、明るく話し出した。
本当に、いつもと何も変わらないプリムに、思わず『私が怖くないの?』と尋ねてしまう。
プリムから、"怖い"だなんて言葉、聞きたくはないのに。
……けれど、プリムから返ってきた返事は、予想していたものとはまるで違った。
あまりにもあっさりと、まるで大した事ではないかのように、プリムはその言葉を口にした。
その事はとてもとても嬉しかったけれど、昨夜から今までずっとプリムに嫌われる事を恐れ、思い悩んでいた自分が馬鹿みたいに思えて、私はプリムにそっけない態度を取り、歩き出してしまう。
心の片隅でこんな態度のまま去ってはいけないと思いつつも、足は止まってはくれなかった。
けれどプリムは、私のそんな態度も気にしてはいないように、背後から『また明日!』と明るい声をかけてくれた。
私はそこでやっと『ありがとう』と、小さくても素直な言葉を紡ぐ事ができた。
そして私は自室に戻り、一人笑顔を浮かべながら、胸に広がる喜びと安堵を抱きしめ、それに浸った。
止めどなく溢れる、温かい涙を、流しながら。
リクエストされてたフローラ視点ですが、如何でしたでしょうか……。
書くのがだいぶ遅くなりました、すみませんでした。
フレイ視点は、舞踏会の終了後に書きます。
もう少々お待ちくださいませ。




