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三つ巴の攻防

翌日、私達は作法やダンスを習う為、再びお城に向かった。

フローラ様に出会うまでは、お城の庭園には出入りしても、お城自体に入る事はなかったし、フローラ様に出会ってからも、たまにフローラ様のお部屋にお邪魔するだけだったのに、今日からはそれ以外の場所に入る事になるし、舞踏会当日になれば会場となるホールにも足を踏み入れる事になる。

平民の私には無縁の場所だと思ってたのに、段々、お城の色々な場所に行く事になっていくなぁ……なんだか不思議な気分。


「プリム? 緊張しているのかい?」

「あ、ううん! そういうわけじゃ……なくも、ないかな。うん、ちょっと緊張してる。ついてきてくれてありがとう、お父さん」

「いや。……大丈夫だぞプリム。ダンスも作法も、さほど難しくはないからな。プリムならすぐに覚えられるだろう」

「う、うん。ありがとう、お父さん」


……でも、それはどうかなぁ。

お父さんもお祖父ちゃんも、どうも私を過大評価してると思うんだよね。

さほど難しくないって言えるのはきっと、お父さんがハイスペックな才能の持ち主だったからだと思うんだ。

けど……まあ、私はそんなお父さんの子なわけだし。

剣や魔法の才能は継いでなかったけど、代わりにダンスとかの才能を継いで……たら、いいなぁ。


★  ☆  ★  ☆  ★


お城に入った私達は、まずは王様の執務室へ向かった。

ダンスや作法の先生に、王様自ら私を紹介してくれるらしい。

それは有り難いけど……どうしてまた執務室なのかな。

私は謁見の間に行きたい。


「失礼致します! テイエリー様とご令嬢とその護衛の少年をお連れ致しました!」


案内の騎士様がそう告げると、静かに扉が開かれる。

お父さんを先頭に、私達が部屋の中へと入ると、また静かに扉が閉められた。

部屋の中には王様とフローラ様、宰相様に、見知らぬ人が三人、そして何故かお祖父ちゃんがいた。

見知らぬ三人のうち、二人は作法やダンスの先生だろう。

もう一人は、美形の少年。

王様とフローラ様の横に挟まれるようにして立っていて、その二人によく似た容姿をしている。

たぶん、フローラ様の兄君だろう。

お祖父ちゃんと同じで、どうしてここにいるのかはわからないけど。


「フォルツ、プリム、少年、よくぞ来た。プリム、こちらに控える二人がそなたに作法とダンスを教える師となる。頑張るのだぞ」


王様がそう言うと、部屋にいた見知らぬ人達がぺこりと会釈をする。

やっぱりこの人達が先生だった。


「初めまして。プリム・テイエリーです。頑張りますので、よろしくお願いします」


私が先生達に向き直り、自己紹介をして頭を下げると、先生達は無言で頷いてくれた。


「では、早速修練に……と言いたいところだが。実は、先に話し合う必要のある事柄が出てきてな。プリム、そなたの当日の衣装一式と、エスコート役についてなのだが。そなたの出席は私からの要望である故、衣装類は私が用意し、エスコートも、ここにいる私の息子、リュクセルに務めさせようと思っていたのだが」

「えっ?」


先生達への挨拶が済むのを待って再び口を開いた王様は、思いもしなかった事をさらりと言い放った。

私は驚きに体を小さく跳ねさせ、王様に視線を戻す。

お、王様が、私のドレスを用意してくれるつもりだったの?

しかも、私のエスコート役を、王子様にしてもらうつもりだったの!?

エスコート役っていうのが何かはイマイチよくわからないけど、たぶん、それ、とんでもない事だよね!?


「お、お待ち下さい陛下! 娘のドレスを陛下がなど、とんでもございません! それに、エスコートも……! 王子殿下がなさるなど、恐れ多い事でございます! どちらも、私がしかと手配致しますので、ご心配には及びません!」


私の考えを裏づけるように、すぐにお父さんが慌てた様子でそう断った。

すると、お祖父ちゃんが一歩前に出る。


「恐れながら、陛下。やはりフォルツも私と同様の考えのようでございます。陛下に衣装をご用意頂くなどとんでもございません。孫の衣装は、私がしかと用意致しますので。お気持ちだけ有り難く頂戴致します」

「え?」


お、お祖父ちゃんが、私のドレスを?

う~ん……正直申し訳ないけど、王様にお願いするよりはずっといいし、お祖父ちゃんがくれるならうちの家計も助かるし……甘えちゃっていいかなぁ?

私はそんな事を考えたけれど、お父さんが再び慌てたように口を開いた。


「お、お待ち下さい! シュヴァルツ伯爵には、プリムの事では既に、十分過ぎるほど助けて戴いております! これ以上甘えるわけには」

「フォルツ。プリムは、王女殿下の友人として舞踏会に出席する。ならばその身分は、平民の娘より伯爵家の孫娘としたほうが、周囲の目から守る盾となるとは思わんか?」

「え?」

「っ! ……それは……」

「私に孫娘がいる事は公にはされていない。ならば、その事を裏づける為にも、私が、少女のものであるドレスを新しく注文する必要がある。そしてエスコートも、伯爵家の者……次期当主の息子が務めるのがよかろうな」

「!! ……ローランド様と、ご子息を、プリムに会わせるのですか……?」


……ローランド様?

それが、伯爵家の次期当主様の名前なのかな?

次期当主って事は、お祖父ちゃんの息子さん?

……ん?

……お祖父ちゃんの……息子さん……?

目の前でされるお父さんとお祖父ちゃんのやり取りを、私は内容を咀嚼し、把握しながら聞く。

そしてそこまで理解すると、ざっと血の気が引いた。

だって、お祖父ちゃんの息子さんって事は、あのお母さんのお兄さんなわけで。

お祖父ちゃんはまともな人だけど、その人がどうかはわからないし、もしお母さんとの兄妹仲がいいなら、私の事を良く思っていないかもしれないし……。

お父さんの様子も、どことなく不安そうに見えるし。

あ、会いたく、ないなぁ……。

何か、会わなくてもよくなる方法、ないかな?

エスコート役を王子様にお願いする以外で、何か……。

そう考えて私が視線をさまよわせると、スッと、私の前に影が差した。

前方に視線を向けると、フレイ君が私を庇うように立っている。


「お話し中申し訳ありませんが、ひとつ、発言をお許し下さい。……舞踏会でのプリム様のエスコートは、私が致します。それが可能なように教育もされておりますので、ご心配なく」

「え……ほ、本当に!? 良かった! ならお願い、フレイ君!」

「な、プリム!?」

「なんと……」

「そ、そうか! プリムはフレイがいいのか! ……陛下、伯爵。お聞きの通りですので、お気持ちだけ、有り難く。ご心配、ありがとうございました」


フレイ君の言葉を聞いて、私がすぐさまお願いすると、お祖父ちゃんと王様は驚いたような声を上げた。

けれどお父さんはホッとしたような笑顔を浮かべ、王様とお祖父ちゃんに向かって頭を下げた。


「むぅ……仕方がない。だがフォルツ、衣装は、私が用意するぞ? 先ほども申したように、プリムは私の孫娘として出席させる。それがプリムの為だ、良いな?」

「……伯爵……。……はい、わかりました」


あ、私のドレス、お祖父ちゃんが用意する事になったみたいだ。

良かった、これでうちの家計も大丈夫だね!

再びドレスの事を持ち出したお祖父ちゃんに頷きを返すお父さんを見て、私は胸をホッと撫で下ろした。

お父さんは私のドレスを自分で用意したかったのか、浮かない顔をしているけれどね。

お祖父ちゃんはそんなお父さんに近づいて、慰めるようにポンと肩を叩いた。


「案ずるな、フォルツ。伯爵家の者を名乗らせるのは、あくまでプリムの為だ、他意はない。そなたからプリムを取り上げるつもりは毛頭ない。私も、ローランドもな」

「……その言葉が、真実である事を、願います」

「……家名に誓って、真実だ。安心せい」


お父さんとお祖父ちゃんは、そのままぼそぼそと小声で何かを話している。

よく聞こえないけど……最後に聞こえた、『安心せい』って言葉から考えるに、お祖父ちゃんがお父さんを慰めてるのかな?


「……シュヴァルツ伯爵。プリムのドレスは、私とお揃いのデザインにして下さいませね? 私、以前からプリムとお揃いのものが欲しかったのです!」

「え、フローラ様とお揃い? わぁ、いいですね! お祖父ちゃん、お揃い! あっ、それと、フレイ君の衣装の用意も、お願いしていい?」

「うむ、わかった。任せておけ」

「あ、ありがとう!」


これで、ドレスとかの心配はないね!

あとは作法とダンスの練習を、頑張らなくっちゃ!

三つ巴の攻防……それは、プリムのドレスとエスコート役をめぐる、父親と祖父と王のやり取りです。

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