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ご挨拶と理由

着替えやタオル、細々とした日用品が詰め込まれた鞄をリビングの床に置き、窓際に移動して外を見る。

うきうきとした気分で道の向こうを見ながら、私は口を開いた。


「お父さん、早く帰って来ないかな~。ふふっ、フレイ君を紹介したら、どんな顔するだろうね?」


そう言って悪戯っぽく笑い、隣に立ったフレイ君を見た。

フレイ君はそんな私を見て、苦笑する。


「さあ。……けれどやっと、旦那様にご挨拶できるな。主人の父君がどういう方か、楽しみだよ」

「優しくていいお父さんだよ! きっとフレイ君も好きになるよ!」

「……そうか」


私の言葉に短く返事を返すと、フレイ君は再び窓の外に視線を移した。

それにつられるように、私もまた窓の外を見る。


「家に帰ったら、フレイ君の部屋を整えなきゃね。今日は遅くなるだろうから無理だけど、明日になったらすぐに取りかかるからね!」

「ありがとう。勿論、俺も手伝うよ」

「うん! お父さんにも、働いて貰おうね!」

「旦那様にも? ……でも、疲れてるんじゃないか?」

「ははっ、大丈夫だよ! フォルツは体力馬鹿だからな! こきつかってやるといい!」

「ウッドさん……は、はぁ……」

「それより、こっち来い。フォルツの人となりを聞かせてやる。プリムちゃんの語るフォルツは、溺愛されてるが故に二割増しで美化されているからな」

「ええっ、そんな事ありませんよ、ウッドさん!」


私達の会話にウッドさんが加わり、その後ククルさんの呆れた声が止めるまで、お父さんについての微妙に食い違った話が、私とウッドさんから飛び出した。

フレイ君はそれを困ったように聞いていて、ククルさんの制止がかかると、ホッとしたように息を吐いた。

ごめんね、フレイ君。

お父さんについての真実は、自分の目と耳で確認してね。

……まあ、ウッドさんの言うように、私の、お父さんに関する話が美化されてるなんて事は、ないけどね!


★  ☆  ★  ☆  ★


「お帰りなさいお父さん! あのね、紹介したい人がいるの!」


ウッドさんの家に入ってきたお父さんを玄関で出迎えるなり、私はそう言って、後ろからついてきていたフレイ君を振り返った。


「フレイ君だよ! 私の護衛、決まったの!」

「初めまして、フレイ・ルードと申します。よろしくお願い致します、旦那様」


フレイ君は一歩前に出ると手を胸にあて、深々と頭を下げた。

お父さんは僅かに目を見開き、フレイ君をじっと見つめる。

次いで、目を細めて微笑んだ。


「護衛が……そうか、決まったのか。フレイ君、だね? 私はフォルツ・テイエリーだ。これからよろしく。あとで、少し話を聞かせて貰いたいが……まず言うべきは、娘の事を、どうか頼むよ、かな。プリムを主人に選んでくれて、ありがとう」

「はい」

「お父さん、明日はフレイ君の部屋を整えるからね? 手伝ってね!」

「ああ、わかった」

「……お疲れのところ、申し訳ありません。よろしくお願いします」

「いや、大丈夫だよ」

「三人とも、話は後にしてちょうだい? 夕飯が冷めちゃうわ」

「あっ、ごめんなさいククルさん!」

「すまないククルさん。ご馳走になるよ」


玄関で話込んでいた私達は、ククルさんに促され、リビングに向かった。

そして皆で夕飯を食べると、ウッドさん一家にお礼を言って、久しぶりの我が家へと帰った。


★  ☆  ★  ☆  ★


「さて、少し話を聞かせて貰ってもいいかな? フレイ君」


家に帰ってすぐにお風呂を沸かし、三人それぞれ入浴を済ませて、フレイ君の淹れた冷たい紅茶で一息つくと、お父さんはフレイ君を見てそう尋ねた。

その視線を受けて、私にも紅茶を注いでくれていたフレイ君はお父さんの向かい、私の隣に座った。


「どうぞ、何なりと」


お父さんの目を見つめ、フレイ君は話を促す。

私は淹れて貰った紅茶を飲みながら、大人しく二人の話を聞くことにした。


「ありがとう。じゃあ早速だけれど……プリムを主人に選んでくれた、その理由を聞いてもいいだろうか? 勿論、プリムを選んでくれた事は嬉しいし、感謝している。けれど、俺は試用期間に立ち合えなかったからね。どのようにして君がプリムを認めてくれたのか、見当もつかない。だから、理由を聞かせて欲しい」


フレイ君が、私を選んでくれた理由かぁ。

そういえば、聞いてなかった。

うん、私も知りたいかも。

そう思って、視線をフレイ君に向ける。

フレイ君は一瞬私をちらりと見ると、すぐにお父さんに視線を戻した。


「……俺は、農民の子供です。小さい頃から畑に出て、兄と共に両親の手伝いをしていました。その日々は決して楽じゃなかったけど、自分達の手で野菜を育てて、それを喜んで食べてくれる村の人達を見る事ができる生活を、俺は気に入っていましたし、ずっとそれが続くと思っていました。……両親が、もっといい生活をと願ってくれた事は嬉しいけど、俺の願いは別だった。……それを告げても、幼い俺の意見は、"現実をわかっていない子供の発言"としか、受け取って貰えませんでした。……プリムがしている庭師という仕事は、畑仕事とは違うけれど、植物を育てるという点で、そんな昔の生活を再び体験する事ができます」

「えっ? じゃ、じゃあ、私を選んでくれたのは、私が庭師だったからなの?」


また、植物を育てる生活がしたかった、ただ、それだけ?

フレイ君から告げられた驚愕の理由に、私は唖然とした。


「……一番の理由は、そうです。けど、それだけじゃありません。俺はお試しの間の貴女の様子や俺に対する態度を見て、好ましいと思った。花に優しく話かける姿、感情豊かな表情、色々と気づかいのできる謙虚な性格。ちゃんと、貴女の事も評価しています、プリム」

「そ、そう……ならいいけど……」

「なるほどな。……けどフレイ君、プリムは、今は俺の留守中はウッドに預けているが、いずれ成長すればそんな必要もなくなる。だから、庭師をするのは、僅かな間だけだぞ?」

「えっ?」

「え……。……そう、ですか。それは……残念ですが、仕方ありませんね。わかりました」

「え、あの、ちょっと待ってお父さん? 私、大きくなったら正式に庭師になるよ? お花の世話好きだし、庭師の仕事楽しいもん!」

「え、そうなのか? ……庭師か……まぁ、プリムがなりたいなら、いいか」

「! なら、ずっと庭師を続けるんですね!」


思いがけないお父さんの発言に、私は慌てて庭師を続ける事を告げた。

するとフレイ君が目を輝かせ嬉しそうな声を上げる。

……本当に、植物を育てるの、好きなんだね。

どうりで、私の助手みたいな事になってても不満げな様子を見せないわけだよね……。


「貴女を主人に選んで良かった。これからもよろしく。プリム」

「う、うん」


う~ん……普通なら嬉しい言葉だろうに、理由を知ったせいか、以前ほど嬉しくないなぁ……。


「はは。護衛をしながら好きな植物の世話もできる。フレイ君にはいい職場なわけだな」

「はい!」


お父さんの言葉に、フレイ君は満面の笑顔で答えた。

……まあ、いいか。

フレイ君、嬉しそうだし。

好きな事をして生活できるなら、何よりだよね。

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