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灰色商館、八階 2

少年少女を連れウッドさん一家の家へと戻ると、家の前にククルさんとアメリアお姉ちゃんの姿があった。

二人は刈り込み鋏と箒と袋を持っている。

これから仕事をするんだろう。


「ククルさん、アメリアお姉ちゃん、ただいま!」

「あら、プリムちゃん、お帰りなさい。……護衛候補さんに、またお試しに来て貰えたのね。……プリムちゃん……大丈夫?」

「お帰りなさいプリムちゃん。……あの、きょ、協力は惜しまないから! 何かあったら言ってね、プリムちゃん!」


ククルさんとアメリアお姉ちゃんは、私の後ろにいる二人をちらりと見ると、どこか心配そうに、そう言った。

たぶん、今朝ついに私が大泣きしてしまった事で心配をかけてしまっているんだろう。


「だ、大丈夫です! ……たぶん、ですけど。心配かけてごめんなさい。……えっと、今からでも、お手伝いします! ウッドさんは、どこですか?」

「あら、そう……? じゃあ、お願いね。ウッドは、"木の迷路"の所で、剪定をしているから。私とアメリアは、他の場所の剪定をしてくるわ」

「あ、はい、わかりました! あの、二人共、ここでちょっと待ってて下さい。すぐに支度をしてくるので」


ククルさんに返事を返すと、私は後ろの二人にそう告げて、家の中に入った。

すぐに庭仕事の為のお手伝いルックに着替え、袋と箒と塵取りを用意して、再び外に出て、台車に乗ってるコンテナにそれらを入れ、二人の所へ戻る。


「お待たせしました! それじゃあ、行きましょう!」


二人に声をかけると、台車を押し、ウッドさんがいるであろう場所へ向かう。

"木の迷路"。

それは、フローラ様と私の遊び場だ。

以前フローラ様が迷路で遊ぶ子供が出てくる物語を読んだらしく、その描写が楽しそうだったからと、ウッドさんに庭に迷路を作って欲しいとねだった。

困ったウッドさんは『国王陛下にお話してお許しを戴けたらいいですよ』とフローラ様に言った。

国王陛下はきっと許可はなさらないだろうし、それで諦めて下さるだろうと思ったらしい。

しかしフローラ様は、なんと国王陛下のお許しを貰ってきた。

証拠の書面を嬉々としてフローラ様から手渡されたウッドさんは固まっていた。

"滅多にない愛娘(フローラ)からのおねだりだ、庭の一角に子供向けの小さな迷路ができるくらいなら構わぬ。手間をかけるが、よろしく頼む"と書かれていたその書面は、暗に"子供が満足できる程度のささやかな規模のものを作って欲しい"という事に他ならなかった。

国王陛下は子供に甘いけれど、だからといって仮にもお城の庭園に大規模な迷路ができる事は阻止したかったらしい。

かくしてウッドさんは苦心の末、木と植え込みで小さな迷路を作り上げ、私は時々そこでフローラ様と遊ぶ事になった。

フローラ様から聞いた話では、たまに兄君である王子殿下とも遊んでいるらしい。

兄妹仲が良くて何よりだと思う。


「あ、ウッドさん! ただいま! 遅くなりましたがお手伝いに来ました!」

「ああプリムちゃん、お帰り! ……お試しの子達、来て貰えたのか……。……良かったな、と、言うべきなのかな」


ウッドさんは笑顔で振り返ったが、私の後ろの二人を見ると複雑そうにその笑みを歪めてそう言った。

やっぱりウッドさんにも、心配をかけてしまっていたみたい。


「……はい。あの、心配かけて、ごめんなさい。……えっと、それじゃ、お手伝い始めます! 私、落とした枝、集めますね!」

「あ、ああ。頼むな、プリムちゃん」

「はい!」


どこかぎこちなく会話を終わらせて、私が箒と塵取りを手に枝を掃き始めると、ウッドさんも剪定に戻った。


「切り落とした枝集めなんて、地味なお手伝いね。さて、それじゃあ私達は座ってお喋りしましょ!」

「…………」

「……えっ?」


枝を掃き集めた私を見て少女はそう呟くと少年の手を引いて近くの地面に座った。

けれど少年は無言で少女の手を払うと、私の台車のコンテナから袋を取り出し、腰に差した剣を鞘ごと引き抜いて、それを箒代わりに使い、私の側で枝を集め始めた。

私は目を見開いて、呆然とその様子を見つめた。


「……手が止まっています」

「え? あっ……! ご、ごめんなさい!」


少年に指摘されて我に返ると、動揺を残しながらも、私は作業を再開した。

少年は変わらず、剣で枝を集め続けている。


「……たまには、地味な作業もいいかもね! ねぇ、私も手伝うわ!」

「え」


座ってこちらを見ていた少女は棒読みでそう言うと立ち上がり、地面に置いてあった袋を掴んでしゃがみ、掃き集める枝に向かって袋を広げた。

……それは私のではなく、少年の集めるものに向かって、だったけれど。

それでも、彼らが作業を手伝ってくれるなんて夢にも思ってなかった私には、凄く嬉しい出来事だった。


★  ☆  ★  ☆  ★


あれから、はや数日。

二人は変わらず、私の作業を手伝ってくれている。

……いや、正確に言えば、私を手伝ってくれているのは少年だ。

少女は、少年の手伝いをしている、というのが正しいだろう。

さすがに、気づく。

少女は、少年の事が好きなのだろう。

このお試しにも、少年が行くからついて来た節がある。

まあ、それはいい。

別に構わない。

けど、少年が私の手伝いをする度、私を睨むのはやめて欲しい。

毎回、少女が少年と二人で過ごそうと誘うのを、少年が無言でスルーして私を手伝うからだと、わかってはいるけれど。

それでも睨まれ、敵意を向けられるのはちょっと納得がいかない。

理由が何であれ、彼女はあくまでも、私の護衛候補として来ているはずだ。

なのに事ある事に睨んでくるというのは……どうかと思う。

正直、少年にはお試し期間を終えたら正式に護衛になって欲しいと思う。

けど、それでもし、少女が少年と一緒にいたいという理由から自分もなると言い出したら……。

少年についてお試しに来たくらいだ、あり得なくはない。

そう考えると、ちょっと怖い。

主人を睨み敵意を向ける護衛。

怖すぎる。

かといって少年を護衛にするのを諦めたくはないし。

何しろ、やっと正式な護衛にと望むほどの人物に会えたのだ。

……やっぱり何か、少女を断る理由を考えておかなければならないかな。

まあ、私が護衛にと望んでいても、最終的な決定権は少年にあるんだから、少年が護衛になると言ってくれなきゃ、考えても意味はないんだけど。

お試し期間終了まで、残りわずか。

今の少年の様子からして悪い印象は与えてないと思うけど、護衛になって貰えるよう、油断も慢心もせず精一杯努力しなきゃ!

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