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灰色商館、二階 1

翌日、様子を見に来たお祖父ちゃんに直ぐ様事情を説明して、共に再び馬車に乗り、灰色商館にやって来た。

受け付けがあるエントランスに入ると、男の子達は一言、『じゃあな』と言って元いた部屋へと去って行った。


「で、ではプリム、今日は二階へ行ってみようか。彼らとはまた違ったタイプの者達がいるかもしれんからな!」

「プリム、そんな顔をするな。大丈夫だ、まだまだ上の階にもプリムの護衛候補達はいるんだし、次はきっとプリムを主人と認めて貰えるさ! なっ?」

「……うん……」


お試し期間の、たった一日目で断られた事に落ち込む私は、お父さんやお祖父ちゃんに慰められながら、手を引かれるようにして二階へ続く螺旋階段を昇って行った。


★  ☆  ★  ☆  ★


「へいらっしゃい! ようこそお客様、俺の部屋へ!」


二階にあった扉を開けると、そのすぐ前には、『ふっ! ふっ!』と息を吐きながら腕立て伏せをしている男性の姿があった。

男性は私達に気づくと一瞬動きを止め、次いで立ち上がると、何事もなかったかのようににかっと笑顔を浮かべ、歓待の台詞を吐いた。

床には、ダンベルやらハンドグリッパーやら、体を鍛える道具が多数置かれている。


「…………」


私は床から男性に視線を移す。

男性はムキムキマッチョだった。

にかっと笑うその存在は、非常に暑苦しい印象を与えてくる。

心なしか、部屋中に男臭さが充満している気さえする。


「初めてのお客様ですな! どのような商品をお望みでっ?」

「孫の護衛を務める者を探している」

「ほう、お孫様の護衛を! ならば俺の店ですな! 良い商品が揃っております! 少々お待ちを!」


お祖父ちゃんの一言に直ぐ様言葉を返した男性は、くるりと踵を返すと、奥の部屋へと消えて行った。

……のだけれど。


「喜べ野郎共! 護衛をご所望のお客様が来たぜ! 護衛と言えばお前達の出番だ、主人に相応しいか直感で決めろ! ……はぁ? 直感は無理だぁ? ……お試し期間~? ……チッ、何でもいいからとっとと来い!」


そんなふうに扉の向こうから漏れ聞こえる、男性の声。

うん、あの人、声が大きいね。

そして脳筋だね!

見るからにそうだけど!

ふぅ……オネェな商人さんの次は脳筋マッチョな商人さんかぁ……もしかして、ここの商人さんって皆イロモノな人なのかなぁ……?

そんな事を考えて、若干遠い目をしていると、奥の扉から、数人の男の子達を連れたマッチョな商人さんが戻ってきた。


「お待たせしましたお客様! 彼らが俺の商品です! 護衛ならば俺の商品達を買うべきってくらい自信がありますぜ! さぁどうぞ、お孫様を気に入りそうな商品を直感でご判断下さい!」


……いやいや、直感は無理ですよ?

またもやにかっと笑ってそういう商人さんに、私は若干引きぎみにそんな事を思う。


「……う、うむ……直感でというのは、ちと厳しいが……な。……改めて言うが、孫の護衛を探している。私はシュヴァルツ伯爵家当主で、父である彼は騎士を……」

「あっ! あの! お祖父ちゃんはきぞくですが、私とお父さんはへいみんです! だから、へいみんでもいいって人を、探しています!」

「……プリム」


私は慌ててお祖父ちゃんの言葉を遮って、そう告げた。

昨日の失敗の原因は、お祖父ちゃんの言葉から、私も貴族だと誤解させた事だと思う。

だから今回は最初に、平民だって事は言わなきゃならない。

その上で、お試しに来て貰わなくちゃ、また断られかねない。

同じ失敗は繰り返さない、これ大事。


「平民? ……何で平民に護衛が必要なんだ? 父親が騎士なら、親が悪徳商人で敵が多いからってわけでもないだろ?」

「あ……っ、はい、あの」

「何を言ってるんだお前は? お孫様はこんなに可愛らしい方なんだぞ? 可愛い女の子はそれだけで危険なんだ! 護衛をつけたいと思うのは自然な親心だろう!」

「えっ? い、いえ、あの」

「ああ、なるほど。晴れた日の空みたいな空色の髪に大きな菫色の瞳、うっすら日焼けした健康的な肌色で、確かに可愛い外見してるもんな。……要するに親バカって事か」

「うっ」


護衛が必要な理由を言おうとしたら、マッチョな商人さんに遮られた。

そしてその口から語られた全然違う理由に、男の子は納得してしまった。

うぅ、親バカっていうのは、否定できない……。

否定できないけど、でも本当理由はそうじゃないし……!!

っていうか、お父さんやお祖父ちゃん、ウッドさん一家といった、所謂"身内"以外で、初めて可愛いって言われた……!!

お、お世辞かな?

それとも本当にそう思って貰えてるの?

だとしたら……ちょっと、素直に嬉しいんだけど……。


「う~ん……親バカなのは否定しないが、護衛が必要な理由は他にちゃんとあるんだよ」

「えっ!」


初めて赤の他人から言われた可愛いという言葉に思わず思考が逸れた私の横で、苦笑しながらお父さんが言った台詞に、私は驚きの声を上げる。

お、お父さん、親バカって自覚あったの!?

私は無自覚なんだと思ってたよ……!

続けて訪れた二度の衝撃に、私は目をぱちぱちと瞬いてお父さんを凝視した。


「へぇ、そうなのか。……まぁ、何でもいいや。条件を呑むなら、俺、お試しに行ってやってもいいぜ」

「条件? ……聞けるものならいいんだが……どういう条件だ?」

「簡単だぜ? あんた、騎士なんだろ? 毎日、少しでいい。俺と手合わせしてくれよ」

「ああ、何だ、そんな事か。……仕事で無理な日は免除してくれるなら、構わない」

「ああ、それくらいは譲歩してやるよ! よし! じゃ、まずはお試しだな! へへっ、騎士と手合わせ、楽しみだぜ!」


そう言って、その男の子は楽しそうに笑った。

どうやら驚いてる私を他所に、話は進んでいたみたいだ。

けど……うん。

うっすら耳から入ってきてた会話から察するに、なんだかこの子も脳筋っぽい……。

私、うまくつき合えるかなぁ?


「じゃあなマッチョ、行ってくるぜ!」

「おう、行って来い!」

「……じゃあ、行こうか。よろしく」

「あっ、よ、よろしくお願いします!」

「おう!」


こうして、僅かな不安を抱えつつも、私達は新たな護衛候補の男の子を連れて、帰路についたのだった。

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