灰色商館、一階 2
商人さんに連れられて部屋に入って来たのは、なんともカラフルでゴージャスな容姿の、数人の少年・少女だった。
髪色は赤、青、緑、茶、金、銀とそれぞれ違っているけれど、全員顔立ちは整っていて美形だ。
キラキラしている。
さすが、条件をクリアしてここにいる人達なだけはある。
「この子達が私自慢の商品達ですわ! お客様がどのような商品をお求めかうっかり聞き忘れてしまったので、全員連れて参りました。それで、お客様。今更ですが、どういった商品をお求めでございましょうか?」
私が少年・少女達を見つめていると、商人さんは終始にこにこと営業スマイルを浮かべながらそう尋ねてきた。
するとお祖父ちゃんが半歩前に出て口を開く。
「孫の為に護衛を買いに来た。私はシュヴァルツ伯爵家当主で、孫の父親である彼は騎士を務めている。共に日の当たる場所を歩いている故、孫に仕えて身の破滅を招く事はない。どなたか、孫を己が主人に相応しいか、試してみては戴けないだろうか」
「へぇ、伯爵の孫で騎士の娘の護衛か。悪くないな。お試し、行ってやってもいいぜ」
「俺も。お試しの対応次第では、主人にしてやってもいい」
お祖父ちゃんの言葉に反応を返したのは、金髪の男の子と、赤毛の男の子だった。
「あらそう。わかったわ、ならお試しに行ってらっしゃい。他には……いないわね? ではお客様、この二人をお試し期間として貸し出しますわ。期間は最短で一日、最長で二十日です。よろしくお願い致しますね」
「うむ、わかった。二十日だな。では行こうか」
「はい。じゃあ二人とも、まずはお試し期間中、よろしく」
「あっ、よ、よろしくお願いします!」
「ああ、よろしくされてやる」
「俺が主人として認められるように、精々頑張るんだな」
商人さんに送り出され、歩き出した男の子達に、お父さんと私は歩きながら挨拶した。
男の子達はそれに、これぞ上から目線といったふうな態度と言葉を返す。
その様子に私は顔をひきつらせたけれど、お祖父ちゃんとお父さんは何故か平然としている。
む、向こうが選ぶ立場なんだから、これが普通だという事なんだろうか……?
人を売買するというと、どうしても本やゲームにあった奴隷を連想してしまうけど、ここでのそれは、やっぱりかなり違うみたいだ……。
……灰色商館で売られてる人達って、皆こんな感じの人ばかりなんだろうか?
私、うまく付き合っていけるかなぁ……。
★ ☆ ★ ☆ ★
日が落ちた頃になって家に着くと、お祖父ちゃんは『明日また来る』と言って、帰って行った。
私とお父さんは二人をリビングに案内してお茶を出すと、すぐに夕ご飯の支度に取りかかった。
「お待たせしました、夕ご飯できましたよ! 今日はちょっとふんぱつして、ごちそう作りました! どうぞめしあがれ!」
「二人とも、遠慮はいらないからな。たくさんおかわりするといい。特にこの、プリムの厚焼き玉子は絶品だぞ?」
「「 ………… 」」
テーブルの上に料理が乗ったお皿を並べ、席につく。
私は簡単なものしか作れないから、ごちそうのほとんどはお父さんが作ったものだけれど、私は一番得意な厚焼き玉子を作る事でアピールできたはずだから、まあ、よしとしよう。
前世のお母さんはまだ子供の私に、『料理はきちんと覚えるのよ! 将来お父さんのようないい男を捕まえるには、胃袋を掴む事も有効な手なんだから!』と言っては簡単な料理から教えてくれてたので、厚焼き玉子には自信がある。
しかし男の子達はじっと料理を凝視したまま、食べようとしない。
ど、どうしたんだろう?
「あの……食べないの? 冷めちゃうよ?」
私がそう尋ねると、男の子達は料理に向けてた視線を、私に移した。
「……なあ、聞いていいか? お前、伯爵の孫なんだよな? 何で自分で料理してんの?」
「料理人とか執事とかメイドとか、どうしたんだよ? 姿見えないけど。……ていうかそもそも、家小さくないか? 何で貴族が、豪邸じゃなく普通の一軒家に住んでんだ? 道楽か何かか?」
「えっ?」
料理人?
執事にメイド?
貴族って……誰が?
二人に聞かれた言葉の意味がわからず、私は目を丸くして首を傾げた。
その横で、お父さんが小さく苦笑する。
「ああ……誤解があるようだね。プリムは確かにシュヴァルツ伯爵の孫娘だが、貴族ではないんだ。俺が平民だから」
「は? へ、平民……!?」
「おいおいマジかよ? 何で平民が護衛なんて必要なんだよ!?」
お父さんの言葉に、今度は男の子達が目を丸くした。
「平民だからこそだよ。シュヴァルツ伯爵は孫であるプリムを可愛がってくれている。けどそれ故に、伯爵と対立する貴族が無防備なプリムにもし目をつけたら……。……そんな不安を取り除く為にも、護衛が必要というわけだ」
「え」
な……何それ?
お祖父ちゃんと対立する貴族?
そんな人がいるの?
私はお城でフローラ様と交流するに当たって、事件に巻き込まれた時の為に護衛をって考えてたのに、そんな心配もあったなんて……!!
こ、これはまずい。
"お婆ちゃんになるまで長生きしよう!"という私の人生の目標に、思いがけない所から更なる暗雲がっ!!
こ、こうなったらなんとしても護衛を手に入れなくっちゃ……!!
「は~ん……なるほどな。そういう事。理解はしたけど……悪いが俺はパス。明日帰らせて貰う」
「同じく。高位の貴族に仕えてそのおこぼれで贅沢に暮らす為にあのオネェの厳しい教育に耐えてきたんでね。悪いな」
「えっ……」
「……そうか。なら仕方がないな。わかった」
「えっ……」
決意を新たにした途端、告げられた二人のお断りの言葉とお父さんのすんなりとした了承。
一人戸惑う私を他所に、まるで話は終わったというように、二人は無言で料理を食べ始めてしまった。
お父さんを見上げれば、お父さんは私を見て、眉を下げて首を振った。
ごちそうな筈のその日の夕ご飯は、何故か酷くしょっぱかった……。




