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灰色商館、一階 1

「いらっしゃいませ。ようこそ灰色商館へ」


灰色商館に着き、馬車をおりて中へ入ると、すぐ正面に壁から半円型にくるりと作られた茶色のカウンターがあり、そこに佇む黒いタキシードの男性が穏やかな笑みを浮かべてそう言った。

……"灰色商館"って言っても、灰色の建物ってわけじゃあないんだなぁ。

私はキョロキョロと周りを見回しながら、そんな事を思う。

淡いベージュの壁に囲まれた空間は、そんなに広くはないものの、窮屈には感じない。

カウンターの左側には螺旋階段、右側にはドアがあり、上を見上げれば、吹き抜けになっているようで、上の階の通路と、更に上へと続く螺旋階段が見えた。


「お客様は、初めての方でいらっしゃいますね。どのような商品をお求めでしょうか? 宜しければ、ご案内させて戴きますが、如何なさいますか?」

「頼もう。孫の護衛を務められる者を買いに来た」

「左様でございますか、お孫様の。……そちらのお嬢様でございますね?」

「そうだ」


お祖父ちゃんはカウンターに近づき、男性の質問に簡潔に答えていく。

すると男性は表情を崩さぬまま、じっと私を見つめてきた。

な、何だろう……?


「ふむ……。それでは、ここ一階と、二階。それと五階から八階までの部屋をご利用下さいませ。良き護衛に選ばれます事をお祈り申し上げます」

「……そうか、わかった。では、そちらに見える部屋から利用させて貰おう。プリム、フォルツ、行くぞ」

「はい」

「は、はい」


す、凄い……ちょっと見られただけで、利用する階数までさらっと告げられちゃった……。

あの人、どういう基準で判断してるんだろ……?

私はお父さんに手を引かれ、お祖父ちゃんの後に続いて扉へと向かいながら、男性をちらりと横目で見た。

けれど男性はもう私達を見てはおらず、背筋を伸ばして正面を向いていた。


★  ☆  ★  ☆  ★


扉を開けて部屋に入ると、長い赤髪を首の後ろでひとつに束ねた、中性的な顔立ちの人がゆったりとソファに腰かけて本を読んでいた。

……男性……いや、女性かな?


「失礼する。そなたが、この部屋を使っている商人か?」

「あら……お客様が来ていらしたのね。失礼致しました、つい本に夢中になっていましたわ」


お祖父ちゃんが声をかけると、その人は顔を上げ、そう言いながら本を閉じて、ゆっくりと立ち上がった。

……え、今の声って……。

それに、この、まるで正面にそびえ立つ壁がごときの、背の高さは……!!

ま、間違いない……口調は女性のものだけど、こ、この人……男性だ!!

高い身長に、野太い声。

それはまさに、男性のものだった。


「ようこそ私の店へ。お客様、どうぞお座りになってお待ち下さいませ。すぐに私自慢の商品達を連れて参りますわ!」


男性はにっこり笑ってそう言うと、奥に続く扉の向こうへと消えて行った。

……それにしてもあの口調……歩き方もなんか、くねくねしてたし……あの商人さんってまさか……。

初めて会ったなぁ、あーゆー人……。


「プリム、どうした? こっちに来なさい」

「すぐに戻るとは思うが、彼の言葉に甘えて、座って待つとしよう」

「あっ、は、はい!」


男性が消えた扉を呆然と見つめていた私は、お父さんやお祖父ちゃんの声に我に返ると、既にソファに移動していた二人に従い、ソファに腰かけた。

……それにしても、お父さんもお祖父ちゃんも、あの商人さんを見て少しも動揺した様子がないって……二人とも、あーゆー人を見たことがあるのかなぁ?

そう思いながら、私は横目でチラリと二人を窺った。


「ん? どうかしたか、プリム?」

「……ううん、なんでもない……」


私の視線に気づいたお父さんが首を傾げて尋ねてきたけれど、私は小さく首を振って、視線を逸らしたのだった。

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