灰色商館
外へ出て、戸締まりをすると、お祖父ちゃん家の馬車に乗り込む。
お祖父ちゃんとのお出かけは、たとえ目的地がどんなに近くても、移動にはいつも馬車を使う。
正直、贅沢だと思う。
近い時は歩けばいいのに。
まあ、今日行く所はちょっと遠いらしいから、馬車でいいんだけど。
「さて、着くまでに時間もあることだし、これからプリムの護衛になって貰う人達の事について、簡単に説明しよう。よく聞きなさい、プリム」
「あ、はいっ!」
馬車が動き出すと、お祖父ちゃんが私を見てそう言った。
どこか改まった口調に、私は姿勢を正して耳を傾ける。
「これから行く場所は、灰色商館といってな。認承従属を行う人間を販売している商人達が店を出している所だ」
「え? ……に、人間を、販売……?」
そ、それって。
前世で読んだりプレイしたりした、漫画やゲームで出てきた、奴隷という人達の事……!?
「お、お祖父ちゃん? 私、どれいを買ってごえいにするの……!?」
「む? ……どれい?」
「プリム……? ……どれいって、何だ?」
「えっ?」
な、何、って……。
思い当たった事柄に驚いてした質問に対し質問を返され、私は困惑してお父さんとお祖父ちゃんの顔を交互に見る。
すると二人は本当に意味がわからないといったふうに首を傾げていた。
あ、あれ……?
この様子だと……本当に奴隷が何か、知らないのかな?
という事は、前世みたいに、この世界にも奴隷はいないの……?
じゃあ私、奴隷を買うわけじゃないんだ、良かった!
……あれ、でも奴隷がいないなら、"人間を販売"って、どういう事……?
「プリム? どう、したんだ?」
「あっ……な、何でもないの! ごめんなさい、気にしないで! お祖父ちゃん、せつめいのつづき、お願いします」
突然黙り込んだ私の顔を心配そうに覗き込んだお父さんに慌てて返事を返し、お祖父ちゃんに続きを促す。
とりあえず、お祖父ちゃんの説明を最後まで聞こう。
どういう事かを知るには、きっとそれが一番早い。
「う、うむ。では……。……そこの商人達はな、地方の貧しい人々からある条件をクリアしている子供のみを高額で買い、教育を施し、その成果に見合った額をつけ販売しているんだ」
「ある条件?」
「うむ。見目が麗しい事、そして、何かしらの才能を持っている事。それが条件だと言われている」
「見目が……って、かっこよかったり、かわいかったりする事、だよね? それと、何かのさいのうがある事……?」
「そうだ。商人の教育は厳しいが、それを乗り越えればその子供は高位の貴族の家に仕える事も夢ではなく、貧しい暮らしとは縁を切れる。その為、条件にさえ合っていれば、せめて子供だけでも良い暮らしをと、商人に子供を売る親は多い。売る事で、自分達にも金が入るしな」
……う~ん……?
"買う為の条件"とか、"教育"とか、"良い暮らしを"って部分を除けば、昔見た奴隷の事なんだけどな……。
「そして、ここからが重要なんだが……教育を終え店に並んだその者達はな、自らが仕える主を選ぶのだ。買い手であるこちらが気に入っても、その者が自分の主人に選ばなければ、買う事はできない。故に、プリム。お試しとしてお前の元へ行ってもいいという者達がいたら、気に入って貰えるよう、頑張るのだぞ? 最初に言った"認承従属"とは、主人と認め、契約を承って従う、という意味なのだ」
……うん、違うね!
奴隷じゃあないね!
主人を選ぶとか、買い手だけが気に入っても買えないとか、そんな奴隷いないね!
……ていうか……私、大丈夫なのそれ?
私みたいな子供を主人と認めてくれるような人、いるのかな……?
うぅ……なんか、不安だなぁ……。
「ねぇ、お祖父ちゃん。その人達って、きびしいきょういくをおえて、貴族にもつかえられる人達なんですよね? ……しょみんの私が、みとめてもらえるのかなぁ……?」
「む? ……ああ、それは大丈夫だ。プリムは可愛いからな! 気に入って貰おうと努力する姿を見て貰えば、必ず認めてくれる者がいるとも!」
「そうだぞプリム。心配いらない。お前は可愛いから! 絶対にお前を主人と認める人物はいるさ!」
「………………」
お祖父ちゃんとお父さんは、揃ってそう力説した。
うん……前から薄々気づいてたけど、今確信しました。
お父さんとお祖父ちゃんは、やっぱり、正真正銘、親バカと爺バカです。
とりあえず、二人の今の言葉は鵜呑みにせずに、認めて貰えるように努力しなくっちゃ。
……どう努力すればいいのかは、よくわからないけど。




