朝チュン
連日投稿が続きます。
種類も知らない小鳥達がチュンチュンといった鳴き声でそれっぽい雰囲気を醸し出す中、勇人は布団から起き上がる。
(やってしまった…!)
やってなかった。
(おれはなんてヘタレなんだ…!)
少し時間を巻き戻す。
廊下に立つ二人。ある部屋の前だった。
「あ、あのさ、こっち使って。父さんと母さんの寝室だから」
「勇者様はどちらでお休みになるのですか」
「お、俺は自分の部屋でお休みだから!」
「しかしここは魔王の手によって作られた冥府。お一人で夜を過ごされるのは危険かと」
「だ、大丈夫! 俺もうここで16年過ごしているし!」
「でも私…怖いです…」
寝室。ダブルベッド。電気が消えて枕元に間接照明が灯る。
「勇者様。そんなに離れてはベッドから落ちてしまいます」
「いや、全然大丈夫…! それに俺、このギリギリ感がないと眠れないタイプなんだ…!」
「勇者様は先程から何をお読みになっているのですか?」
「しょ、小説だよ。小説」
「小説…小説とは何ですか?」
小説を読む彼女。
「これは伝記…なのでしょうか。それにしては過剰な表記が多いような…」
「読んでもらうためだよ。ただ事実だけを並べても面白く無いから、いろいろ手を加えて読者を楽しませようとしてるんだ」
「たしかに…これは読んでて心が弾みます。物語に引き込まれていくようです」
寝息を立てる彼女。
その寝顔を見つめる勇人。
「うっ!」
トイレで水の流れる音。
(そして自分の部屋へ戻る…か。はぁー。ものごっつ情けない気分)
(彼女もう起きてるかな。というか昨日のことは全部夢だったんじゃないのか? それとも妄想? 現実感が全然ない…)
とりあえず外に出ようと部屋の扉を開けるとジャージ姿の彼女がいた。
「わっ!??」
「おはようございます勇者様! 朝食の準備が出来ました!」
「え!? え!? 朝食!? え!?」
「料理が冷めてしまいますから、お支度ができましたらお早めに降りてきてくださいね! それでは! 失礼します!」
愕然として彼女を見送る勇人。そして一言。
「…朝からテンションたけー…」
リビング。朝食を食べる二人。スクランブルエッグとベーコン、それと焼いた食パンがあった。普通の朝食だった。
「焼いたほうがおいしいかと思いまして」と彼女が言う。
(まあ、確かに…)食パンをモシャモシャしながら勇人は思う。
「…昨日は申し訳ありませんでした」
思わず咳き込んだ。
「だ、大丈夫ですか!?」
「き、昨日!? 昨日なんかあったっけ!?」
彼女は言いづらそうにあぁ…と細い声を漏らした。
「勇者様に一緒の部屋で寝てほしいと言ったことです…」
(思い出させるなぁ!)勇人は心のなかで叫んだ。
「勇者様…きっと、お一人で過ごされたかったんですよね…それなのに、私があんなこと言ったから…」
「いや! 全然そんなことこれっぽっちもないよ! うんまず間違いなく! 君と一緒の夜を過ごせて…あ、いや、これはそういう意味じゃなくて」
「…クス。勇者様はお優しいですね」
彼女が笑顔を見せた。
「勇者様から頂いたこのお洋服…とっても動きやすいです」
「そ、そう? ただのジャージだよ?」勇人が中学の頃来ていたジャージである。
「はい。それにしてもこの手触りなんの素材で出来ているんでしょう…」
「ポリエステルとかだと思うけど…」
「ポリエステルとはどんな獲物から採取されるものなのですか?」
「…ごめん。僕もそこまで詳しくは…」