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なんだかとっても

久々の投稿です。読んでくれていた方がおられたら嬉しい。

それからの僕の浮かれようったらなかった。

だってそうだろう? 僕みたいな一生童貞がこの一生に一度のチャンスに熱を上げないわけがない。

なんというか、必死だった。

彼女のことをずっとなんとかしようと思っていた。

もちろんそんな下心を悟られないように努力はした。

そういうのがモテないのだというのはモテ本を読む前から感覚的に理解っていた。

ただ股間に昇る血をすべて堰き止めるのは僕には難しかった。

さて、その浮かれっぷりからか僕は彼女とどんな会話をしたのかまったく覚えていない。

僕ん家までの道のりに彼女とは数知れずの会話をしたはずなのだが。


しかし朗報である。

彼女を家に上げることに成功した。

玄関前。「家上がってく?」と半笑いで言った僕に、彼女は「もちろんです!」とそりゃもう元気に。なんという尻軽。しかし最高。

浮かれて必死な僕だったが彼女のハートを射止めたのだ。


同い年(おそらくくらいだよね)の家族以外の女の子が家にいる。(しかも僕が連れてきた!)


さらに朗報である。

今日は両親がいない。

机の上にあった書き置きに僕は心底びっくりした。

まさにハート型の心臓が胸から飛び出るあの感じ!

「突然だけど家族旅行に行ってきます。ご飯は自分でなんとかしてね! 父・母より」

僕抜きでなにが家族旅行だとも思ったがグッジョブ! 心のなかで親指を立てた。


「えっと…ご飯食べてく?」

「私にやらせてください!」


「釜戸はどちらにありますか? 保管庫はどちらに。ひゃっ! なんですかこの箱は! この中だけ冷気が! み、見たことのない食材がたくさん…。」

「ぼ、僕も手伝おうか…?」

「い、いえ大丈夫です!」

と言われても台所であれだけテンパる彼女を尻目にはまったく落ち着かなかったのでずっと後ろから見守っていた。

彼女のあれはどれだけが冗談なのだろう。


あれだけの試行錯誤の上出来上がったのはシチューである。

まろやかないい匂いが鼻を抜ける。

とてもおいしそうだ。


でも、さすがに、シチューと一緒に食パンが出てきたのにはちょっとびっくりした。それも焼かれていないやつ。確かにシチューと一緒に食う食パンはうまいし僕もよくやるのだがなんかこう…食卓に出されるとなあ…。

彼女の家ではこういうのが普通なのだろうか。

「どうぞ、お先にお召し上がりください」と言われたが果たして彼女を放って一人で食べてしまっていいのかと思い結局彼女が僕の向かいに座るまで手を付けなかった。

これが待てと言われた犬の心境か、と勝手に思っていた。


「いただきます」と手を合わせたのは彼女にマナーの良い男だと思われたかったからというのもあるが、緊張をなんとかしたかったからでもある。

女の子の手料理。目の前でこの料理を作った本人が見てる。

食欲よりも胸の鼓動の方が強かった。2重の意味で。


おそるおそるシチューを掬いゆっくりと口に含む。


う、うまい!

しかしこれは…今までに食べたことがない!

まろやかでとろとろ。確かこれはシチューだけど…

そう! とげとげしい! なんだかとってもとげとげしい!

野生味というのだろうか、雑な味だ。まるでまとまりがない。

いや、でもうまい。それぞれの食材が俺だ俺だと主張してくるにもかかわらずだ。

そしてこの食パンの甘み。この柔らかな甘味がこのシチューの雑味とすごくマッチしている。

焼かないからいいんだ。焼かないからこそこのシチューの雑味を食パンの甘さが包み込んでくれるのだ。

右手のスプーンでシチューを掬い、左手に持った食パンをかじる。

なんて暖かい味なのだろう。

荒々シチュー…そう、このシチューは荒々シチューだ。

焼いてない食パンと荒々シチューの組み合わせ…

野生的で…でも心のこもった…なんといったらいいか…なんだかとっても

「懐かしい」


その時、ガタ! と勢い良く彼女が立ち上がった。

「思い出されましたか!? イヴァーリアにおられた過去を!」

いや、彼女のあれさはわかっていたつもりだったんだけど、それでもやっぱり、目を丸くした。

そういえば僕の一人称は僕であっていたか? この前の話では俺とか言ってなかったっけ?

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