うちどこ?
いつのまにか、終わってた。
「ねえ、どこまで着いてくるの…?」
通学路、勇人は振り返って言った。そこには彼女がいた。ジャージ姿のままである。
「私、言いましたよね。勇者様のお供をさせて頂いてますって。だから勇者様の身の安全を守るためどこまでもついていく所存です」
「…」
さっきからずっとこの調子だ。家を出る前から僕の近くにいると言って聞かない。一人暮らしなのか? 家に帰ろうとする素振りを見せない。学校にまでついて来ようとするとはさすがの勇人も思わなかった。
「君、うちどこ…」なんなら送っていくよ、といったニュアンスを込めて言った。
「ですから! 勇者様、まだ信じておられないのですか!」彼女が怒る。「私達の住む世界はここじゃありません! 魔王の手にかかった勇者様はいざ知らず、外から来た私に家なんてあるはずないのです!」
「そんなこと言われてもなあ…」このままじゃ本当に学校まで着いてきそうだ…。
彼女が勇人の手を掴んだ。
「ザオリク!」
しかし、MPがたりなかった。
「もしかしたらと思ったのですが…」
勇人はため息を付いた。…今日は学校行くのやめにするか。
そういや…学校さぼるの初めてだったな。そもそもそういう発想自体がなかったらしい。
ここはゲームの遊園地。それぞれの筐体がスピーカー越しに激しく自己主張をする。ピコピコサウンドに溢れる昔を知らないが、今のこの騒がしさは勇人にとって懐かしかった。勇人がやってるのは格ゲーである。赤い鉢巻の柔道家と特徴的な金髪のタンクトップが画面内で戦っていた。
「勇者様はなにをなされてるのですか!?」周りのゲームサウンドに負けじと彼女が声を張り上げる。
「え!? なに!?」勇人は画面に夢中で彼女の言葉がぼやけて聞こえる。
「ここはいったいなんなのですか!?」
「なんだよこいつ!? CPUなのに待ちすぎだろおかしいだろ!?」
「…はぁ」うなだれる彼女。
「ねえ! 奥、誰もいないよね!」勇人が叫ぶ。どうやら向かいにある筐体に誰か座っていないか確認してほしいらしい。
「あ、えーと」奥をもぞっと覗き込む彼女。「はい」
「だよなー。絶対おかしいよ」レバガチャ音。ユールーズ!「くそ、今度は別のキャラでやり直そう!」コインを入れる勇人。レバーをガチャガチャして手馴らしをする勇人。
「…私、外に出ていますね」
「どうぞご勝手に、あー今度は壊れ性能のこいつか!」
一通りのゲームを終えて外に出るとそこに彼女の姿がないことに気が付いた。家にでも帰ったのかな。でも正直迷惑だったし。そう思った勇人は再び店内に戻った。今日はゲーム日和だぜ!
それっきり勇人の目の前に彼女が現れることはなかった。