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ヒスティマⅥ  作者: 長谷川 レン
第一章 桜の思い出
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恐怖



 それから王の後をついていき、ふくよかな絨毯の上を歩きながら同じ階の一角へと通された。

 扉をバンダムが開くと、足音がならないほど柔らかい絨毯に、テーブル、白いふかふかのソファが二つ。その上には額に青い宝石のような物を埋め込んである猫が気持ちよさそうに寝ている姿が目に入って来た。

 上を見ればシャンデリアがつるされているし、王様の部屋って全部こうなのかなって思ってしまう。


「ほぅ。ショウの応接室とはこんな感じなのだな。部屋の次に気に入った」

「え? ウルシール王様の部屋じゃないんですか?」


 そう軽く聞くと、またも鋭い視線が。これだと気軽に質問などをこちらから出来ないかもしれない。


「私の部屋はライコウ王と同じ二階だよ。それよりも、座ったらどうだ?」


 ウルシール王は猫の隣へと座った所、猫は耳を動かして瞳を開け、ゆっくりと起き上がってそのウルシール王の膝へと乗った。どうやら猫はウルシール王のペットらしい。

 王の提案を受け、ソファへと座る。するとふかふかのソファはボクの体を沈みこませ、眠い時などに座るとすぐに寝てしまいそうだった。ウルシール王の手前、さすがにそんな事はしないが。

 それと同時に、扉を開けて入って来たメイド服を着た女性がお盆を持って、その上に乗っているコップを三つ。それぞれの前のテーブルへと置かれた。

そのメイドが外へと出た後、ウルシール王から話しだされた。


「ふむ。こうして改めて見てみると、なかなかに美人だ。将来が楽しみな容姿であるな」

「なッ!? ボクはおとムグッ」

「ありがとう。素直に受けるとわ」


 ボクの口を手で閉ざしてソウナが代わりに言う。その様子に不思議にするようなウルシール王に、ソウナはさっさと本題へと話を進めた。


「それより、ウルシール王ほどの王様が、ライコウの一般市民である私達にどんな用かしら?」

「貴様ッ!」

「まぁ待てバンダム。短気なのはよくないぞ」

「しかし――」

「二度目だぞバンダム。しばらく部屋の外に居ると言い」

「――ッ! わ、わかりました……」


 苦虫を潰したような表情で怒りを押し殺し、キッとボクとソウナを睨みつけてから外へと出て行った。

 少しおっかないと思う。先程の感情と一緒に、コップの中身を飲んだ。どうやらアップルティーだったようで、リンゴのような甘い匂いと一緒に喉を通る。


「すまない。私の兵が余計な事をした。気を悪くしたなら詫びよう」

「構わないわ。わざとだもの」


 平気でそう口にした。ウルシール王が眉を一瞬だけ動かした。

 それはいくらなんでもマズイ事なのではないかと思って、ボクは慌てて魔法を使ってソウナと意思疎通を取った。


『ソウナさん!? わざとって、一体どういうつもりで!?』

『わざわざ〈テレパシー〉使うのね。別に、今から言うから魔法なんて使わなくても良いわよ』


 魔法〈テレパシー〉。これは雷系統に属する魔法で、声に出さずに頭の中だけで話す念話だ。魔法を使い、高速で走っている間もこの〈テレパシー〉を応用した魔法だった。


「貴方は怒らないのね。普通ならさっきの騎士さんみたいに怖い顔をすると思うのだけど」

「それが狙いか? とは言うが、実際の所、確かに心では礼のなっていない人間だとは思う。だがそれ以上に怖かったのだよ」

「怖い……ですか?」


 静かに頷く。そして目の前に置かれているアップルティーを手に取ると、口元へと持って行く。その左手では膝に乗っている猫をなでている。テーブルへとコップを置くと、話した。


「私は、君たちのその力に恐怖してる」


 鋭い眼光。それがボク達に向けられている。

 眼鏡の向こうでは初めからツリ目ではあったが、それが一段と鋭くなっている。


「もしあれが電子世界でなければ、私の兵はあの一瞬で全滅だ。そちらの令嬢とでも無理だろう。一騎当千の武力に百鬼夜行の召喚魔法。空前絶後の連続魔法に天下無双の戦闘狂」


 そんなふうに見られてたんだ……。


「そして今から聞く事もそれに関している。失礼で聞きたい。その力はどうやってつけたのだ? 誰に習った?」


 その質問に、ボクはどう答えるべきか悩んだ。

 この人の前であの【英雄姫】、つまりユミの事を話しても良いのだろうかと。それを言った事によって、この人はどういう反応をするのかと考える。

 普通ならば信じないだろう。過去の偉人だ。しかも、そもそも【英雄姫】の事を知っている人なんていないだろう。関係ない人で知っているのはボク達四人とライコウの上層部、そしてヘレスティア上層部だけだ。ただそれだけだ。

 だから言っていいのかわからない。


 そんなふうに二人とも悩んでいたからか、沈黙はウルシール王の方から破られた。


「教えてはくれまいか。よい。人の名など、期待してはいなかったからな」


 予想で来ていた事、ではあったのだろう。それとも、母さんに何か言われていたか。


「あの、どうしてウルシール王様はその事を知りたいんですか?」


 ボクがそう聞くと、一度深く顔を伏せた。

 それから、再度顔をあげた時には鋭かった眼光ではなく、少しツリ目が下がった状態で、話しだす。


「今回の作戦。成功、失敗どちらに至っても我が軍やアラレウンド王の軍など、ライコウの戦士の力を見た者に限っては士気がぐっと下がるだろう。あの国とは戦いたくは無いと。戦力がライコウへと集中している。これは著しい事だ。意図せずとも、ライコウのその力に怯えて暮らさなければいけないのだから。もしライコウと戦争になったら我が軍はにべも無く白旗を上げて降伏するだろう」

「で、でも、母さんは侵略しようだなんてきっと思ってないと思います!」

「ほぅ。君はライコウ王の娘だったか。いくら親子でも、親の考えなどわからない物だ。それに先程のセレモニー。力を見せつけるにうってつけだからな」


 娘と言う部分に反応したけどまたもソウナに妨害を受ける。


『何で訂正させてくれないんですか!?』

『う~ん。……気分?』

『気分でボクの性別を間違えさせたままにさせるつもりですか!?』

『良いじゃない。今は指輪をつけているのだから女の子だもの』


 言い表せないもやもやが胸の中を這いまわって、今にも暴れたい状況なのだけど一切それをさせてもらえない。


「それで、私達にその力をどうやってつけたのか、知りたかったと言う訳ね」

「そう言うことだ。少しでも影におびえなくても言い様。少し手遅れかもしれないが、教えてもらおうとして来た訳だ」


 そうは言っても不思議な所はある。どうして王が直々に来たのだろうかと。普通ならば部下にでも来させればよかったのではないのかと思う。


「そう。結構行動力満載の王様なのね」

「これでも私とアラレウンド王は代々軍人上がりだからな。ウルシール王とは、武力も求められるのだよ。そのためにこうして行動力も着いてしまった。笑ってしまうね」


 軍人上がり。それはつまり、彼自身が軍人として訓練を受けていると言う事。アラレウンド王もそうだが、他の王と違って魔力が濃く、力が強いと思った理由はそれかと思う。

 逆に、貴族のような王様は訓練など受けた事も無いだろう。そのために策士役として誰かしらをつける。一般市民から言わしてもらえば無能の王と言う事になるのだが、それを知らない人は王を称えるだろう。


「それにしても、同年代だとは思えないね。君と――」

「ソウナ・E・ハウスニル。それが私の名前で、こっちは赤砂リクよ」

「ふむ。ハウスニル氏と赤砂氏か。覚えておこう。話が途切れたが、ハウスニル氏と赤砂氏ではずいぶんと歳が開いてるように見えるな。ハウスニル氏の方が年上に見える」

「どうも。でも私、普通に反応が鈍いだけで、内心ではいろいろと驚いているわよ?」

「ふふ。そうか? なかなかに喰わせ者に見えるが、そうしておこう」


 ソウナのこういう部分は、もしかしたら父親似なのかな。あの人がどういう性格をしているかわからないけど、遺伝じゃなければ王様とこんなふうに話せるだろうか。少しはディスの加護も入っていると思うが。


「さて、お話はこれで終わりね。私達はこれからすることもあるし、そろそろ行かせてもらうわ」


 いつの間にかソウナのアップルティーは空になっている。それを見越してソファを立つのかと思う。ボクのはまだ残っていて、残しては失礼だと思って慌てて飲みほした。


「そうだな。止めて悪かった。外に出たらバンダムを入れてくれまいか?」

「はい。わかりました」


 ソウナがもう部屋の扉の前に立っているので、ボクが代わりに答え、扉まで歩く。そして、扉を開けようとソウナがした時に、ボクは気がついた。


「そうだ。ウルシール王様」

「なんだ? 力のつけ方でも教えてくれるのか?」


 ウルシール王が少し自虐気味に答えると、ボクは肯定した。


「ええ。時間はかかると思いますけど、魔力を育てる方法です」


 教えてくれるとは思っていなかったのだろう。驚いた顔でこちらを見てくる。


「儀式なんてする必要ありません。人を殺す必要もありません。ただ、魔力をいつでも、どんな時でも解放しておけばいいんです」

「それは……何故かな? 解放しておくと魔力は少しではあるが消費し続けるし、何より魔力が回復しないだろう」

「しません。だけど、寝る時とかは回復します。魔力を解放したままでも、寝ていると回復するんです。そうすると、自然と体はもっと魔力が無くてはいけないと感じ、自分自身で魔力の受け皿を更に広げる様です」

「なんと……そのように簡単な魔力の上げ方が……」


 やはりと言うべきか、今までほんの少しも知らなかっただろう方法に目を大きく開けて驚いている。


「それでは失礼します。お話し、楽しかったです」


 お決まりの社交辞令で締めて、微笑んで頭を下げた後、扉を開けて廊下へと出て行った。外に居たバンダムがこちらを睨んでいたが、中でウルシール王が待って言える事を伝えると慌てて中へと入って行った。


「リク君。どうして教えちゃったの?」


 歩きながらだけど、簡単な質問をソウナはして来た。


「今回の作戦までに、少しでも死なないように魔力が上がって欲しいなって思いまして」


 ボクがそう言うと、ソウナはため息を吐いた。


「ホント。お人好しね、リク君は」

「そうですか?」


 別に、独占するつもりは無いから言っただけだけど……お人好しだろうか。


「ホント……。この戦争が終わった後とか、どうするつもりよ……」


 小さく、ソウナはボクに聞こえない音量でそう呟いた。


誤字、脱字、修正点があれば指摘を。

感想や質問も待ってます。

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