神様たちと再開
視点リクちゃんに戻ります
ボク達が転送された森を出た時、ライコウの国へと一度視線を向けた。
やはり白い塔が高くそびえ立ち、そこには禍々しい魔力が渦巻いている。魔力が見えるボクにとっては、その白い塔が雲に埋もれて最上階までは見えないけど、黒い粒子が絶えることなく舞い落ちているのを見てとれる。
「ドス黒い魔力……」
普通ならばそんな魔力なんて降ってくるの事態がおかしいだろう。だけど今は、あの最上階にヘレスティアの王が居ると思われる。
ヘレスティア王にはいろいろと疑問に残る所がある。
まず、七柱芯と五刑囚がかなりの力をつけているにも関わらず、全員をしっかりと操れている事だ。白夜と戦い、聖地を抜かれる前も、リリカと言う危険な女の人を『王の命令』と言うだけで退かせたほどの影響力なのだ。
次に、ヘレスティア王自身について、何の情報も得られていないと言うことだ。ミュアからタダものでは無いと言う事はわかっているがそれだけだ。
そして、悪魔を使役しているという噂。これもよくわかっていないが、七柱芯と五刑囚に悪魔がいないとわかっている今、この噂は真実だとは思う。
「あの塔。マジで嫌な感じだな。リクには黒く見えんのか?」
そんな時、キリが隣でそう聞いてくる。
「ええ。まるで、黒い雪です」
「それはちょっと暗くなる雪だね~。白い雪の方がウチはやっぱり好きだな~」
「白い雪しか見た事ないけどね。さ、早く行きましょう。キリさん、場所わかるんでしょう?」
この中で唯一ショウへの道のりをわかっているキリが先行するために、ボク達はその後を追って行くしかない。
「だけど、一つ気になる事があるね~」
マナはそう言うと、走りながら答えた。
「確か雁也……じゃなくて、ミュアさんの情報だと、あの無の世界。つまりは世界の塔だった訳なんだけど、あれさえ出せば後は世界崩落が進むんじゃなかった~? 悪魔をたくさん解き放って」
確かに、そうだ。世界を操れる塔ならば、世界崩落をさせることなんて簡単に一夜で出来そうだ。一体何故ヘレスティアの王はそれをしないのだろうか。
「そうね。ミュアさんが嘘をつくとは思えないもの。何かトラブルでもあったんじゃないかしら? それとも猶予を残して遊んでいる、とか?」
どっちもあまり現実的ではないが、それでも考えてしまう内容だった。
それはやっぱりヘレスティア王の性格を知らないと言うのが大きかった。
そこで、もう一つの現実的では無い考えがよぎった。
「世界の塔が、受け入れなかった?」
『古書』の文献では、あの世界の塔は人柱となったカリストとユミそのものだったと言うではないか。なら、二人がそれを認めずに塔の支配権を渡していないのではないかと考えたのだ。
「どの道、わからないけど、もし本当だったら、ユミさん達に感謝しなきゃ」
「だな」
キリの同意を得て、ボク達はライコウへと背を向けて走り出した。ここからあまり離れていないと言った。ならすぐにでも着く事が出来そうだ。
でもその前に。
ボクは懐から石を三つ取りだした。それを見たソウナが箱を取り出す。
「そう言えば、まだこっちに来てからパンドラには会って無いわね」
「ボクも、早く三人に会いたいですから。キリさんは……?」
「俺は寝てからだ」
寝てから、とは? なんて思うも、キリはキリで考えているようなのでボクはその石へと向けて魔力を込めた。すると、石はそれぞれ桜色、青色、枯れ葉色と光りはじめると、宙に浮かんで光が大きくなった。
その光がパッと弾けると、その奥からはボクが望んでいた姿の、春の女神、サオ。夏の女神、ツツ。秋の女神、ソメが揃ってその場にふわりと降りてきた。
――と思った矢先、ソメが真っ先にボクの腕の中につっこんできた。
「そ、ソメ?」
「…………」
一体どうしたのだろうかと疑問に思ったが、相変わらず人型となっている時のソメは何も言わずに、ただボクの胸の中に顔を埋めてジッとしていた。その行動にボクだけでなく、キリ、マナ、ソウナまでもが驚いていた。
「リク。あたしらにとっては久しぶりだけど、しばらくソメをそのままにしてやってくんねぇか?」
「理由は今からいくらでもお話します~」
「は、はい……」
ツツとサオに言われても、よくわからなかったが、抱きとめているソメをよく観察すると、震えているようにも見える。一体何があったのか。
その時、ソウナも箱を開けてメルムと再開を果たしていたが、彼女の様子も少しおかしかった。
「お久しぶりです、ソウナ様。御無事で何より……」
「ええ。貴方達は……なんだか、やつれているようにも見えるわ。一体何があったの?」
ソウナが直球にそう質問すると、メルムは重苦しそうに話し始めた。
「何者かが、あなた達四人と契約した神様を狙い、この七千年以上ずっと狙われておりました」
「「「「な――ッ!?」」」」
ボク達の間に驚きの声が生まれた。
どうして、ボク達と契約した神様だけを!?
「目的はさっぱりですよ~。でも、私達を狙うと言う事はおそらくリク様達と敵対している人達だと思います~」
「あたしらはあの後、それぞれ自分の家。まぁ神界へと帰ったんだぜ? そいつ、そこまで追って来やがった。悪魔か神か邪神かのどれかだと思うぜ。だからあたしら全員、この七千年以上ずっと逃げ回ってたんだぜ」
「仕事すら出来なかった……。みんな散り散りになったけど、会えてよかった……。ほんとに、よかった……う、うぅ……」
サオとツツ、ソメがメルムの内容を引き継いでそう説明してくれた。
七千年以上もずっと、追われていただなんて。ボクはそっとソメの頭を撫でてあげた。
「でもよ、だったらその襲ってきた敵って奴は、ここへ向かってくんじゃねぇか?」
そのキリの発言に、ボクもマナもソウナも、神経を研ぎ澄ませてあたりへと警戒の目を向けた。だけどそれらしい人はいない。
「それは無いと思います~。だって、私達はリク様がこの世界へと来たその瞬間から、追われていないのです~。おそらく、リク様達の前へと出る事を避けているのだと~」
ボク達の前に出る事を避けている、とは一体……。
だけど、ボク達と敵対している人と言うのは想像できる。
キリもマナも、ソウナもボクへと視線を向けて頷き合う所からすると同じ考えに辿り着いているようだ。
ヘレスティアの王。王が人間でなく、悪魔であると言うなら、七千年以上もそうしてきた事が納得できる。ボク達の力を少しでも削ぐつもりだったのではないかと思ったからだ。
「ヘレスティア王か~。あいつは何考えているか解らないね~」
「納得できるわね。ヘレスティア王が悪魔と仮定すれば、全て辻褄が合うし。ヒスティマの全土に悪魔を召喚したり世界崩壊をさせてないと言う所が疑問に残るけど」
でも、ヘレスティア王の計画は、そんな前から執行していたと言う事なのだろうか。それとも、時の魔法で過去へ行ったのだろうか。
後者なら、母さんが必ずと言っていいほど知っているはずだ。だけどミュアに調べさせると言った所から、それは知らなかったということだ。つまりは時の魔法は使っていない。となると、前者の計画が執行していたと言うことだが……。
「それにしても、ルナ様、ツキ様、シラ様、ディス様が御一緒されてるとは夢にも思いませんでした」
「どういうことだ?」
「あたしたちの中で、連絡が取れなかったのがその四人だったんだぜ? ルナも、ツキも、シラも、ディスも、全員連絡が一切取れなかったんだぜ」
「四人が連絡をとれなかった。それはつまり、やられてしまったと言う事?」
「あぁ。そう言うことだぜ」
「それと~。私達が狙われていると知ったのは、フィエロさんが襲われ、命からがら逃げ伸びた後に教えてくれたのですから~」
「命からがら!? フィエロ、それってどういうっ!?」
確かに、それはかなり危うい敵だ。フィエロはボク達が契約している神様の中でもかなり強い神様なのに、そんな神様がギリギリで逃げる事ができたと言うレベルだなんて。
「じゃあまさか、ルナの記憶が無かったり、ツキがヒスティマではなく、地球に居た理由や、シラが今までずっと転生して来た聖地の中にずっといた理由って……」
「ディスが神具として、私のお父さんが持っていたその理由も、ヘレスティア王だと言う事かもしれないわね」
本来の記憶さえあればフィエロよりも強いと思われるルナがやられる理由なんて、何処にもないはずなのに。フィエロが逃げ伸びれたのは、奇跡と言っても良い物だったのかもしれない。
ルナとシラに無理に人を殺めさせて絶望を与え、ツキをヒスティマから追放し、ディスを剣の姿として封印し、フィエロをあと一歩の所まで追い詰めた犯人。しかもどの神様も、昔の方が力が今の比では無いほど強いのだ。
ヘレスティア王と戦う時は、気を引き締めなければいけない。
「行きましょう。みんな。今ここで待って居ても、何もわかりませんから〈神速〉」
「了解。〈雷迅〉」「〈炎翼〉」「〈セイントウルフ〉」
三人をボクの中へと戻す。
もう移動するのに魔法は常識となったボク達にとって、ライコウからショウへと向かうのにすぐだと考えてその場から走り出した。
地面を蹴ると風が吹き抜ける。長い髪が後ろへとなびくのを感じながら平原を走り抜けていく。
一瞬で平原を駆け抜けると、次に待ってたのは森。更にそれを抜ける前に、前の方に列をなして行進をしている軍隊を見つけた。
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