帰還
お待たせいたしました、ヒスティマⅥです!
作者が思った以上に忙しいため、毎日更新できるかどうかわからないですが、どうぞよろしくお願いします!(・・;
そしていきなり視点はリクちゃんではなくガルムです。
太陽が高く昇り、強い日の光が俺達を照らす。
「おいおい。今回はどんだけ攻めるのに兵裂いてんだよ……」
友の言う言葉に、俺は兵隊の隊列を斜め上から眺める。
俺、ガルムと友のデルタはショウの城壁の上へと立っており、隊列を組んでいるヘレスティアの数に驚いている。ざっとニ、三千はいるだろうか。二ヶ月間一度もこのような量は見た事が無い。
「完全に潰すつもりか? 一番近い駐屯所はまぁここのショウだけどよ」
ライコウから一番近い国。それが此処のショウ。
ショウよりも近い中継所を作ろうと試みたのだが、途中で五刑囚のたった一人による襲撃を受けて大破。そこに居た兵士は命からがら帰ってこれた。兵士曰く、とある男に助けられたとのこと。誰かまでは教えてもらえなかった。
それから何度もライコウを占拠したヘレスティアに兵士を送り込むも、その全てが追い払われて、今はショウの病院に全員搬送されている。死んでしまった人もいるが、ほとんどが生きているのが不思議だ。
俺の予想だとカナが向こうにスパイを送り込んでいると踏んでいる。
「だが、あれを全て払わなければ。中に入られたらマズイ」
「ったりめぇだ! 中にはショウだけじゃない! 呼びかけて集まってくれた他の国から来てくれた女の子たちも居るんだからなぁ!! ぐふふふふ……」
気持ち悪い笑みを浮かべながら手元にある写真集を見始めるデルタ。
俺はため息をつきながら残りの男はどうするのかと聞いてみた。
「……男は?」
「は? ンなもん、自分で守りやがれ」
「……変わらないな……」
相変わらずなデルタに俺は首を振った。いつ死ぬかもわからない戦争だが、俺は力の限り戦うつもりだ。そうでなければ俺が俺で無くなってしまう。一か月前に突如現れたライコウの塔についても全てカナから教えられている。
世界の塔。世界その物を操る事の出来る場所へといける柱のような物だと言っていた。世界を操ると言う事で、簡単に言うと発動すると俺達全て操られてしまうと言うことだった。
今の所何の変化も無いが、いつやられるかもわからない。そうなる前に、ヘレスティアに勝たなければいけない。
「変わったさ……」
俺の言葉に、急にデルタがその写真集から目を逸らして顔を伏せた。
頭の中では、親友の死と言う物を思い出しているのだろうか。そう思うと、俺の頭の中もあいつの顔が浮かんでくる。
「……結局、この二ヶ月間ずっと連絡は無かったな……」
「ああ……」
親友、そしてその親友に付き従う戦友。
二か月前のライコウからの撤退作戦の時から一度も顔を見ず、そして連絡も取る事が出来なかった。おそらくその撤退作戦で死んだのだろう。全員が生きて帰れたわけじゃないのだ。俺とデルタだって死ぬ可能性があった。元ジーダス組、現ロピアルズの俺達四人の中で二人再開出来ただけでも奇跡だろう。ある者によっては二十人の隊の中で、一人しか生き残らなかった人もいたのだから。
ほとんど死んだとされる人を葬った者こそが鬼族の【囚人】リリカだと言う事を誰も知らない。
「さて、あの軍隊を一体どうしてやろうか」
「カナちゃんが言うには攻撃しに向かってきたら魔法弾による砲撃だったよな」
「もしくは、遠距離射撃ですデルタさん、ガルムさん」
俺達が振り向くと、そこには緑の髪を揺らす女、ミュアが立っていた。その隣にはリンスマリアと言うショウの兵士である女が立っていた。
「ミュアちゃん!? 一体どうしたんだ――ぶへっ」
ミュアに向かって飛び出したデルタのその顔を思いっきり片刃斧の切れない反対側の部分で飛ばした。
「私のミュアに抱きつこうとするなこの変態!」
「な、ナイス百合……グッジョブ……ッ!」
震える手で親指を立てながら、ガクッと力なく倒れるデルタ。そんな様子を見ながらミュアが肩を落とした。
「リン。そんなことしなくてもかわせたよ?」
「いやでも、少しでもミュアにこの変態が近づくのは納得行かなくてさ。部下だってことも納得行ってないのに……」
最近、ロピアルズ諜報会統治者になったミュア。撤退作戦で前統治者が死んだので、急きょ、彼女に決まったと言うことだった。俺はよくわかっていないのだが、このミュアこそがあの雁也だったって言う事らしい。
「それよりも、一体どうしたんだ? あいつらでも見に来たのか?」
「そうそう。それを聞きたかったんだよミュアちゃん」
いつの間にか回復して立ち上がるデルタ。その視線はミュアにではなく外から歩いてくるヘレスティアの軍隊に向けられている。
「いえ、あの軍隊を見に来たのではありません。その向こうです」
「「向こう?」」
俺達はヘレスティアの軍隊よりも、更に奥の方へと視線をやったが、居たって普通の平原が広がっているように見える。
ライコウからショウへとは長い森を抜けて、平原を歩けば着く。所々木々はあるものの、とても隠れる事が出来るような場所は無い。
「ガルムさん。門番に門を開けるよう言ってもらえますか?」
「は? お前、一体何を言って――」
そう言うと、ミュアはその城壁の屋上から急に走り出して門の外へと飛び出していった。
「ミュア!?」
「ミュアちゃん!? リンスマリアちゃん、一体ミュアちゃんは何をする気だい!?」
「私に聞かれても……。ミュアにきつくここを動かないでとしか言われてないし……」
リンスマリアも知らないとなると、これはもう独断としか考え用が無い。
――そう思った瞬間、別の考えが浮かんできた。
「…………。デルタ。門を開けるぞ」
「えぇ!? マジか!?」
俺は近くに兵士に言うと、門を開けるよう使いを出した。
「なんでだよ!? ちゃんとわかる様に説明してくれよ!」
「俺だってわからん。ただ……ミュア自らが動くとなると、これはまさかカナの直命ではないかと思ってな……」
「カナ? カナって……あれでしょ? ライコウの統治者。前にあの突然現れた塔について言ってた人でしょ? 今の小姫様にも普通に意見してる怖いもの知らず」
怖いもの知らずかどうかは置いておいて、リンスマリアにそうだと伝えた。俺はミュアが降り立ったその場所から軍隊へと向かって歩いていく姿を見た。
ミュアは軍隊の向こう側と言っていた。つまりその向こう側に答えがあるはずだ。そんなふうに思って俺は軍隊よりも奥。ライコウがある方面の森だ。
目を凝らし、一瞬たりとも見逃さないように目を開けていると……。
――突如として白い光が森の中から飛び出した。
「なんだ、あれは!?」
「敵か!?」
光は全部で四つ。白い土煙りを立たせながら物凄い速さでこちらへと向かってくる。
「どうしよう!? あれ絶対にヘレスティアの名付きだよね!? それしか考えられない!」
リンスマリアがそう叫んだ後、俺は疑問に思った。
なぜなら、俺達が動揺しているのと一緒に、ヘレスティアの軍隊も動揺していたからだ。
「何故だ? あれはヘレスティアの名付きじゃないのか?」
「おい……マジか……。あの髪……そして風に流れてくるいい香り……間違いない! 生きてた! あの子が生きてた!!」
「あの子? って待て。デルタは見えているのか? と言うか香りがここまで届くのか!?」
「俺が女の子を見間違うハズが無いだろう! そして香りはいくらでも想像できる! あれは、先頭切って走っている女の子は、間違いなくリクちゃんだ!!」
後でリクが聞いたら殺されるだろうその台詞と共に、一番前で走っていた白い光が魔法を放った。
――次の瞬間。ヘレスティアの全軍隊が為すすべ無く真ん中の道を開けるようにして左右へと吹き飛ばされていった。
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