一月二十五日 3 放課後殺人クラブの襲来
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早速で本当に情けないとは我ながら思うのだけれど、手持ちの情報ではこれ以上探りようがない俺は、後輩に助力を仰いで見た。アマツでさえ情報がなければ何もわからないのだ。ましてや俺をや。
「ふみゅう、協力するのはいいんですけど、どうして先輩は『メール事件』の犯人も追ってるんですか? 寧ろこっちの犯人は、先輩の味方なんじゃにゃい? と私は愚考いたしますが。 私、先輩の話を聞くまで、これは先輩がやってるんだと思ってましたし」
駄目だ、理解できない。早速馬脚を現すことになるが、俺は聞き返した。
「それは、どういうことだ?」
「この死者からのメール、自分達の代わりに放課後殺人クラブを探し出してくれって内容なんですよ。無念を晴らしてくれって」
なに? そういえば、死者からのメールの中身を確認してはいなかったな。もしかしてこれは、ただの死人を使った悪ふざけ……というわけでもないのか?
「実際、このメールで放課後殺人クラブの知名度って、爆発的に上昇しましたし、ネットでも今盛り上がってますよ。『放課後殺人クラブを探せ!』って。学園の皆がこういう方向に動くのは、先輩にとっていいことじゃにゃいですか?」
「そうだな……」
確かにそういうことであれば、俺がやっているんじゃないか、という推理は妥当だ。ていうか俺だけが荊原のアドレス知ってるんだし、もう完全に俺だ。俺が犯人なら、全てが丸く収まる。
けどその犯人が俺じゃないってことは、残念ながら確実だ。
だったら誰が? 一体何のために?
悪ふざけじゃないとすると、一向に分からなくなる。
「まぁそんなわけでとりあえず、先輩も『サイト』に登録してみましょうよ! 紹介制ですけど、そこはこの私めにお任せください!」
「サイトって例の学校裏サイト……だよな」
西園寺はかぶりをふった。
「いやいやいや! そんな『裏サイト』なんてワードでディスクライブされるほどダーティなスポットじゃありませんから! スチューデンツ達のリーガルでインテレスティングなサイバーコミュニティスペースですよ!」
なんか横文字並べて騙そうとしてないか? とも思ったが、確かに前から興味はあったし、放課後殺人クラブの情報がやり取りされているとあれば、登録しない手はないのかもしれない。
男は度胸か。
「よし、どうすりゃいいの?」
「イッツイージィ! とりあえず、私に先輩のアドレスを送ってください!」
ほいよ、と赤外線に乗せてアドレスを送ってみる。ついでに西園寺のアドレスももらった。
「……よーし、これでいいはず。後で先輩のケータイに、管理者から招待状が届きますから、それクリックして登録は完了です!」
あ、こいつ本人の許可なくサイト管理者にアドレス教えやがったな。登録にはそれが必要なんだとしても、やる前に一応断って欲しいんだけどな。まぁ、そんなことで一々めくじら立てても小さい男かな。迷惑メールきたら全部こいつのアドレスに転送すればいいや。
……ん、待てよ。
「なぁ西園寺、このサイトって登録するのに自分のアドレスが必要なんだよな?」
「うにゅ? まぁ、そうですねー。このサイトに限ったことじゃありませんが」
「つまり、このサイトの管理者は学園生のアドレスだけを、大量に入手できるってことだ」
西園寺は素の表情になった。いかにも頭が切れそうな……可愛いというより格好いい顔。しかしそれを見せたのはたったの一瞬だった。すぐにいつもの世紀末萌えキャラに戻って、
「はにゅん! ということはですね!」
「『メール事件』の方の犯人は、分かったな」
学校裏サイトの管理者こそが、犯人だ。それなら荊原、中尾君、エリュシオンのアドレスを知っていてもおかしくないし、呪いのメールをばら撒く為の学園生のアドレスも、豊富にある。つまり、人によってメールが来たり来なかったりするのは、その人がサイトに登録しているか否かということだ。アドレスを変更しても呪いのメールが来るというのも、変更したアドレスでこのサイトに登録しなおしたからだとすれば、なんの不思議もない。
間違いない。
これ以外はありえないという解答を、ひょんなことから閃いてしまった。
Q・E・D(証明終了)。とか、言ってみちゃったりして。
「うぉおお、噂に違わぬ名探偵っぷり、こいつぁとんだジーニアスボーイだにゃん……!」
「はっはっは、苦しゅうない」
アマツはいつもこんな気分を味わっていたのか。名探偵扱いされるというのはげに気分のよいものだった。もうこれからは自己評価改めちゃおうかな。こんな閃きするのが凡人じゃあ、謙遜通り越して嫌味として捉えられかねないしなはっはっは。
「あれ? でもちょっと待ってくださいよ?」
「どうしたワトスン君」
「先輩がこのサイトに登録したのってついさっきが初めてですよね」
「もちろん」
「じゃあ先輩に呪いのメールくるの、おかしいじゃないですか」
あ。
確かに、登録前に管理者が俺のアドレスを知っているわけないのだ。でも、肝心のメールはそれ以前に届いていた……。
……。
「砂上の楼閣でしたにゃあ」
言うな。そしてこっちを見るな。
しかしこの推理も違うとしたら、いったいぜんたいこの事件はどういうことになっているんだ。やはり俺ごときの才では、真実には至れないのか。
いや、もうそういう才能とか運命なんて便利ワード出して逃げないって決めたんだ。
あがく。あがいてやる。
実際この閃きはそう悪いものではないはず。『俺にはサイト登録前にメールが届いた』というたった一つの矛盾点さえ超えられれば、これ以外は考えられないほど有力な推理となるはずなんだ。
考えろ、諦めるな。俺はあのアマツの弟なんだぞ。寧ろ――できないはずがないんだ!
深い思考の海の中に沈潜してゆく。いつも溺れるのが怖くて引き返していた地点を抜け、更に更に、光を後に深く潜る。身を軋ませる難解さの圧力は耐え難い。俺の身体はこんなものに耐えられるようにできていない。それでも、心だけで進む。すると、
深海の底に、
――ふと、光明が見えた。
事件の理由、知られていないはずのアドレス、登録する前に届いたメール。全てを包括的に説き伏せる、真理の光。いや、でも、しかし、まさか、その推理の前提にはありえないことが含まれる。
問題は、どっちを信じるかということだ。
果たして信用に足るのは、俺の目か、それとも頭か――。
「先輩っ!」
「ごめん! 今邪魔しないでくれ!」
「それどころじゃないんですよぉ!」
それどころとはどういうことか、今滅茶苦茶核心を突きつつあったんだぞ。しかし西園寺の脳に響くアニメ声でぎゃあぎゃあやられると、どうにも思考が乱れてしまう。俺は諦めて、西園寺が指差す携帯の液晶を覗いた。
そこには、
『583 名前:名無しの学園生さん [age] 投稿日:2012/1/25(金) 17:00:37 ID:LYpIDS.I0 』
『私が放課後殺人クラブだ。管理人、お前は私に会いたいんじゃないのか?』
と、
なんと、
書かれていた。




