1月10日 ジェイソン蒼司とフレディ不二夫
一月十日
……あれからメールを出して見たのだけれど、荊原からの返信はなかった。まぁあいつもまめな方ではないだろうし、そこまで驚くことじゃない。というか、あいつが携帯を持ってること自体、意外なくらいだ。普通、あーいうキャラは持ってちゃダメだろ。勝手だが、『携帯スか? 持ってませんよ。必要もありません。自分、馴れ合いは趣味じゃないんで』くらいは言って欲しい。まぁあいつは好き好んで孤独を選んでるんじゃない節があるけれど。だからこそ不憫に感じてしまうのだけれど。
その点で言えば、アマツは期待を裏切らない。あいつ携帯はおろか、電子機器をなにももってないからな。そのせいで一々あのボロアパートまで出向かなきゃいけないのでとても不便だけれど、キャラ作りのためにはまぁ仕方ないのだろう。そうだ。携帯でキャラが崩れるなら、いっそポケベルとかどうだろうか。皆スマフォスマフォ言ってる中、さりげなくポケベル取り出したら滅茶苦茶面白くないだろうか? これならあいつの面白キャラも崩れないし、いいかもしれない。しかし今、ポケベルって売ってるのだろうか……? 思い立って手元の携帯で調べて見ると(便利な世の中)、ポケベルはもう全面的にサービスを停止しているらしかった。
はぁ。
うん、やっぱりキャラとかどうでもいいから携帯くらいは持ってて欲しいな。そして、返信は遅れてもいいからしてほしいな。
女々しい俺であった。
まぁ今日も今日とて、自分のクラスにいづらい俺は昼休み、一年三組を目指す。扉にはめ込まれた窓から、ざっと教室内をのぞく。荊原は今日も学校に来ていないようだ……ていうか良く考えると俺、すごいことしてるな。ドアにはめ込まれた小窓から教室の中をのぞいてるだなんて、ホラー映画のワンシーンじゃないか。なんだ俺は。実は俺の名前は三篠・ジェイソン・蒼司なのか。そういえばどうして、藤子御大は自分のペンネームを藤子・F・不二夫にしたのだろうか。藤子不二夫でいいだろ、別に。もしかしてヤツも、藤子・フレディ・不二夫なのか。
顔を離してから考えればいいのに、窓にべったり張り付いたままそんなことを考えていた俺は、教室の中から誰かの視線を感じた。反射的に目線をそちらに向けてしまう。
「ヒッ」
目線の先には、あの、よく怪訝な表情をし、異様に歩幅が小さい女子Aが、怯えて竦んでいた。
顔面蒼白だった。
まぁ彼女視点から見れば恐ろしい光景だろうな。さりげなく教室のドアを眺めたら、小窓から男がこちらを覗き込んでいたなんて。
俺は冷静にこの局面に対処した。彼女の恐怖を解くため、にこやかに笑い、手を上げる。そして親しげな声で、
「ハーイ」
と言った。
なんで、『ハーイ』……。
お前は欧米人か、それともイクラちゃんか、もしくはヘーベルハウスのあのキャラか!
冷静に考えると、先程までの冷静に対処していると思っていた俺は混乱していた。ハーイはない。そして手を上げた所で、こんな小さい窓からそれが見えるはずもない。彼女から見れば、小窓から教室内を覗いていたヤツがこちらを見つめ、笑顔で奇声を発するという恐ろしい光景だったろう。その証拠に、彼女は白目を剥いて失神していた。しかし、驚いて失神してしまうってのは、生存本能的にどうなのかね。
俺は騒ぎが広まる前にこの場を退散することにした。もしかしたら、この学校に新たな怪談が増えたかも知れない。




