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1月9日

 三 一月九日


 与えられたヒントは三つだった。

 一つ、三年前の事件と今回の事件の関連性を考えよ。

 二つ、中尾冬馬殺害現場にカードがあった意味を考えよ。

 三つ、放課後殺人クラブの殺人のルールを見出せ。


 ふむ。

 まず、三年前の事件とは、例外的に一年で二人が殺された事件のことだ。一人は薬で、もう一人は、首を絞められていた事件。確かに、言われて見ればこの年の事件は、今回の事件と似通っていた。どちらも、それまでの規則性をぶちこわしたイレギュラーな事件で、他の事件から抜き出してこの事件だけ、二つの独自カテゴリに放り込める。

 そういう視点に立つと……あれだ。

 三年周期。

 この二つをイレギュラーとして外すと、他の事件は三年周期で、定期的に起きていることに気づく。いやそう断定するには事件の数が少なすぎるが、まぁそう仮定してみよう。

 だとしたら、この二つだけイレギュラーな意味はなんなのか。何か、特別な事情でも関わっているのか? うーむ。しかし、このイレギュラーな事件を無視して、かたくなに元の三年周期を守っていることには、何か、放課後殺人クラブのこだわりのようなものが感じられる。その二つは、あくまで予定外であって、本意ではない……みたいな。三年周期、これが三つ目の殺人クラブの『ルール』なのだろうか。だとすると、今回の事件もイレギュラーであるが……けど……。

 うーん。

 次に二つ目、中尾君殺害現場にカードがあった意味、について考えてみる。これは彰も指摘していたことだ。彰は『中尾を最終的に殺したのが、塔矢君たち三人組ではない』という視点に立つと、この問題は解決すると言っていたけれど……。

 ふむ。

 言われたときは全然分からなかったが、なにか今日は頭が冴えているようだ。つまり、カードを置いたのは塔矢君たちではなく、謎の真犯人であるとしたら。

 気づいてしまえば、なんていうことはない。もしも、中尾君を殺した自覚がないのなら、悪ふざけにした所で、カードを置く意味なんてない。中尾君が死んでいて、その場を離れないことを確信していなければ、カードなんて『おかない』のだ。中尾君が生きているのであれば、当然その場を離れるのだから。本人への嫌がらせにしたところで、電灯もない公園で夜中、そんなカードに気づくはずもない。このカードは、明らかに死体の第一発見者へと向けられているのだ。

 つまり、そこから導ける真相は、こうなる。

 塔矢君たちに殴られ、公園でうずくまっていた中尾君を、何者かが襲い、殺す。そして真犯人は、カードを残し、その場を立ち去った……。そういえば、これまでの事件に、犯行声明を書いたカードが残されていたなんて話は聴いていない。

 ……ならば、そうか。

 俺は自分のひらめきに、身震いするものを感じた。

 中尾君の事件に、『放課後殺人クラブは関わっていない』のだ。

 周期から外れ、例にない犯行声明。殺人様式こそルールに従っていても、不自然な点がありすぎる。つまり、中尾君を殺したのは模倣犯なのだ。

 でも。

 なんで真犯人は、放課後殺人クラブの名を騙ったのか? 放課後殺人クラブを警察は捜査しない、なんて伝説があるが、普通そんなこと信じない。自分の筆跡を残すなんてリスクを犯してまで、どうしてそんなことをしたのか。

 うーん……。

 第一の事件のからくりは読めてきたけれど、それがどうエリュシオンが殺された、第二の事件、ひいては真犯人に繋がっていくのかが分からない。というか、余計ややこしくなってきたぞ。

 ……これ以上は俺には無理みたいだな。

 そういえば、アマツは言っていた。このヒントを最大限に活用しても、俺には絶対、犯人へ到達することはできないと。

 ……なんかそう言われると、できるものもできない気がするよな。やる気なくなるというか。マイナスプラシーボ効果というか。大体、事件はもう終わってるらしいし、俺が犯人を挙げる宿縁もない。


 うん。凡人は凡人らしく、分からないまま事件の解決を待っていればいいんだ。


 ○


 まぁ乗りかかった船だし、協力くらいはしてやろう。そう思って昼休み、俺は荊原のクラスである一年三組へと出向いてみた。

 実を言うと、この間のアマツの一件のせいで、多少教室にいづらいと言うのもある。

 あくまで多少だけどな!

 階を一つ下り、一年生の教室が並ぶ廊下に着く。三組は階段のすぐ隣のクラスだが、俺は教室に入ることはせず、しばしドアの前で待った。自分のクラスでもないのに、我が物顔でずんずん入っていく奴なんて、アマツと荊原くらい、つまり変人だけだ。ましてや他学年のクラスとなったら、この方法が一番正しい。

 ガラッとドアが開かれた。教室から出てきた女子に、声をかける。

「あーちょっとごめん」

「え、なに? ……あ、ごめんなさい。なんでしょう」

 制服の肩口に縫いこまれた学年色を見て、すぐさま敬語に切り替える女子。よかった、マトモな人だ。俺は安心して、用件を頼む。

「悪いんだけど、ちょっとこのクラスの荊原ゆうひ、呼び出してくれないかな? あ、俺は荊原の友人で、怪しい者じゃないんだけど」

 まぁとはいっても、自分から『怪しいものです』と名乗る不審者もいまい。俺は念のため軽く自己紹介して、学生証を見せた。荊原とは言え一応女子を呼び出すので、少し気を遣う。

 それでも見知らぬ女子Aは、怪訝な表情で俺を見つめていた。

 ……あれ、もしかして警戒されてる?

 いやしかし、女子Aの怪訝な表情は、そういうことから来る物でもないらしい。

「荊原……荊原ですか」

 女子Aは、失礼ですが、クラスをお間違えではないですか? と聞いてきた。そう言われると不安になってくる。しっかりメモ取って覚えたわけではないしなぁ。

 うーん。

 いくら荊原と言えど、一年間同じクラスだった奴に、その存在すら認められていないなんてことは考えづらい。結局俺は、勘違いしてしまったのだろうと考え、女子Aに礼を言った後、別のクラスへ行ってみた。

 まずは四組。

「荊原……?」

 じゃあ二組。

「変な苗字ですね」

 ええい一組。

「浅原ならいますけど」

 ……あれ?

 おかしいな。これで全部のクラスを回ったはずなんだけど。あいつ実は、俺にしか見えない妖精さんだとでも言うのか?

 ……まさか。

 俺は一息ついて、再び三組に向かう。この時点でオチは少し読めていた。

 丁度折り良く、さっきの女子Aが扉の近くに座っていたので、手招きして呼び寄せる。少し馴れ馴れしいが、そのほうが話が早いだろう。

 女子Aは、耳につけていたイヤホンを外して、とてとてと近寄ってきてくれた。

「はい?」

「あー度々ごめん。ちょっとこのクラスのさ、出席簿見せてくれないか?」

「出席簿……ですか?」

 怪訝な表情をしながらも、分かりました、と言って女子Aはとてとてと教壇へ向かってくれた。それにしてもこの子の歩幅は短いな。おもわずとてとてと表現したくなってしまう。そういえば、歩行音といえばアレだ。なんでドラえもんとかタラちゃんとか、アニメのキャラは歩くとき謎の音が出るんだろうな? 暇な時は、あの効果音を文字で表すとしたらどうなるか考えてると、いい感じに時が過ぎるぞ。

「あ、先輩、どうぞ」

「ありがとう」

 女子Aにもってきてもらった出席簿をぱらりとめくる。荊原……は「ば」だから、えーと、あいうえおかきくけこ……。五十音をあから順繰りにじゃないと思い出せないのは、いつか必ず直したい。まぁそう思い続けてもう五年くらい経つのだけど。そんなことを考えながら「の」の段の次、「は」段に目を走らせていると、案の定、荊原ゆうひの名は、そこにあった。

 別に隠されているわけでもなく、堂々と、当然のように。

 ていうか当然なのだけど。

 もう後三ヶ月で学年も変わろうというこの時期に、まだ存在を認知されていないなんて、どんだけ影薄いんだよ……。『存在の耐えられない軽さ』。そんな言葉を俺は想起した。もうあいつはスパイでもやればいいと思う。

 ん。

 しかし、今日は結局荊原には会えなさそうだ。出席簿を見ると、荊原ゆうひの今日の出席欄には、大きくバツがついている。つまり休みと言うことだ。なんだろう。別にあいつもそれほど馬鹿というわけでもないし、風邪でもひいたか? そう言えば巷では例年通り、インフルエンザが流行っているとも聞く。しょうがない、後でメールでもして様子を伺ってみようかな。別に心配と言うわけではないが、それくらいの義理はある。ほら、お見舞いにも来てもらっていたわけだし……。  

 うーんそれにしてもあいつ、一人暮らしだったか。もし本当に風邪でも引いているのなら、治るまでそばに居てやろうかな。病気で心細いだろうし、こういう時はいろいろと助けが必要だろう。いや別に心配しているわけじゃないんだけどさ。

 ホントだぞ!

 

 俺はよく怪訝な表情をし、歩幅が異様に短いい女子Aに礼を言い、三組を出た。荊原が捕まらなかったので、生徒会棟にでも行くか、と思いながら。


つづく。


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