1月8日 2
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「だから、無理なものは無理なんだって!」
俺は右手にはめた腕時計を気にしながら、ひょこひょこ付いてくるアマツに叫ぶ。
「はぁ情けない奴ね、お前は。男なら無理の一つや二つ、通して見せるものでしょう?」
さっきからアマツは、自分を学園に入れろと言って聞かないのだ。部外者であるアマツを学園に入れる許可なんて、しがない一介の学生である俺にできるわけがないのに。俺はもう一度ダメだ、付いてくるなと後方に言い放って、すたすたと公園を出る。しかしアマツは当然のように、まだ着いてきていた。
「はぁ、そもそも私がこんなところにまで足を運んでいるのもお前のせいなのよ蒼司。お前がくだらない事件の話なんてするから、気になってしまったんじゃない」
ん? 待てよ。事件が気になったったって言ったのか、今。
俺は足を止め、アマツに振り返る。
「お前昨日は、事件はもう終わったって言ってたよな?」
「ええ、確かに。そしてそれは事実ね。私は嘘を言わないもの」
だけど――とアマツは続ける。
「犯人がまだわかっていない、とも言ったはずよ。お前だって、私との付き合いは長いのだから、私の性分くらい分かっているでしょう? 一度思考を開始したら、それが完全に分かるまで止まれないのよ、私は」
ああ、なるほど――。俺は言われて合点がいった。だから自ら学園に侵入して、必要な情報を得ようと、そういうわけか。そういうことなら、俺もアマツを学園に入れるにやぶさかではない。アマツによると事件はもう終わっているらしいが、犯人が捕まっていないのに事件が終わりというのもなにか、安心できないでいたのだ。万が一の時のためにも、犯人を突き止めておくことには賛成だ。
ただ、どうしようかなぁ……。
俺は少し距離をとって、アマツの全身を眺める。
黒いハイネックのセーターに、同じく黒いタイトなジーンズ。外出用の黒いコートは地べたに寝転んでいたため、ところどころ茶色くなっている。カラスの巣の中へなら侵入できそうだが、どうひいき目に見ても学生や搬入業者には見えない。というか、これはどこからどう見ても浮浪者だ。事前に連絡を貰えれば女子用制服を用意することもできなくはなかったのだが、さすがに今からでは、その辺の女子の身包みを剥ぐくらいしか手に入れる方法がないし……。
うーん仕方ない。
俺はポケットから携帯を取り出し、アドレス帳から、ある人物の番号をプッシュする。俺の場合神には虫のように嫌われているので、困っても頼めない。だから代わりに、邪神に頼むことになってしまう。学園に巣くう、ハイテンションな邪神に。
会長との通話が始まったころ、無情にも学園から、朝のホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響いた。
つづく




