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1月8日 1

 二 一月八日


 なんとも、人を食ったような話だ。

 始まったと思ったら勝手に終わり、また始まったと思ったら既に終わっているとは。少し残念と言うか、肩透かしの感がある。いやまぁ、これでもう人が死なないというのは、喜ぶべきことなのだけれど……。いや、心中表現でおべっかをつかっても始まらない。自分に正直になろう。いつか自分で、凡人は世界に振り回されていれば良いなんて思ったりもしたが、これはあまりにひどいのではないか神よ。俺はさすがに不貞腐れた。もうお前がどんな事件を起こし、どんな奇妙な状況に俺を放り込んだとしても絶対に驚いてなどやるものかと固く心に決める。かまってしまうから調子に乗るのだ。こういう奴は無視するのに限る。

 そんなことを思いながら険しい顔つきで朝食のサラダをもしゃもしゃ咀嚼していると、既に時刻は八時二十分を回っていた。これはまずい。朝のホームルームは八時四十五分開始であるのに、この家から学校までは徒歩で三十分はかかるのだ。だから、普段は八時には家を出るようにしているのだが、今日は時間を誤ったらしい。もしや神の奴が俺を驚かせようと時を加速させたのではないか……と勘ぐるも、そうであるなら過小評価が過ぎると言うものだ。この程度のことで動じる俺ではない。別にバイクを使えば間に合うからだ。

 俺は一口でサラダの残りを口にいれ、もしゃもしゃ口を動かしながら母親に「もしゃもしゃす!」と爽やかに挨拶をして玄関を出る。口に物をいれたまま喋るんじゃないという母親の叱責が背中から聞こえてきたので「もしゃもしゃ!」と謝った。ガレージを開け、キーを差込みエンジンを始動させる。本当はエンジンが充分温まるまで動かしたくはないのだが、今日はそんな余裕もなく、愛車には少し無理をしてもらう。メットを被り、上着のボタンを首まで留め、スロットルを開く。そういえば昔はエンジンを始動するとき一々「スチョライクフリーダム、システム起動!」とか言っていたものだが、いつの間にか言わなくなってたなぁ。

 いつもは徒歩で歩く道を、比べ物にならない速さで駆け抜けて十分。悠々と学園の前につく。しかしこのまま学園に乗り入れるわけにもいかないので、裏にある雑木林みたいな公園にバイクを隠しにいく。あまり来たくはない場所だが、背に腹は代えられない。もうアマツからの終息宣言もでたことだし、今度と言う今度はこの珍妙な事件も終わりだ。まさか再び、この公園で死体を発見することはないだろう。いや、『だろう』なんて、そんな弱腰の言葉でなく、そんなこと、『絶対に』ないのだ。いや別に、これはフリじゃないぞ? いいか神、絶対に押すなよ?

 しかし何か、嫌な予感がしていた。

 俺は恐る恐るバイクを転がし、公園に入る。鬱蒼とした樹木が日の光を遮っていて、中に入ると一気に暗くなる。一度死体を発見した場所だからか、俺の心臓は早鐘を打ち始めた。もうその辺の適当なところに留めたかったが、外から見える場所に置いておいて盗まれてもことなので、嫌々ながら奥へ奥へと踏み入る。

 けれど案の定、ちょうど死体を発見した木下に着いても、なにも不審なものは見当たらなかった。最近の俺の嫌な予感は恐ろしい精度を誇っていたので緊張していたが、どうやら杞憂だったようだ。俺はほっと息を吐いてスタンドを立て、チェーン入りの鍵をタイヤに巻きつける。ふと時計をみると針は八時三十八分を指していた。少し急がなければいけない。

 俺が公園の出口に向かって右足を踏み出した、その時。


 ――ぐっ、と左足を掴まれた。


 全身が総毛立つ。感情は全力で拒否しているのに、生存本能は反射的に頭を左斜め下へ動かし、足を掴んだソレを見てしまう。

 視線の先には、黒尽くめの女がいた。

 思わず「ううぉああああ」という悲鳴が口から出る。よく悲鳴は「きゃあああ」という表現がなされるが、人間本当に驚いたときは「ううぉああああ」だと思う。美少女がそんな驚き方をしたら興ざめだが。

 ってそんなことは全力でどうでもいい!

 こんな暗いところで幽霊に足を掴まれたら、もうそれはどうすればいいんですか! ていうか昼間でも暗ければいいんですか! 昼は寝床でぐーぐーぐーじゃないんですか水木しげるの嘘つき! 俺は混乱していた。混乱して大御所に喧嘩を売ってしまったような気もするが、混乱中のことゆえご容赦願いたい。 

 ……ん、待てよ?

 大御所に喧嘩を売ってしまったショックで冷静さを取り戻した俺は、さっきから感じていた違和感に気づく。そう、ここで死んだ中尾君は男だ。とすればこいつは誰なのか?

 冷静に観察して見ると。

 幽霊女は「うらめしやー」と断続的に喚いている。

 平成も二十四年たった今日び、まだうらめしやーですか。それで何年食ってくつもりなんですか。テンプレにもほどがあるんじゃないですか。しかもちょっと演技が棒じゃないですか。    

 それに……

 俺は幽霊女に向かって、冷ややかに問いかける。


「足があるようだが?」


 びくっ、と幽霊女の動きが一瞬止まった。そして、


「足なんて飾りだわ。……凡人には、それが分からないのよ」


 と声がした。

 最近の幽霊はガンダムネタまで対応可能なのかよ、やるなーと俺は感心する。ていうか正体が分かった。


「手を離せアマツ。遅刻してしまいます」

というか、お前なんでこんなところにいるんだ。


つづく


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