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1Access 六つの光







AM8:27.KURENAI.RYO






「起きなさーーーーーーいっ」


爽やかな目覚めは、玄関方より響いた元気ハツラツな大声によって破壊し尽くされる事となる。


「さっさとーーー」


「落ちろおおおおおおっ!!!」


Access。


簡易次元歪曲スキルーーー

「グラビティ」


「彼女」の右腕に装着されているデバイス端末によって、それは功を奏する。


「うわぉぉぉぉぉっ!!!?」


刹那、身体全体に大きな重量、重力が集まる。


朦朧としていた意識は、一変既に臨戦体制と化してしまっていた。


そのまま高いベッドから転げ落ちてしまった。


「お目覚めか?主人公」


それを傍俺のベッド上で見下ろして、最低な迷言を吐く大馬鹿野郎。


なあ?どうしてお前が勝手に土足で俺ん部屋上がって枕元の漫画読んでんだよ、そして大笑いしてんな!!!


毎朝毎朝…気だるい俺の気持ちも考えろよ。


「お早う、気分はどうだい?」


こいつもこいつで。居間でコーヒー飲んで落ち着きながら

首傾げてるんじゃねぇよ優男。


靴は…脱いでる。でも勝手に飲むなよっ!!!


「……おはよう、おやすみ」


三角座りで、俺の寝癖ボサボサの髪をつついてくる少女。

そのままこく、こくっと何度か頭を落として、そのまま寄りかかってきやがった。


倒れんな。お前は起きろ。


「せーんぱいっ!早く起床しないと、遅刻しちゃいますよー?」


分かっとるわ!!!


ああ…でも、この楽しそうで無邪気な笑顔を見てると、恨めないんだよな……と、騙されるな。これは二枚目だ!!どうせ鏡の前で何度も練習させられたに違いない…そうだ、そうに違いない。


「ったく…うっさいなぁーーー毎朝毎朝」


穏やかにさえずり鳴いているひぐらし達が、朝から鳴り止まぬたんたんとしたリフレインをくちずさんでくれる…てなことはまず起きない。


俺ーーー天照 戒斗の眠りの妨げとなれば話は別だ。


願うのは一つだけ。


鳴り止めぃ裂声。この俺の眠りを邪魔していい権利など、貴様等などには与えられる筈が無い!!!


「じゃ、早く起きればいいじゃない?フーンフフ~ンフーン」


分かったならそのやかましい音楽を停止させろ、今すぐ終われ、さっさと早くお願いだから!!!


朝っぱらからこいつらは…まだいつもの二時間前だぞ。


ーーースイッチオン。




…まあ、こんなお願いを小動物にしたって耳を傾けてくれる訳が無いのは分かっているのだけれど、何故だかこいつら、嘲笑っている様に聞こえないか?


無論それは幻聴だろう。小動物なんぞに意志など、魂など心など無いのだから。しかし俺には聞こえる。


求めたから生まれた力じゃあ無いのだろうが。


例えばこいつ等なら。


起きろ、起きろ、遅いぞ何を呑気に寝ているか起きろーーー的な。


その様が鬱陶しくて、不快で。


・・・・

いつも不完全さを覚える。


笑っちまうよな。聴こえてしまうものは仕方ないのに、笑うな、嗤うな嘲るな罵るなお前等消えてしまえーーーなんて。


人は一人にはなれない。させてくれる奴もいない。


こいつ等の声が聞こえるがゆえに俺の叫びは届かない。聴き取るのは容易でもこちらの想いを伝えるのは今までの経緯もあって不可能だ。


その上誰もこの感情を知らない。訝しげるしかできないその音相に、らしく怒りや憎しみが淡々と湧き出てくる。


俺達人間日本人男そのものがないがしろにしている感情である、と思える。


全く別の概念でありながら、根本的な造りは合致している


「…やめた。しがいないにも程があるだろ」


…と、まあ。中二病的な発想は無しにしておいて。


「小動物ごときに大事な人生の時間を無駄に消耗しているなんて考えただけでも恐ろしいしな」


少女の頭を撫でながら、ふと思いにふけった。


俺達人間の寿命は多く見積もっても平均約87歳。


で、現在俺の年は17。


あと70年しか生きられないってのに、何をもたもたしているんだ。俺は時間を戻せない、だからこそ今を有意義に生きなくちゃいけないってのに。


人生というものは、どの方向に転がっても儚いものだとおもってしまう。


87年生きられるとして、実際その人生はそれだけ。


ただ学校に行ったり、仕事をしたり、休んでネットしたり、彼女とイチャラブしたり、子供を産んで子を育て、孫が産まれてそれを見送って……。


そうして、何が楽しい?


普通の人生なんてまっぴらだ!!




「…あー、兄さぁん?

…駄目だこりゃ。いつもの病気が出た」


「ボーッとして、どーしたの?」


「いやぁさ……人生の儚さを説いていた所なんだよ」


「…はぁ?」


心底呆れたように。嘆息する幼馴染と大馬鹿野郎。


「安心しろ。お前には絶対にわからない話だから」


「…そうよね。そうだそうに違いないわ。はいわかりましたー


ポップアップメニューに、本日のProgram、カリキュラムの割り振りが施されているので、従って行動お願い致します」


右腕の端末を振ると、時間割表が眼前に飛び出た。


「うぎっ……skyシューティング

が二科目かよっ」


「だっせぇ。反応速度を試す?

んなモン何に役立つんだよ」


ベッドより立ち上がって誰にいうでも無く。


「ざっけんな根性無し先公共が!!!!」


「ガラトゥス……気持ちは分かるけど、ここは抑えてくれないか」


「んだよ?お前はいいのか?」


「僕はもう仕方ないと諦めてるしね。胡散臭い先生の馬鹿げた話を聞いてると、こっちまで頭が痛くなる」


「つまり、面倒臭い事は先にして終わらす。それこそが速攻」


「うわ…以外と腹黒いですね」


「ちっ…んじゃレイ、お前どう思う」


「……私、言われても」


眠たそうな寝ぼけ眼を擦りながら、少し躊躇って。


「お空、綺麗」


ぽけーっと。何処か遠くを見ている眼で現実を見ていない。


「…これ以上は、話に入り込まないつもりだね」


「精神だけは屈強だな。レイも成長したな~っ」


頭撫で撫で。


「ー~~~っ!!!」


照れた様に巻グセのある金の髪の毛をくるくるする仕草は、既に見慣れた光景である。


俺達六人は、全員何らかの理由があって、ここ、紅寮に集っている。


紅寮は外見は古い一軒家だが、中身は一転、亜空間へと繋がっており、それぞれに部屋は割り振られているのだが、何故かここは5LDKと広いので。

今や六人の集会場所となっている。


全員が同じ学園に通っている仲間なので、そうギクシャクしたりはしない。


家族を無くした者。


紅 美紅。17歳。


この紅寮の寮母で、いつでもどこでも元気ハツラツ。


昔からの仲、俗に言う幼馴染であり、このメンバーの初めの二人でもあった。


ピンク寄りの赤い髪で、古来の大和撫子とかいう黒髪の女性なんて絶対に思い浮かばれはしない。




故郷を追放された者。


鮫島ヒロト。17歳。


紅寮三人目のメンバー。


この家の前で倒れていたのを見つけ、家で美紅が介護してあげた所、こいつの何処に惹かれたのか、恋をしたらしく住み着いている。


すっごく、もう男である俺ですら恥ずかしくなる程のイケメンで。羨ましい事この上ない。


それに付け加えヤサ男だから、一週間に一度は告られる。


その度に振られる女の子を見ているのが、今の俺には辛い。


故郷を追放された…と言っていた。プライバシーなので深くは込み入っていない。


「ヒロト、お代わり頼める?」


美紅がコーヒーカップを手渡す。


「無論」


早いっ!!!!?


いつも笑顔を絶やさず、物言いも柔らかい。


ゆえ、キレた時の怖さは半端ない。マジ怖え。





暴力事件を起こし過ぎて、居場所がなくなった大馬鹿野郎。


本人曰くガラトゥス。

こちらも同じく17歳。


ふざけている様な物腰だが、中身は案外キッチリしている。


押す時は押すし、引く時や引く。単なる能無しではないという事だ。


「んーー?おい、お前なんかすっげぇ悪口言ってねぇか?」


「んー?煙草って美味いか?」


「んだよ、あったりめぇだ」


「馬鹿かっ!!!!」


こいつだけはずっと本名を言わないでいるが、何故か恨めないタチで、不可思議すぎる。


読めないーーーそれだけだ。




記憶を無くした者。


如月レイ。17歳。


如月という苗字は美紅が付けた名前で。


物静かで、時には的確なツッコミをいれてくる五人目の住人。


記憶喪失ーーーこの時代には珍しい病気だが、患っているのは

ただの記憶障害ではなく、


・・・・・・・・・・・

永遠に思い出せない時間。


二度と蘇る事は無いと、この子はそう言っていた。





淫らな教育を施された者。


柊 月夜。16歳。


普通に可愛い。ショートカットの紫髪。


こいつについては、話したくない。


見たくも……無かったんだ。


ただ、悲しかった。


何も出来なかった自分が、酷く恨めしかったんだ。


だから、俺はこいつを守る。


あの日、背負った十字架をーーー

いつまでも、背負っていかなければいけないと思ったから。


「せーんぱいっ!今日もお疲れ様です!!」


「…ああ。お前もな」


それぞれがそれぞれを何よりも信じているがゆえに、裏切りなんて絶対起こらない。


ここは、そういう奴等の寄せ集め。初めはたった二人でもの静かだったが、今では騒がしい毎日だ。淋しいなんて感じた事がない。


「さっさと身なり整えなさい。

さもないと置いていっちゃうわよ?」


「そーだぜタイショー。あ、この漫画もーらいっ」


漫画が粒子化され、奴の右腕に取り込まれーーーって!!!


「勝手に取り込むな!!!」


「…ちぇ、ケチだな。んなんじゃぜってぇモテねぇって。もっと広い心で接しろよ」


「お前に心開いてたら色んなもんもってかれるわっ」


この世界ーーー地球、日本。


20XX年、8月6日。


今、全世界は超高度経済成長を遂げている。


あんたらの時代じゃ想像は出来ても実物はまず見る事はないだろう。世界の粒子化ーーー。


ありとあらゆる万象全てが、データによって構築されている。


自然、建物、衣食住から生活全て。


車は空に浮くし、人が空を飛ぶのも日常茶飯事。


勿論、本当に全てという訳ではない。


生まれた頃より法律で装着が義務付けられる携帯端末、

超小型転送通信端末GRS。


学校に必要な用具などをしまい込んで、必要な時にアクセスすればポイポイ取り出せる。

まるで平成時代の猫型ロボットの様だよ。


既に通貨は無く、SP(セルポイント)と呼ばれるGRS通信で受け取る金銭で売買は成立する。


先程もあったように、俺達の学園では授業によってポイントが割り振られる事もある。


そんなデタラメな均衡が保たれている理由は、ネットワーク上のグローバル化。


学区外に出ると、SPの奪い合いまでもが日常茶飯事。


Duelーーー一般的にそう呼ばれる、自分たちを粒子化して一体一で勝負する、言わば闘いだ。


勝った方が相手のSPを奪い、負けた者は逆に払わなければいけない。


そんな世の中で、学生達を育成する機関が学園だ。


日本には80かそこらしかないと言われている。


無論、この中で誰もが同時に入学できていた訳じゃない。


俺達の中じゃ、毎日ガラトゥスが勝ってポイントを貯めてくるか、他の誰かが学園で競り落としてくるか、バトルシュミレーシュンタイプの授業で掠め取ってくるか、そのくらいしか収入源が無いのが現実。


バトルシュミレーシュンやDuelのアイテムは、SPで売買可能。


主にスキルと呼ばれる摩訶不思議な力は、正体は詳しく記されていない。


つまり、いつ破綻してもおかしくない状態なのだが。


「はいはーいっ。おしゃべりはそこまでっ!!今日からやっと新学期。気を引き締めていこう!!わかったわね?」


「いや、無理だし」


「死ねやぼけ」


「うわ腹黒いっ」


こうして、皆しっかりと生きている。


「さ、さっさと行くわよ!

今日も稼ぐわーーーっ!!!」


Access、ランチャー。


「さっさと出て行きなさーーーいっ!!おりゃああああーーー!!!!!」


ミサイル連続発射。


ランチャー。

一発10SP。


ネット上、ボタン一つで売買可能。


×10。


一気に全ての家具をGRSに回収し、一瞬で着替えて部屋を出る。


「やばっ」


「せんぱい!置いてかないで下さいよおっ!!?泣きますよ!?あたし泣いちゃいますよぉぉぉっ!!!?」


「ん、じゃーな」


「……カイ」


亜空間が崩壊し始める。


「んじゃこんな所でSP使って武器出してんじゃねぇーっ!!!」



慌ただしい日々だが、これでいいのだと思えた。


これが、俺達の日常なんだと、

そう思えたから。






「ーーーで、着きました」


塔の様に高い学園だ。しかし見慣れたので解説スルー!!!

正面入り口を抜けて、さらに

昇降口を抜けると、まず目に入ったのは一面青の世界。海。


水族館の様に、壁の中に魚介類の動物がうようよ存在している。とても幻想的で、寄って触ってみようと手を壁に近づける。


「相変わらず広すぎるな……こりゃあ低学年は迷うな」


そして、俺はトイレに行っていたので皆とはぐれてしまったという始末で。


「やばっ……遅れるッ」


こんなことしている暇は無いと、血走っているであろう目で、前を見ずに全力疾走していく。


「ダーーーーッシュ!!!」


どーーーーーんっ!!!!


そしてーーー。


ーーーーimportーーーーーーー


Harth.an.



fastrizerーーーーーーcomprite.





それは未来。

それは過去。

それは永久。


これもまた、然るべき時に行われた処置、ならば。


然り、目の前にはーーーー。


「いっーーーッッッ……!

おいっ、大丈夫か!?」


「大丈夫……じゃない」


赤髪で、とても可愛らしい女の子が、ちょこんと仰向けに倒れておりましたとさ。




1Access END

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