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暗躍する者達

 エリア七とも呼ばれている高間エリアは、九園エリアや八待エリアと共に都内でも多くの企業が存在する、高層ビルの立ち並ぶ場所だ。現在の時刻は夜の八時を回っているが、この三つのエリアは人の行き交う姿が途絶える事はない。

 

 その中央に、『高間シティタワー』という高さ百二十メートル、横幅五百メートルからなる巨大な建物が存在する。百階層の内には多くの企業が存在し、ショッピングモールや展望台、レストランなどといった公共施設も備わっているその建物は、会社の人間だけでなく一般の人間がこの建物に足を運ぶ事も少なくない。

 

 建物内にいくつも存在する高速エレベーターの横には階層毎に会社や施設の名称が記されているのだが、どこも四十五から四十九層だけは何も書き込まれていない。違和感を覚える者もいるだろうが、一般人なら公共施設に、会社員なら仕事に来ているのだから、そんな些細な疑問は皆すぐに忘れてしまう。

 

 そこに、反政府組織『コロイド』の拠点があるとも知らずに。

 

 品質の良い黒のスーツを見に纏った三十代の男性は、エレベーターに乗り込むとポケットから小型の端末を取り出し、階層の記されたボタンの横にある蓋を開けて中にあるプラグへそれを差し込んだ。すぐに五桁の番号を入力して、男は階層の表示されていない筈の二桁、四と六のボタンを一回ずつ押した。

 

 高層エレベーターには一から九までのボタンしかついていない。目的の階が二桁の場合、ボタンを二度押す必要がある。(十四階なら一と四のボタンを押すという具合だ)

いくつも存在するエレベーターの内、一台のみに取り付けられているプラグに、コロイドで指定された小型端末を差込んで十秒以内に決められた五桁の番号を打ち込み、四のボタンを二回押すことで『行けないはずの階層』への出入りが可能になる。

 

 男を乗せたエレベーターは静かに上昇を開始する。頭上にある数字のプレートが徐々に進んでいき、やがてそのプレートは数字の記されていない階層で止まった。

 

 もし上の階層でエレベーターを待っていた人物がいたのなら、それを不自然に思うかもしれない。しかし、在るはずのない階層に人が降りるわけがないという先入観。そして実際に、条件を満たしていなければ止まらないという仕組みのおかげで、人々の頭に疑問として残る事は殆どない。

 

 エレベーターから降りると、所々に明かりの点いている薄暗い廊下が現れる。視界の遥か先にまで続く道を男は迷うことなく進み、最奥部にある扉の前へとやってきた。

 

 再び小型端末で番号を入力すると、扉が音を立てて開いていく。

 

 光が溢れ出し、男は眩しそうに目を細めた。瞳に明るさを馴染ませつつ歩を進めると、真っ先に視界に入ってきたのは大きな円卓のテーブル。そしてそこに腰掛ける数名の男達の姿。

 

 その男達こそが、プログラムに反発する反政府組織『コロイド』の幹部達だった。


「既に情報は聞かされていると思うが、後をつけさせていた構成員二名がやられたそうだ」

 

 切り出したのは入ってきたスーツの男だ。空いた座席に腰掛けながら、他の男達に話しかける。

 男達の表情は優れない。予定通り事が進まなかったからというのもあるが、事前に他の構成員から情報を知らされた幹部の人間達は、戦闘の際に使われた扇野の力をどう攻略するかに悩まされている。


「コード・ギャザリング。……厄介な力だ。他者の式をコントロールし、異能の発生さえ無効化してしまうとは」

「それだけならまだいいだろう。殺しの手段は何も異能だけじゃないからな。本当に気をつけるべきは異能の無効化ではなく、構成員二人をあっさりと倒してみせたあの戦闘能力だ」

「『最強』の二つ名を持つ扇野蓮哉を彷彿とさせる近接戦闘能力。加えて式を掌握するコード・ギャザリングか……」

「くそっ! 扇野だけじゃない! 牧夜や堤も殺すのは用意ではない連中だ。プロジェクトゼクスを実行させるには、どうしてもあいつらの力が障害になると言うのに!」

 

 苛立ち混じりに吐かれた言葉に、他の幹部達も眉間にしわを寄せて溜息をつく。打開策の浮かばない話し合いは、ただ場の雰囲気を沈ませていくだけだ。

 このままでプロジェクトゼクスの発動も難しい。ここにいる殆どの幹部がそう思い始めていた。

 

 ただ、不敵に笑う一人の男性を除いて。

 

 周りの幹部達がいずれも三十を越えているのに対して、その人物の相貌は、まだ二十代になって間もないように見える。が、落ち着き払ったその態度は年齢よりも彼を大人びて見せていた。

 

 コロイド内でその男は、Kと呼ばれていた。

 

 静かに立ち上がったその男、Kへと幹部達の視線が集まった。話し合い(というよりはターゲットの悪態)が中断され、部屋の中は静寂に包まれる。


「皆さん、何をそんなに焦っているのです? 我々にはアレがあるではありませんか」

「……確かに、まだ我々にはアレがある。しかし、アレはまだ未完成で……」

「分かっていますよ。ですが手段を選んでいる場合でもないでしょう? セフィラ・コードを持つ者を殺せれば、我々の目的は達成したも同然。何より、革命を成し遂げるのに多少の人間の犠牲もつきものです」

「…………」

「手配は私の方でしておきましょう。では、失礼」

 

 席から立ち上がり、Kは背を向けて部屋を後にした。狂気的な笑みを、顔に張りつかせながら。

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