第三話:”何か”な私
”何か”を見ることができないハカセに、私は誕生日からの出来事を全て説明した。ハカセはこんな電波な話でも真面目に聞いてくれる。やっぱ言い奴だな、ハカセ。
「つまり、そこには夏美そっくりな幽霊がいて、
その子は夏美の恋人探しにきてくれたってこと?」
「要約されると、私もいたたまれないけど、そんな感じ。
とにかく、ハカセ。早く成仏させるやり方考えてよ。」
成仏なんて、酷いです!夏美さん!って声が聞こえるけど、幻聴扱いにしている。興奮すると体が中に浮いちゃうらしく、目の前をグルグルとまわってうっとおしい。
ハカセが”何か”に透けて映ってる所ととか、清々しいぐらいに気持ち悪い。
「うーん、とはいっても、僕は直接彼女の話が聞けないしなぁ。
夏美の方は何か心あたりがないのかい?
えっと、その……こ、恋する相手……とかさ……。」
「ば、馬鹿っ!何、照れてるのよ。
心あたりあったら、ハカセには相談してないし。」
「そ、そう。でも、夏美は話せるんでしょ?
それなら本人に聞くのが一番なんじゃないの?」
それは最初にやった。だが、それは断じて認めない。
「それ以外だと、でもそうだなぁ……うーん。
あ、そうだ、幽霊さんに、夏美の体つかって、話してもらえないかな?
憑依っていうの?幽霊さんならそういうの、できそうじゃない?」
「こ、こら!変なこと言わないで!」
私は慌ててハカセの口をふさごうとしたが、間に合わなかった。なるほどっ!みたいな顔をした、お姫様っぽい”何か”が私を見るなりむけた笑顔。このお姫様、とんだ小悪魔だわ・・・。私は一歩一歩せまってくる何かに壁際まで追いつめられた。
「い、いやっ……ちょ、ちょっとこないで……。
は、ハカセ!み、みてないで、た、助けて!」
「え、えっと、僕には見えないから何がなんだか……。
そ、そこに幽霊さんがいるのかい?」
駄目だ、目の前のこのお姫様っぽいのを認識できないハカセじゃ役にたたない。そうこうする間にも、お姫様っぽいのは私に少しずつ近づいてくる。
「ダイジョウブ、イタクシナイカラ」
その声は氷のように冷たく、その時の顔は私の心胆を凍りづけにするぐらいに、冷たく、妖しく、恐ろしかった。何かは私の中をすり抜けるように入ってきた。
「あっ、馬鹿!こら、勝手に体に入って……あんっ……。」
冷たい氷を体の表面から体内に押し込まれたような感覚が、体中に駆けめぐる。凍えるように熱く、焼けるように冷たい。私にとっては1時間以上は苦しんだと思ったんだけど、後でハカセにきいたらものの、10秒程度だったらしい。ともかく、その冷たさと熱さが収まった時に、目の前は異様な光景が展開されていた。つまり、目の前には顔真っ赤なハカセと、青白い顔をした私がいた。肝心の私は、”何か”になっていた。
藤堂夏美。霊能力者レベル2。憑依ができるスキルなんていらないし。