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夏姫  作者: ぱんだまる
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第一話:”何か”と私の誕生日

 最初は、夏の日差しのせいかと思ったんだ。それは必ず誕生日の日に限るんだけど、ぼーっと視点をどこに向けるでもなく眺めていると、ふと何かが見えてしまう。それが”何か”から”人らしい何か”に見えそうになると、私は無意識に目を背けてしまうので、結局は”何か”のまま、今までの誕生日は過ぎ去っていった。そして、本日も”何か”が見えてしまう、7月23日の誕生日を迎えることになる。


藤堂夏美(なつみ)、今日から17歳の人生を歩み始めます。所で、余談ですが、”なつみ”の由来はお察しの方もいるかもしれないが、誕生日の7月23日からつけられてしまっている。あまりにも安易な理由だったので、それを聞いた私は親にくってかかった。猛烈に、夏の日差しのごとく。すると、私の父は、夏のように輝く美しい女性になってほしかった、と言い直した。明らかに言い直した。その話をきいた後、私は父とは3ヶ月は口をきかなかった。祖父母の口添えがなければ、今も絶交中だったと思う。


 そんな私も大人になり、誕生日も笑って祝えるようになっている。もう17才になるのだ。いつまでも過ぎたことをグチグチ言わない大人の女性になるのだ。


「なつみー、今年は誕生会やるんだったら、俺も誘ってくれよ」


「何、はかせ。呼んでないし」


 今日は家族でお祝いしましょ、と言われてやってきたお茶の間のテーブルには何故か、クラスメイトのハカセがいた。ハカセってのはもちろんあだ名なんだけど、みんなハカセとしか呼ばない。恐ろしいことに、学校の教師ですらハカセと呼ぶ。そんな彼は長谷川博士(ひろし)。まぁハカセであることには違いない。

 ハカセとは幼なじみ何だけど、ハカセは重度のオタクさんだから、恋愛フラグは立たない。立てない。それは間違いない。でも相談には乗ってもらう。人見知りするだけで、根は言い奴なんだ。まぁつき合いが長いから情が移っちゃったな。


 昔は幼なじみのよしみでハカセをよく誕生会に招待してあげた。でも、723(なつみ)事件以降、私は3年間、誕生日をやる気分にはなれなかった。「なつみおめでとー」と言われる度に、今日、この日の何がめでたいんだ、と荒んでしまうからだ。


 でもでも、これじゃ如何と、決して好きな人と祝うイベントを1つ失うのが惜しいとかそういうことではなく、大人の大人が故の寛大な心で、命名の由来を洗い流して今日を祝おうと思うのだ。この際、ハカセが呼んでもいないのにいるのには目をつぶろう。


「はかせ、居てもいいけど、大人しくしてなさいよ」


「うんうん、大人しいよ。僕。

 あ、おばさん、僕ケーキはチョコレートの方がいいです」


 ホント、図々しいったら・・・。


 そんなこんなで主役の私が帰ってきたところでお誕生日会が始まりました。とりあえず電気を消して、ろうそくつけて・・・ってやるんだけど、ここで、お誕生日恒例の”何か”が見えちゃったものだから、もう大変。


「はっぴばーすで~とぅ~ゆぅ~♪」


 誕生日の歌が寒いのか、クーラーが利きすぎているのか、やたらと首筋がひやりとしてくる。さっきまでアツイアツイと思っていた、夏の夜はどこへやら。


 

「はっぴばーすで~とぅ~ゆぅ~でぃあなつみ~♪」


 日本人の発音でHappy birthdayっていっても何だかなぁって思うが親がやりたがるのだから仕方がない。そんな風に気を紛らわせても、目の前の”何か”はどんどん明瞭に姿を現してくる。暗闇の中、ロウソクの灯りというのが、いかにもまずかった。まるで、お越しくださいと誘っているようだ。馬鹿、私の馬鹿!何で大人になって誕生日会なんか開いちゃったの!


「はっぴばーすで~とぅ~ゆぅ~♪」


 今までは見ないようにしていたためか、”何か”と呼べていたものは、私がロウソクを吹き消すまでまってはくれず、とうとう、私は、それに、人の形を見いだした。


「オタンジョウビオメデトウ、ナツミ」


 それは、誰が言った言葉だったのか。今となっては確かめようがない。その日から、”人の姿をした何か”と向き合うことになったのだった。

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