私と親父
きっといい事があるさと一生懸命生きてきたつもり。
悪い事なんか何もしてない。
そう胸を張って生きていく自信もある。
なのに、何で私以外の人間は私を非難するのだろう。
小さい頃から努力してきた。
母は家を出て行って帰ってこないし、父は借金を作る天才だったし。
借金返済の分しか稼がないダメ親父。
毎月の食費もままならなくて、中学入った時からもう私は働き始めた。
違法だけど、一番儲かる方法で、稼いだ。
そうやって稼いだお金も親父は自分の借金の返済に回そうとした。
だから、家を出た。
それからは、一人で暮らし始めた。
世の中には金があれば、未成年だろうと何だろうと、何とか暮らしていける。
それに、救いだったのは私が多少は美形だったという事だ。
街角に立っていれば携帯なんて必要ない位にお客さんは寄ってきたから。
そんな事を6年間続けた。
高校には行ってない。
中学も卒業式にはでていないから、卒業の資格があるかどうかは怪しいものだ。
18になった時。
風営法に基づいたお店に入った。
ここの方が自分にとって安全だと思ったし、もう顔が知れててここら辺じゃ中々商売できなくなってしまった事もあった。
寮が完備だったから、今までの家賃が浮くようになった。
固定客がついて、収入も安定するようになった。
なのに私の心は不穏だった。
何故かは解ってる。
お客の一人のあの男。
筆卸に来て、一生懸命だったあの可愛らしい男。
給料日には必ず通ってくれる上客。
そこまでで気持ちを止めて置けなかったのは私のミスだ。
アイツは何でも話したがる。
今日あったこと、面白かった事、悔しかった事。
取り留めのない話を時間ギリギリまで話していた。
普通の女として、私は扱われた事がない。
そういう対象でしか扱われた事がない。
だから、どう答えて良いか解らなくて、返答に困った時でも気にせず話してた。
何だかそれが無性に面白くて、返答もしないのに笑っちゃった。
アイツはそれを見て更に嬉しそうに笑顔を作った。
その笑顔を見るのがいつしか楽しみになっていた。
月に一度、給料日にしかあいつは来ない。
私は高いから、月一しか来れないと言っていた。
だから、月に一度アイツの笑顔を見ることが私の唯一の楽しみになっていたんだ。
その店も3年で辞めた。
親父が来たから。
私を連れ戻しに来た。
通帳がほしいだけの癖に。
世間体が何とか言って結局辞めさせられたって言うのが正しいのかもしれない。
世間体って何?
あんたがしてきた方がどうなのよ。
そう思っても、世間ではそういう商売には厳しいらしい。
結局家に戻らされた。
通帳もハンコも取り上げられて、9年間貯めてきた貯金も使われた。
親父は借金がなくなったといって小躍りしていた…。
親父の家に帰っても私のいる場所はない。
近所のオバハンは常に私の見張り役のような存在だったし。
家の中まで覗かれているのではないかという錯覚に陥りそうになる。
どこに行っても視線を感じる。
どこに行ってもヒソヒソという押し隠したような声が聞こえる。
話してる内容は想像がつく。
・・・私が何をした?
小さい頃からひもじい思いばかりをしてきた。
満腹感を感じた記憶なんて無いに等しい。
だから中学を入学した時から自分の食い扶持は自分で稼いだ。
体を売るしか出来ない年齢だった。
親父がまた、私にひもじい思いをさせようとするから、だから家を出た。
もうひもじい思いをしたくないから、だから家を出た。
一人で暮らすにはお金がいった。
だから、一番稼ぎやすい方法で稼いだ。
何が悪いの?
そんなに町ぐるみで見張られる位私は悪い事をしたの?
唯一安らぎを与えてくれてた人とまで親父の都合で、もう会えなくなってしまった。
本当に唯一の存在だったのに。
そこまでされてまで、私はこいつの面倒を見なくてはならかったのだろうか?
目の前で転がっている親父を見てふいにそんな事が脳裏をよぎる。
もう息をする事はない親父。
私からもう何も奪わせない。
私をもう縛り付けさせない。
努力を努力と認めてくれないような、そんな親はいらない。
蛇の道はへび。
薬なら大概の種類は手に入る。
無味無臭の猛毒を、お酒の中に入れておいた。
だって、私から通帳を取り上げて、借金を返済する時に私と約束したから。
酒はもうやめるって
だから、私は最後の賭けをした。
親父が本当に約束を破らなければ、このまま一緒に暮らしていこう。
もう一回親父を信じてみよう。と。
約束を破ってまた酒に手をだしたら、私はもう親父には縛られない。
一日も守れなかった親父。
約束したその日に、酒をあおって逝った。
涙も出て来やしない。
私から全てを奪った親父は、
人生そのものを、自分自身で奪ってしまった・・・。
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