表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
94/155

第二十幕:新月の夜に・・・・・・・・

長安に在る城。


その城にも皇帝の寵姫達が暮らす後宮は存在する。


だが、生憎と今の後宮には数名しか住んでいない。


後宮を覗いてみよう。


ガランとした廊下を進んで行けば、幾つかの部屋が在り・・・・・・・更に奥へ行けば、また部屋が在る。


幾つ部屋があるか分からないが、その内の一部屋から声が聞こえるではないか。


『・・・・・・もう、いりません』


『もう、ですか?まだ、こんなに残っているんですよ』


『何だか、身体が重くて食欲が湧かないんです』


『そう言えば、最近は気分が優れませんね。ヨルムンガルドさんも・・・・・・・・・・・』


『姫様、典医殿に診てもらっては?』


部屋の中からは数名の声が聞こえる。


その内三人は女性で、同い年くらいの声だ。


残る一人は男の声だが、三人より年上と思われる。


扉を開けて、中に入ってみれば・・・・・・・・・


麗しき娘が三人居り、一人の娘に二人の娘が心配そうに見つめていた。


その娘は二十歳になった位だが、容姿が人間ではない。


銀と紫と言う有り得ない髪色をしており、一本一本も艶やかで絹みたいだ。


服装は高貴な者が着る黄色などを使用していた。


対照的に二人の娘は、人間らしい容姿---黒髪に黒眼だった。


そして三人の傍で控える者が居た。


年齢は三人より年上で、十歳程度だから兄などにも見える。


鎧から察するに、それなりの地位に居るのだろう。


四人そろって、口元を抑えて眼前にある料理を食べられない、と称した主人である娘を心配そうに見つめる。


その娘の左手には一匹の蛇が巻き付いているも、四人から見れば以前より元気が無い。


娘の名は織星夜姫、と言い蛇の名は北欧神話に出て来るヨルムンガルドだ。


二人の侍女は朱花と翆蘭と言い、男の名は文秀である。


この四人は夜姫の臣下、と言えるだろう。


文秀は一度こそ死んだが夜姫に蘇らされて、朱花と翆蘭の方は董卓から任命されたが、夜姫自身---正確に言えば月の瞳を宿した、夜姫に任命されたのである。


話を戻すと、ここ最近の事だが夜姫は元気が無い。


元から大人しい性格だが、日を追うごとに食欲が無くなって行き、身体も鉛のように重いのだ。


ヨルムンガルドも最近は水さえ碌に飲まない。


まるで・・・・・力を失い掛けているようだ。


「ごめんなさい・・・・・もう、身体が重くて、食欲も湧かないんです」


夜姫は口元を抑えると、軽く息を吐いた。


「夜姫様、やはり典医に診てもらいましょう」


文秀が膝をついて夜姫に言う。


「いえ、そんな事は・・・・・・・・・・・」


「ですが、ここ最近の様子は明らかに変です。どうか、一度で良いので典医に診てもらいましょう」


彼にとって夜姫は新しい主人だ。


その主人が、こうも弱っていては見ていて辛い。


「文秀様の言う通りです。夜姫様、やはり典医を呼びましょう」


「そうですよ。一度だけでも診てもらわないと」


金色に赤い宝石を付けた腕輪をした侍女---朱花が言えば、同じく金色に青い宝石を付けた腕輪をする侍女---翆蘭が言う。


「・・・・・では、お願いします」


三人に押し切られる形で夜姫は承諾した。


「では、私が・・・・・・・・・・・」


文秀が立ち上がり、部屋を出て行く。


朱花と翆蘭は料理を片す為に部屋を辞した。


一人となった夜姫は鉛のように重い身体を、寝台に横たえたくなる。


「何で、こんなに身体が重いのかしら・・・・・・・・?」


こんな事は初めてだ。


いや、この世界に来てからは、だ。


向こうの世界---自分が居た世界では月の無い夜---新月の時も身体が重かったが、ここまで酷くない。


せいぜい微熱程度で、だるくなるだけだ。


所が、ここに来て初めて新月の夜を過ごすが・・・・・自分の居た世界より症状は酷かった。


「ヨルムンガルド、貴方も大丈夫?」


とぐろを巻いて、舌を弱々しく出す蛇---ヨルムンガルドを空虚な双眸で見た。


ヨルムンガルドは縦眼の双眸を向けるが、やはり弱々しい。


「どうして、かしらね?新月の時に弱まるなんて・・・・・・・」


このまま寝たいと思った時である。


ガチャ、と扉が開く。


「あ、お帰りな・・・・・・・・・・・」


文秀か、朱花と翆蘭が帰って来たと夜姫は思い声を掛けようとしたが、雰囲気が違う事に言葉を止める。


だが、部屋に入って来た者は違う。


「久しいな。天の姫---いや、織星夜姫」


男の声だ。


聞いた事があるが、雰囲気が前と違う気がした。


何だ、この禍々しい気は・・・・・・・・・


「覚えているか?俺を何度も地面に倒して、冷たく見下しただろ?この・・・・・・飛将と言われた男を、な」


飛将・・・・・・・・


「あ、貴方は・・・・・呂布」


夜姫は初めて部屋に来たのが男の名を口にした。

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

|

夜姫は呂布の名を口にしてから、身体を硬直させた。


頭の中に・・・・・この男を何度も倒した光景が浮かんできたのだ。


『私が、飛将と謳われた呂布を・・・・・倒したの?』


あんな風に・・・・・・しかし、途中で眼が見えた時に、出会った真紅の髪を持つ女と呂布が会う光景も見えた。


あの女は・・・・・・・・・・


「どうした?この俺に怖気づいたのか?」


呂布は夜姫を見て、口端を上げて嗤ったが・・・・・・・・・・


「・・・誰に対して、そんな口を叩けるのよ」


薄らと夜姫の眼が空虚から月の瞳になる。


「ほぉ・・・・それが、あの女---妹が言っていた姉の貴様、か」


真紅の髪をした女は夜姫の妹だ。


そして、その女が言うには月の瞳を宿した方が姉らしい。


もっとも転生したから、どちらも姉だと言うが・・・・・・・・・


「あの女---私の妹が小細工をしたのね?」


夜姫は立ち上がり、右手で髪を梳いた。


「左手は使わんのか?嗚呼、そうだな・・・・・左手は使いたくないのだな。その布が良い証拠だ」


呂布が更に嗤った。


「・・・・相変わらず性格が悪いわね。私の妹と良い勝負よ」


スウ、と夜姫は月の瞳を細めて傍に置いてあった無骨な両刃の剣を取る。


「さっさと消えなさい。自分の部屋を血で汚したくないの」


「断る。貴様は何度も俺を虚仮にして、更には見下した。だから、決めた・・・・貴様を倒して、俺の女にする、と」


「前にも言ったけどタイプじゃないの。それでも来るなら来なさい・・・・・大事な部分を切り落として女にしてあげる」


「それも断るが・・・・・場所を変えようじゃないか。断るなら大事な侍女が死ぬぞ」


おい、と呂布は声を扉に掛ける。


すると・・・・・・・・・・


『ひ、姫様!!』


兵隊二人に拘束された朱花と翆蘭が現れた。


「・・・・人質を取るなんて、飛将の名が泣くわね」


「知るか。他人の御下がり名など俺は欲しくない。欲しいのは天将と貴様だ。さぁ、場所を移動しようじゃないか。そうすれば・・・・・二人は解放してやる」


「・・・・・・良いわ。今度こそ、貴方の息の根を止めて後顧の憂いを断つわ。その後で、妹に“お仕置き”するから」


夜姫はバッ、と動いたが、呂布が速く背を向けて扉に向かう。


そして人質とされた朱花と翆蘭を合わせた計六人は・・・・・・後宮の廊下を歩き出す。


残されたヨルムンガルドは弱々しかった舌を・・・・・強くして、更に縦眼の双眸で“笑った”のだ。


“くくくく・・・・・愚かな事を。新月の時に姫様を狙うのは褒めてやるが、逆行を利用して勝利を得るのが得意だと忘れるとは、な”


誰かの声がしたが、部屋には・・・・・・ヨルムンガルドしか居ない。


つまり、彼が喋っているのだ。


“これで覚醒は早まる。同時に・・・・近衛兵の二人と弟子二人が肉体を手にする。そして我と兄上、斥候二匹の力は増す”


そうすれば・・・・・・こんな城など一飲みだが、それは夜姫が望まないだろう。


“姫様も恋多いな。しかし、あの董卓は使えるな。いやはや・・・・・覚醒前とはいえ、既に相手を虜にする術を会得するとは流石ですな。我らが主人”


戦の舞姫にして、戦場の女王・・・・・そして・・・・・・・・・・・・


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ