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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
81/155

幕間:腹違いの兄弟

次から本編に入ります。

袁術の天幕を後にした閻象は直ぐ様、袁術の下へ行き袁紹と交わした内容を話した。


「・・・・今日の夜だな」


「ですが、簡単には手を組みそうにありません」


あの様子だと確実に嫌みの一つか、二つくらいは言う事だろう、と閻象は推測する。


だが、袁紹としても今の状況を打開したい気持ちの筈だ。


それは確実に判っている。


しかし、だ。


「・・・用心した方が良いですね。あの様子だと手を結んでも、それは夜姫様を助け出すまでの間、と考えるべきです」


恐らく夜姫を助けて、董卓を倒すまでは手を組むだろうが・・・・・それを過ぎれば、同盟は破棄となる。


運が悪ければ、その場で殺し合いか、夜姫を強奪する事だろう。


そんな禍々しい気が袁紹には感じられたのだ。


「分かった・・・だが、袁紹とて夜姫様の気持ちを踏み躙る事はあるまい」


「恐らく。もし、夜姫様の気持ちを踏み躙れば、それは天に弓を引くも同然。それどころか味方の群雄達の反感も買いましょう」


現在、袁紹に仕える群雄達---この時代の群雄達は俗に言えば、地方豪族に近い性質を持っている。


いつの時代でもそうだが、封建社会において地方豪族と中央政権の争いは起こり得るものだ。


そして乱世となれば、自分の家と土地を保守する事が前提となるのは当然の帰結である。


袁紹は名家の当主で、人望や実力もあるし、広大な土地も支配していたから、自然と豪族たちも従っていた。


だからこそ、夜姫を力付くで手元に置けば・・・・・少なからず反感は買うだろう。


誰もが欲しがる娘の夜姫だが、力付くで奪いたい衝動と、出来る限り手荒な真似はしたくない、という衝動の二つがある。


どちらかと言えば後々の事も考えて・・・・・・出来る限り手荒な真似はしたくない。


もし、それを破り力付くで奪えば、やはり周囲の反感は必定だし、夜姫本人の気持ちも悪くなる。


そんな真似はしないだろう、と袁術は推測するし、閻象も同意見だったのだが・・・・・・・・・・


「あの方は優柔不断です。そして貴方様に夜姫様の寵愛を奪われた、と思っております」


「夜姫様は特定の人物に寵愛など・・・・・・・」


「えぇ、確かに夜姫様は特定の人物を寵愛しておりません」


袁術の言い分は理解できるし、それは傍に居た閻象も理解している。


「ですが、周囲は見てませんし、まして貴方様のような男に奪われる形になったのですよ?」


袁家の当主ともあろう者が・・・・・・・・・


「・・・・悪かったな。こんな男で」


閻象のバッサリした言い方に怒りを覚えながら、憎まれ口を言うが・・・・・・・・・・


「御理解して助かります」


閻象は涼しい顔で頷き、更に続きを喋り出した。


「貴方様を始めとした我々は周囲から妬まれております。そして、あの方は二度も言いますが優柔不断です」


「そうだな・・・・なるほど。あ奴の優柔不断を利用して、自分の考えを実現しようとする者が居る訳か」


閻象は自分の主人が導いた答えに頷いた。


「その通りです。恐らく袁紹様の側近の何人かは・・・・・強気に出て、夜姫様を奪えとか言うでしょう」


優柔不断な彼だから、舌が達者な者なら容易くやれるだろう。


「となれば・・・・・どうするべきだ?一時的に手は組むとしても、それからの事だ」


「その点については孫堅様と話をするべきでしょう」


三人の中で唯一領土を持っていないのは劉備だけだ。


だから、ここで閻象は劉備を外したのだが、袁術は首を横に振る。


「いや、劉備も入れる。夜姫様にとって劉備は父だ。孫堅も同じ事だろう。彼が唯一の妻子持ちだからな」


「なるほど。まぁ、貴方様の場合は父と言うより・・・・・傲岸不遜で過保護な兄、と言った立場ですからね」


「そこは認めるが、兄という立場は気に入らんな」


「まさか、夜姫様の夫にでもなると?」


袁術の言葉に閻象は疑問を投げ付けたが、袁術は首を横に振った。


「あの方は夫などいう“形”嵌ったものを嫌うだろう。あの方から言わせれば、兵達一人に対しても慈愛で接する」


「なるほど・・・・要は皆が家族であり、臣下であり、兄弟であり、想い人達である、という事ですか」


「そうだ。あの方の眼を見て、そう感じ取った」


「どうして普段は愚劣な程に悪い手とか出すのに、こういう時は鋭い事を言うんですか?」


普段から切れ者なら自分だって要らぬ世話を焼いたりしない。


それ所か自分の本業に専念したい所だが、普段は愚劣では酷過ぎるが、良い手を打たないから自分が尻拭いをしている。


「貴様は本当に辛口だな。そのくせ仕事振りが良いから、私は恥を掻くばかりだ」


「自分で掻くんですよ。それはそうと・・・・・・袁紹様を刺激しないで下さい」


あの様子では何かしらの拍子で“鶏冠とさかに来る”、と閻象は伝えた。


「というと、親指を噛んでいたのか?」


腹違いの兄弟---袁紹は何かあると必ず親指を噛んでいた。


それは嫌な事---自分にとって嫌な事が原因である。


袁術も似たような癖はあったが、今ではやっていない。


どうやら袁紹の場合は続いているようだ。


自分の主人が言った言葉に閻象は頷いた。


「・・・・・閻象、私の身に何か遭ったら後は頼むぞ」


「御意に。ですが、流石に貴方様を殺す事は有り得ないでしょう」


そうなれば同盟破棄どころの話ではない。


「どうかな。あの男は一度でも怒れば、見境という物が無くなる。それが自分にとって一番大事な存在なら尚更だ」


「・・・・やはり夜姫様は我々にとって、薬であり毒ですね」


彼女の存在で、ここまで道のりが険しいのだから無理もない。


「確かにな。では、夜になるまで暫し私は休ませてもらうぞ」


「私は孫堅様と劉備殿と話し合いをします。では、お休み下さい」


閻象は袁術に頭を垂れてから天幕を出た。


しかし、ふと視線を感じて空を見上げる。


カー・・・・カー・・・・


二羽の鴉が自分を見下しているではないか。


「・・・・私を、見ているのか?」


どうも二羽揃って見ている気がする。


気のせいではないだろう。


その鴉だが、自分を一度だけ見ると長安に向かって飛んで行った。


「・・・・夜姫様の臣下、だろうか?」


今にして思えば夜姫は動物に好かれる、と言っていた。


狼であるフェンリルが良い例だ。


野生の狼が人間に懐くなど有り得ない。


しかも、大体は群れで行動する。


例外として群れを出た若い狼だが、あの様子を見る限り若くはない、だろう・・・・・・・・・・


と言っても、動物学者ではないから正確な事は判らない。


話を戻すと、狼であるフェンリルは何処からともなく現れた。


そして迷わず夜姫に近付いた、と言われている。


それからは夜姫の傍から離れず、常に護るような立場に居た。


夜姫が董卓の軍を撃退した時も、傍にいて砂埃を上げて錯乱しようとした敵に対して見事に策を破った。


今は劉備の所に居るが・・・・・彼の狼以外の動物も夜姫の臣下ではないのか?


あの二羽の鴉も、だ。


もし、そうなら・・・・・・・・・・


「夜姫様は天から来た姫君ではない、な」


天なら神々しさと清らかな印象を持つが、天よりも遥か上に位置する存在の物は違う。


神々しさ、清らかさ、神秘さ・・・・・どれも天より遥かに上だ。


同時に妖しい、禍々しい、不吉さ・・・・・などの意味合いもある。


それを考えれば、フェンリルなども閻象は納得できるのだ。


しかし、それは仮説に過ぎない。


そして今は孫堅と劉備に話をする時だ、と思い直して閻象は歩きを再開した。


奇しくも閻象は主人の袁術と同じ仮説を打ち立て、その仮説が物の見事に的中するのだが、それに気付くのは先の話になりそうだ。

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夜となり、袁術は袁紹の天幕に入った。


中は袁紹以外に居ない。


「・・・・よく来たな。袁術」


袁紹は腹違いの兄弟---袁術に一言だけ述べる。


「私が頼みたいからな」


「ふん。随分と殊勝だな。それも夜姫様の寵愛が力か?」


「どうとでも思え」


この男に何と言おうと無駄だ、と袁術は理解した。


伊達に腹違いの兄弟ではない、という所だろう。


「それで、私と同盟を結びたいのだな?」


「そうだ」


頷きながら袁術は座ろうとするが、袁紹が手で制した。


「貴様は頼みに来たのだろ?なら、頼む側の立場、というのがあるのではないか?」


「・・・・・・・」


この男が言いたい事は理解できた・・・・・要は対等の立場になるな、と言いたい訳だ。


「どうした?私は別に同盟を結ばんでも良いんだぞ」


「・・・夜姫様はどうする」


「寵愛を受けている貴様等が取り戻せば良い。違うか?」


「・・・・そこで貴様は漁夫の利を得るように、夜姫様を力付くで奪うのか?袁家の当主ともあろう者が」


最後まで言わず袁術は息を吸った。


「天下に四世三公(四世代に渡り三公という役職を輩出したという意味)で名高い袁家の当主たる袁本初ともあろう者が、漁夫の利を狙い挙句の果てに、天の姫たる織星夜姫様を力付くで奪うなど、夜盗紛いも甚だしい!恥を知るが良い!!」


袁術の言葉は天幕だけでなく、袁術の天幕にも届いた事だろう。


つまり恥を言い振らされた形になる。


「貴様ッ!!」


袁紹が剣を手に立ち上がるが、袁術は怯む気配が無い。


「私を斬るのか?夜姫様の寵愛を受けている私を・・・・・斬れるのか?」


こんな事はないが、このまま行けば確実に自分は斬られる、と袁術は判っていたから敢えて“偽り”を口にした。


「私を斬れば夜姫様は泣くであろうな・・・・・孫堅と劉備も泣くであろうな。そして、夜姫様は残り二人を寵愛し、貴様を心底怨むであろう」


「や、夜姫様が私を怨むなど・・・・貴様、貴様の方こそ胸を鷲掴みしたではないかっ」


袁術の偽りに動揺しながらも、袁術の失態を口にする辺り・・・・まだ大丈夫だ。


このまま行けば何とかなるだろう。


「あぁ、したさ。だが、怒りは直ぐに収まった。今では私を大事にしてくれているぞ」


他の皆も、だ。


「そんな私を斬れば、貴様は夜姫様に嫌われる。それは天に弓引くも同然。天に弓引けば、どうなるか判らんではないだろ?」


「・・・・何が、望みだ」


「簡単だ。私と同盟を結んでもらいたい。それも対等の同盟だ。私は貴様と腹違いで、同じ総大将だ」


断じて主従的な同盟は結ばない。


「同盟を結び、夜姫様を助ければ・・・・少なくとも、貴様を評価するのではないか?」


今度は甘い言葉を投げ付ける。


夜姫には二つの顔がある。


一つは盲目だが、健気に真っ直ぐ生きる娘で、もう一つは月の瞳を宿し、自分と言う芯を持ち慈愛と冷酷に満ちた娘だ。


どちらも袁紹の行動を見れば、少なくとも評価する事だろう。


こんな真似はしたくないが、処罰は後で受ける積り、と袁術は覚悟していたからこそ、ここまで強く出た。


「・・・・良いだろう。同盟を結んでやる。だが、夜姫様を必ず私は手に入れるぞ」


あの娘は自分の女、とハッキリ袁紹は断言した。


それは袁術、孫堅、劉備に対する宣戦布告、と言える。


「・・・・では、私も言おう。夜姫様が御国へ帰る時まで、護り抜いてみせる」


例え帝が相手だろうと・・・・・・・・・・・・・


袁紹と袁術は暫し睨み合いをしていたが、少し経ってから同盟の杯を交わし合った。


ここに連合軍は“再編成”された。


だが、以前より遥かに危うい連合軍ではあるが・・・・・・・・・・・・・


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