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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
78/155

第七幕:西楚の覇王

長安へ無事に入城した呂布と五原騎兵団を誰も見向きしない。


しかし、それを彼等は気にしていない。


何処へ行ってもそうだ。


自分達を皆は嫌っているが、戦いになれば勝利して帰って来てくれ・・・・・・・


思い切り勝手な他力本願なのだが、それが人間であり人民という奴だろう。


それを呂布たちは半ば理解しているし、同時に取るに足らない者、と見ている。


要は彼等にとっては・・・・・そんな存在なのだ。


何より呂布自身は人民など視野に入っていない。


いや、ここには居ない者---たった一人の娘に眼が行っている。


『もう直ぐだ・・・・もう直ぐ貴様の所へ行くぞ。天の姫---織星夜姫よ』


自分を何度も倒しているが、自分を視野に入れていない。


それは彼女の態度を見れば・・・・一目瞭然だった。


謎の声---恐らく男の化物は夜姫に仕える者、と言ったが・・・・・自分を倒せる者など居ない。


夜姫位だろう。


赤子の手を捻る位に自分を倒せるのは。


胡軫、華雄は言うに及ばず、関雲長などは少々手こずるが、負ける相手ではない。


となれば、自分に勝てる者は居ない。


これを過信と言わず、何と言うのだろうか?


しかし、そうとは知らない呂布は城に入り、部下達と共に馬小屋に馬を預けると・・・・・呂布は一人、


城内奥へと進んだ。


まるで自分の城、とばかりに歩く呂布だが、それを咎める者は居ない。


それが彼を更に過信させるが・・・・・・


「・・・・来たか、呂布」


彼の前に一人の男が現れた。


呂布より年上の武将---胡軫だった。


彼を見るなり、呂布は顔を険しくさせる。


「胡軫か。何の用だ?」


「別に。ただ、殿を務めた割には遅い到着だな、と思うがな」


「貴様に関係ないだろ・・・・・・」


呂布は痛い所を突かれた、とばかりにバツの悪い顔をする。


「あぁ。関係ない。だが、貴様の事だ。どうせ、余計な事もしたのではないか?」


「殿をせず、親父殿に付いて行った貴様には教える義務などない」


「・・・・粋がるなよ」


胡軫は顔を険しくさせた。


「貴様は偉そうに言うが、所詮は董卓様の力があってこそだ」


董卓だからこそ、毒とも薬ともなる貴様を飼い傍に置いている。


だが・・・・・・・・・・


「他の者ならどうか?答えは簡単だ。誰も相手にしない」


仮にしたとしても、いつ寝首を掻かれるか判らない。


それなら前線に送り出したまま、帰って来させないようにする。


「貴様には“前科”が二つもある」


一つは主人を裏切る癖。


もう一つは・・・・・・・


「命令無視だ。天の姫をあろう事か寝室に侵入し、首を絞め殺そうとした」


「だから何だ?俺は、あの女に叩き伏せられた!その遺恨を返す為にしただけだ!!」


「愚か者が!遺恨あろうと、女子が寝ている所を襲うなど、武将として言語道断!飛将の名を持つ故李広将軍の名を汚したも同然だ!!」


「あのような老い耄れ将軍の渾名など俺は欲さん」


胡軫の激昂に対して、呂布は涼しい顔をして笑った。


いや、この場合は胡軫と李広に対して“嗤った”のだ。


「飛将は文字通り空さえ飛ぶであろう。しかし、あくまで“地上の将”でしかない」


俺は飛将ではない。


呂布の意味あり気な言葉に、胡軫は眉を顰める。


「地上の将でしかないだと?貴様、何を考えている」


「俺は天の姫---織星夜姫を物にする。そして俺は・・・・・天の将になる。天将呂布だ!!」


天将呂布・・・・・・・・


「ふ、ふふっふ、ふふふふ・・・・・ふはははははっ!!」


胡軫は最初こそ呂布の言葉に驚いたが、直ぐに声を出して笑い出した。


「何がおかしい!!」


呂布は当然、胡軫の笑いに不快感を示して怒鳴る。


「天将?天将だと?馬鹿が!夜姫様は決して、天などの姫ではない」


「ほぉう。では、何処の姫君だ?」


「知らないのなら知らないでいるが良い。しかし、夜姫様を物にするなら・・・・・その首を晒すのだな」


あの方を護る近衛兵団の長---覇王と呼ばれた男に、己が首を刎ねられて!!


「覇王・・・・・・?」


呂布は近衛兵団の長、という男について思い出した。


『姫さんの周りには大勢の強者が居る。お前なんて、足元にも及ばない奴等が・・・な』


その覇王と呼ばれた男が、近衛兵団の長か。


覇王・・・・・か。


「ふん。覇王も所詮は地上の王でしかない。つまり・・・・・天の将である俺には勝てんさ」


「・・・・その言葉、聞き捨てならないわね」


胡軫の背後から一人の娘が現れた。


銀と紫の髪を持ち、透き通るような白い肌、そして・・・・誰もが跪く月色の瞳を両の眼に宿している。


しかし、左腕には蛇が一匹巻き付いている事から、些か恐ろしい印象を受けてしまう。


驚いている胡軫を押し退けて、娘が前に出る。


その後ろには華雄と兵達、そして二人の娘が居た。


恐らく侍女だろう。


「どう聞き捨てならないのだ?」


呂布は娘にだけ両の眼を向けて尋ねた。


「全部よ。貴方は天将になるんでしょ?」


娘は銀と紫が混ざった髪を、右手で振り払いながら呂布に問う。


「そうだ。お前を物にして、な」


「お断りよ。貴方は私のタイプじゃないの。それに・・・・・天では私の都には届かないわ」


“あの男”同様に・・・・・・・・・


「あの男?誰だ?」


「教える義務も義理も無いわ。思い出したくもないのよ」


「ほぉう・・・・つまり、お前にとっては“忘れ得ぬ男”、という訳か」


呂布は意地悪そうに口端を上げた。


「・・・・貴方の性格って最低最悪ね。でも、鋭いわね」


娘は美しい貌を険しくさせつつも、呂布の指摘を素直に評した。


「えぇ、そうよ。私にとっては忘れ得ぬ男よ。悪い意味で」


「では、俺も忘れ得ぬ男になれるかな?」


「なれないわ。何故なら貴方は私の家族を侮辱した。二人も、ね」


二人?


「誰の事を言っている」


「知らなくて良い事よ。そして・・・・貴方は直ぐに死ぬんですもの」


娘が右手に握っていた剣に、左手を掛ける。


「面白い・・・・ここで再び刃を交えるか?」


呂布は待ち兼ねた、とばかりに自身も腰の剣に手を掛ける。


しかし・・・・・・・・


娘は剣から手を離して、薄らと笑みを浮かべた。


「ぐごっ!!」


突然、肩を掴まれて呂布は顔面を殴られて・・・・・床に顔を埋める。


「・・・・衛兵、この馬鹿者を牢に閉じ込めろ。わしの命令があるまで出すな。四肢を鎖で縛りつけて、窓の無い牢に放り込め。早くしろ!!」


『は、ハッ!!』


呂布を殴り倒した壮年の怒声に、衛兵は急いで呂布を拘束して連行する。


「親父殿、俺は殿を務めて、見事に帰って来たのですぞ!それを酷いではありませんか!!」


「黙れ・・・・この娘に手を出す事は誰だろうと赦さん」


壮年の男は顔を向けずに言い放った。


それでも呂布は叫び続けるが、何時しか・・・・・聞こえなくなる。


「・・・・・怪我は、ないか?」


男は娘に問い掛ける。


「ないわ。この状態で会うのは初めて、かしら?董卓・・・・いえ、仲穎ちゅうえいと呼ぶべきかしら?」


娘は右手に持っていた剣を愛おし気に撫でつつ、男---董卓に問い掛ける。


「なぜ、字で呼ぶべき、と思う・・・・・・?」


「何故?この剣が誰に使われていたのか、貴方は知っているでしょ?」


「・・・・知っているが、そなたとは・・・・・どういう関係だ?」


「私の近衛兵団の長よ。今まで巡り逢えるように願っていたけど・・・・・・貴方は逢わせてくれた」


この剣を私と巡り逢わせた恩人だから・・・・・・・だから、字で呼ぶべき、と娘は言う。


「やはり、その剣は・・・・・・・・!?」


董卓は慌てて前倒れになった娘を抱き止めた。


「直ぐに寝室へ運べ!!」


急いで彼は華雄に娘を渡した。


ついに触れてしまった・・・・・今まで、ずっと触れないようにしていたのに。


血塗れの両手で、娘を抱き止めてしまった。


しかし、別の事を思う事で現状から逃れようとする。


娘の柔肌を服越しとは言え、触れてしまった己から逃げる為に・・・・・・・・・・


剣の元主人は・・・・・かつて、こう言われていた。


“西楚の覇王”と・・・・・・・・・・


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