表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
長安編
73/155

第二幕:二人の侍女

董卓の部下達は侍女を一同に集めて、誰が良いか見ていた。


理由は簡単。


主人の董卓に天の姫---織星夜姫の世話をする侍女を選べ、と言われたからだ。


『誰にする?』


『夜姫様の身の回りを世話させるんだ』


『下手な女は選べねぇな』


董卓に怒られるからではない。


自分達の眼で夜姫の世話をする侍女を選ぶ。


つまり・・・・・・


“下手な侍女を選べば夜姫に害を与える”


侍女は身の回りをするだけでなく、時には主人を護らなくてはならない。


要は自分達に代わり、夜姫を護らせるのだ。


変な侍女を選べば夜姫に害が来る。


そんな真似は自分達が赦せない。


大して会話もしてない。


夜姫についても知らない。


だが、彼女が時節---刹那に見せた表情と声・・・・・・・・・


自分達の同僚であり、先輩であり、後輩である文秀。


彼の為に泣き、戦ってくれた。


『・・・・泣くだけ泣けば良いのよ』


この愚かな女の為に死んだ男の為に・・・・・・


そう言ってくれた。


単純明快だが、彼女は自分達が護るべき存在、と彼等は理解したのだ。


故に侍女を選ぶ際も細心の注意で、細心の眼をやる。


『ちゃんと選べよ?』


『分かってる』


『俺らの眼で夜姫様の世話係が決まるんだ』


小声で彼等は話すが、侍女達から見れば薄気味悪い。


洛陽でも悪行三昧をしてきた董卓と部下達だ。


いきなり呼び出されて、何かされると思うのも無理ない。


実際こんな風に並べさせられている時点で・・・・・・品定めされている気分だった。


しかし、彼等の真剣な眼差しには誠意を感じる。


本来なら有り得ない事であるが。


とは言え、やはり良い気持ちはしない。


かと言って逃げれる訳でもないから・・・・ひたすら終わるのを待つしかなかった。


だが・・・・・かなりの時間が経過するも一向に決まる様子が見られない。


お陰で侍女たちも疲れを見せ始めている。


董卓の部下達は疲れ知らずなのか・・・・疲れを見せている侍女たちを尻目に選んでいた。


もっとも傍目からはそう見えても、やはり彼等自身も疲れ出している。


『いい加減に決めないと不味いな』


『だが、決められないぜ』


『ここは・・・・・・』


“本人に聞くべし”


と情けないが、匙を投げてしまう。


本人---即ち夜姫自身に意見を聞く訳だが、彼女は寝ているだろうか?


長安へ着くまで眠り続けている、と言うし何をしても起きない。


そんな本人を起こせるのか?


無理、と直ぐに判る。


かと言って、このままでは何時まで経っても埒が明かない。


どうするべきか・・・・・・・


悩んだ時である。


「あ、あの・・・・・・・・」


一人の侍女が意を決して声を掛けた。


「何だ?」


董卓の部下の一人が侍女に尋ねる。


「い、一体、私たちをどうするんですか?一同に集めて・・・・・・・」


『そ、それは・・・・・・・・・』


侍女の質問は尤も、だと思う。


思うのだが、言って良いのか?


董卓からは言われていない。


自己判断をしろ、という意味だろうが事が事だけに・・・・どうも二の足を踏む。


「・・・・もしかして、天の姫様の侍女を選んでいるのですか?」


『・・・・・・・・』


侍女の何気ない言葉に男達は黙る。


女の勘とも言える存在は脅威で、男にとっては非常に厄介な存在だ。


今の言葉も勘だろうが、本当に厄介である。


「・・・そうだ。お前等の中から二人、天の姫---姫様の侍女を選べ、と董卓さまから命令された」


「だが、下手な侍女では面倒だ」


「どういう事ですか?私達は皇帝陛下の・・・・・・・・・」


「皇帝陛下と天の姫を一緒にするな」


「姫様は皇帝陛下より上だ。そして、誰よりも繊細にして優しい方だ」


「その姫様の世話をして、俺等の代わりに護るんだ」


「下手な侍女など選べるか」


・・・・・と、口々に夜姫を褒め称えて、尚且つ父親とも兄とも言えるような発言をする。


そんな男達に侍女たちは黙り、また途中で遮られた侍女も沈黙した。


「しかし、よく俺達に声を掛けられたな。恐かっただろ?」


兵士の一人が聞けば、侍女は頷いた。


「そりゃ・・・・あんた達、人殺しでしょ?おまけに悪名高き董卓の部下だし」


「・・・何か口調が変わってないか?」


あ、と侍女は口に手を当てるが遅い。


「どうやら・・・・そちらが地のようだな」


「・・・・そうよ。あたし、元々は地方豪族の娘なの。だけど、伝手で侍女になったのよ」


「ほぉう。礼儀見習いか?それとも帝に気に入られる為か?」


この時代では宮廷侍女になる、という事は家としても名誉な事だ。


宮廷---即ち、王朝の居城で働くのだから帝の“手付き”があるかもしれない。


そうなれば、儲け物である。


兵士の言った言葉は、どちらでも的を射ているだろう。


「それで、結局どうするのよ?」


何時の間にか侍女が主導権を握った、とばかりに尋ねる。


『・・・・それは、その・・・・・・・』


こうなると幾ら歴戦の兵士---悪行三昧をした男でも、太刀打ち出来ない・・・・・・・・


“やれやれ。情けないな”


誰かの声がするも、誰にも聞こえなかった。


“まぁ、男なんて皆・・・・似たようなもんだからな。さてはて、どうするべきか?”


声の主は現状を面白がりながらも、自分なりに考えようとしている。


そこへ・・・・・・・・・・・・


「ん?お前、変な腕輪を持っているな」


一人の兵士が侍女の左腕を見る。


「あ、これ?何でも別の国から貿易で売られてきたのよ」


侍女は自慢気に腕輪を見せる。


金色で出来た腕輪には赤い宝石が埋め込まれており、地方の豪族には手が届かない代物に見える。


「しかし、こんな物を身に付けていたら取られるんじゃないのか?」


「だから、隠していたのよ。でも、何か今日は付けておくべき、と思ったの」


「そ、それなら私もです・・・・・・」


消え入りそうな声で一人の侍女が挙手する。


その侍女の左腕にも腕輪をしていた。


こちらも金色だが、宝石は青色だった。


“ほぉう・・・姫さんの愛弟子二人か”


声の主は低かった声を更に低くさせる。


しかし、とても興味深そうな声だった。


あの侍女二人が身に付けている腕輪・・・・間違いなく、夜姫が弟子に与えた物である。


確か、あれは・・・・宴の時だったな。


『貴方達二人に渡す物があるわ』


弟子二人を眼前に呼び出し、夜姫は腕輪を渡した。


『貴方は赤、貴方は青よ。赤は紅蓮にして炎。青は蒼空にして水。貴方達二人を考えて与えるわ』


確かに、二人の性格を考えれば良い色だろう。


片方は紅蓮の炎の如く強かった。


特に彼は夜姫から戦術を学び取り、敵国に十年以上・・・という凄まじい事を成し遂げたのだ。


逆に青の腕輪を持つ者は、赤の腕輪を持つ者の弟子と言える。


何せ赤の腕輪を持つ者が夜姫の一番弟子で、青の腕輪を持つ者は二番弟子だが、正式には夜姫の弟子ではない。


ただ、夜姫の弟子だった赤い腕輪を持つ者から“実戦で学んだ”のだ。


だからこそ・・・・彼は冷静に分析して、赤の腕輪を持つ者に勝った・・・・しかし、彼もまた本国の政治争いに敗れた。


赤い腕輪の者も本国から逃亡して、異国の地で毒杯を煽り果てた・・・・・・・


ここ等辺が夜姫と似ている。


夜姫も本国---かつて自分が産まれ育った国の為に戦ったが、本国の政治争いに負ける形で・・・・追われる身となったのだ。


ただし、二人と違う点がある。


最終的には本国を討ち滅ぼして、本国以上の国を手にした所だ。


まぁ、それは自分達の力があってこそ、と彼女なら言うだろう。


話を戻すと・・・・その腕輪を二人の侍女はしている。


明らかに“運命”だろう。


“やれやれ・・・・運命とは数奇な出会いが事の他・・・・お好きなようだ”


声の主は運命という物に微苦笑する。


その声を聞く者は誰も居ないが・・・・・この時点で、三国の歴史が大きく舵を切った事は確か、と言えた。


誰にも判らない事だが・・・・・・・・・・・・


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ