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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
68/155

第五十二幕:月が出る時

後もう少しで長安編に入ります。


しかし・・・・難しいですね。


やっぱり、三人称と歴史上の人物をやると・・・・・・・・

『なっ!?』


雷雨が激しくなり、泥沼が更に深みを増す。


そんな中を必死に進んでいた華雄たちだが、突然の事に言葉を失う。


しかし、それは彼らだけではない。


そこに居た者達だ。


・・・・・一部を除いて、だが。


“兄弟よ。姫様が目覚めたぞ”


“おぉ、あれこそ我らが姫君だ”


誰かの声が二人分した。


だが、今の状況で誰の耳にも入らない。


それが彼等にとっては良かった。


“さぁ、死ぬが良い。屑ども”


“泣き叫べ。そして赦しを乞え”


泣き叫んで赦しを乞うても無理だ。


神はここに居ない。


居るのは・・・・・・・・・・・・・


“我らが姫君にして戦の女神。慈悲など存在しない”


彼等の声は、これから起こる・・・・・とんでもない出来事の前触れ、とも予想とも言えた。


「ひ、ひぃ!!」


文秀を貫いていた民は悲鳴を上げた。


馬車から立ち上がり、こちらをジッと睨む一人の娘に怯えていたのだ。


その娘は月の瞳を爛々と輝かせており、民をジッと睨み据えている。


「・・・・文秀を・・・・・私が名を問うた男を、よくも汚い槍で刺したわね?刺してくれたわね?!」


娘は声を荒げて、文秀から槍を引き抜いた。


夥しい血が雷雨と共に娘へ・・・・飛び散る。


生々しくも生命の源である血が、娘を妖艶に映し出す。


だが、民達にとっては・・・・・・・・恐怖の的でしかない。


華雄たちは別だが。


娘は槍を片手で振り回すと・・・・・・・


「死になさい」


迷うことなく民に投げる。


「ひ・・・・あが!!」


民は恐怖で動く事も出来ず、無残に槍で貫かれる。


そこへ・・・・・・・・


ピカッ!!


雷が鳴り・・・・落ちた。


槍に雷は落ちて、民を跡形も無く蒸発させた。


「な、何だ?!」


「か、雷が、落ちた?いや、落としたのか?!」


「ば、化物!!」


先ほどまで義勇軍と董卓軍を敵として、自分達の国を作り天の姫を材料にする・・・・・・


大声で言っていた民達は、恐怖で震え出す。


「何を怯えているの?まさか・・・・・自分達がこうなる、と予想してなかったの?」


娘は右手で銀と紫が混ざった長髪を背中に退かした。


「ここは戦場よ。理不尽で不平等にして・・・・生命を互いに奪い合う血の池。自分達も死ぬ・・・・・誰が死ぬか分からない。それを予想していなかったの?」


「だ、黙れ!この小娘が!!」


民の一人が恐怖を打ち消すように娘に怒鳴った。


「な、何が天の姫だ!俺等を助けに来た訳じゃないんだろ?!」


「天の姫?誰が天の姫と名乗ったのかしら?私は名乗ってないわ」


民--―男の怒鳴り声に娘は怯えもせず、涼しく答えた。


「地上の問題に・・・・・手は出さない。ただ、見ているだけよ」


それなのに勝手に助けに来た、と勘違いされては困る。


そう娘は綺麗な唇を動かして・・・・・冷たく断言した。


「貴方達は集団でやれば、こういう事も出来る。天の助けが無くて、ね」


華雄たちは頷いてしまった。


民一人では何も出来ないに等しい。


だが、黄巾の乱において民が集団で統率力のある者が率いれば・・・・・一つの王朝を破滅へ導く事も出来るのだ。


「でも、貴方達は今まで何もやらなかった。ただ、助けを求めただけ。貴方達みたいな事をなんて言うか知っていて?」


屑だ。


「貴方達は屑よ。他力本願で、人を妬み憎んで、蹴落とそうとする。まぁ、そういう所が人間らしいけど」


娘の冷たく決め付ける言葉に怒りたいのに・・・・・・何も言い返せない。


自覚していたのだろうか?


それとも・・・・恐怖で何も言えないのか?


民達を余所に娘は喋り続ける。


「一部の人間は違うけどね・・・・・・・」


娘は左眼で馬車に寝させた文秀を見た。


刺さっていた槍を抜かれた為、顔色は青くなり出し息も弱い。


「可哀そうな文秀・・・・・私みたいな“愚かな女”の為に傷ついてしまって・・・・・・・」


娘は身体ごと背を向けて、文秀の青白い顔に手を当てた。


「私みたいな女の為に死んで悲しいでしょ?でも、大丈夫よ。私が貴方を連れて行って上げる」


私が治める都へ・・・・・・・


「今は無理だけど、必ず連れて行くわ。私は情に厚い積りなの。それに貴方は気に入っているのよ」


だから、罪滅ぼしも含めて・・・・・・・・・


「都へ連れて行った暁には私の近衛兵にするわ。良いわね?ヨルムンガルド」


娘は左手に巻き付いていた蛇-――ヨルムンガルドに問い掛ける。


「・・・・・・・・」


ヨルムンガルドは左手から離れて、夜姫の肩に乗り頷いた。


「さぁ・・・・どうしましょう?この屑達を・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・」


ヨルムンガルドはジッと民達を見てから・・・・・先が二つに割れた舌を出した。


「そう・・・・貴方が食べるのね?では・・・・・一人残らず平らげなさい」


この屑どもを・・・・・・・・・


「骨も残さず綺麗に喰いなさい。目障りだわ」


「う、うぅぅぅ・・・・・・うわぁぁぁぁ!!」


民の一人が鍬を手に襲い掛かった。


しかし・・・・・直ぐに姿を消す。


代わりに姿を見せたのは・・・・・・・


『あ、ああぁぁぁぁ・・・・・・・・』


泥沼にとぐろを巻き、赤い舌を出す巨大な蛇、だった・・・・・・・・


「こ、これは・・・・・・・」


華雄達も余りの出来事に眼を疑う。


「私の家族にして臣下。そして・・・・・この世の全てを飲み込む大蛇--―ヨルムンガルド、よ」


娘は妖艶に笑ってみせた。


「さぁ、ヨルムンガルド。お腹が減っているでしょ?こいつ等の骨も残さず食べなさい」


シャー!!


ヨルムンガルドは巨大な口を開けた。


「ただし、義勇軍に手を出しては駄目よ。あの者達は私の大事な家族なの。貴方達とは・・・・違う家族よ」


『・・・・・・・・』


その意味が理解できたのかヨルムンガルドは・・・・・小さく頷いた。


そして逃げようとする愚民という名の屑どもを・・・・一人残らず平らげていく。


「・・・・良い気味。私の家族に手を出せば、どうなるか・・・・・・身を持って知れば良いのよ」


家族であり臣下の大蛇が行う食事を見ながら、娘--―夜姫は冷たい口調で独白する。


「私の家族に手を出せば・・・・・・八つ裂きにするんだから。全員、ね」


「・・・・恐れながら夜姫様」


華雄が夜姫に話し掛けてきた。


しかし、流れる汗は尋常でない。


『この他を圧倒する雰囲気は初めて、だな・・・・・・・・』


今も震える両脚を必死に支えているのだ。


「何かしら?華雄」


夜姫は月色の瞳を華雄に向ける。


「文秀の亡き骸をどうなさるのですか?」


「・・・・・貴方に教える義務があるの?私の家族でも臣下でもないのに」


冷たく断じる夜姫は以前の彼女ではない。


そう華雄達は感じた。


しかし、それでも華雄は喋り続けた。


「私は彼の上官です。部下の亡き骸をどうするか・・・・・私には知る権利があります」


これを言うのに時間が掛った、と華雄は思う。


滑らかに言った積りだが、喉が渇いている。


「そうだったわね。彼の亡き骸--―肉体は魂と共に私が預かるわ」


魂と共に?


「失礼ながら、どういう事ですか?」


「そのままの意味よ。ここに居るのは肉体だけ。魂は空を浮遊している。だから、私が預かるわ。然るべき時---月が出た時に・・・・文秀を臣下にするわ。恐らく長安に到着してからだけど良いわね?」


「月が出た時、とはどういう意味でしょうか?いえ、それ以前に死体が・・・・・・」


「それを教える義務は無いわ。文秀の事は説明した。違うかしら?」


「いいえ。失礼しました・・・・・・・」


「良いのよ。貴方は忠実で部下思い、と分かるもの。さっきの質問も文秀を気にしていたのでしょ?」


「はい。部下は私にとって家族みたいなものです」


「そう・・・・私と同じか、それに近いわね」


「貴方様と、ですか?」


「えぇ。私にとっては臣下とは家族。家族を侮辱し、傷つける者は許さない」


「だから、民達をヨルムンガルドに食べさせているのですか・・・・・・?」


「そうよ。文秀は私が名を問うた男。そして私みたいな愚かな女を護ろうとして死んだわ。だから、臣下にしたい・・・・家族にしたいのよ」


それを言う時の夜姫は・・・・・どうしようもない顔---泣きそうなまでに歪んでいた。


いや・・・・泣いていた。


「馬鹿・・・・泣くだけ泣けば良いのよ・・・・こんな汚らわしい女の為に生命を賭した男の為に」


枯れ果てるまで泣けば良い・・・・・・・・・


『・・・・・・』


華雄達はその光景を何も言わず・・・・見続けるしかなかった。


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