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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
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第五十一幕:美しい月の瞳

雷雨が激しくなった中でも鉄と鉄がぶつかり合う音は、未だに絶える事がなかった。


「好い加減、死にやがれ!!」


「ほざくな!!」


馬の脚を泥沼に取られながらも・・・・・互いに武器は攻防は繰り返される。


片方は蛇矛で、もう片方は槍を進化させた“方天戟”を使用していた。


この方天戟とは真っ直ぐに伸ばされた槍の左右に『月牙』と呼ばれる三日月状の刃が付いている。


切る、突く、叩く、薙ぐ、払う、などを行えるが、反面で使いこなすのには年月が必要だ。


その為、扱える者は限られている。


だが、方天戟を振る男は身体の一部、と言わんばかりに巧みに扱っていた。


蛇矛を扱う男も巧みに扱う点では同じだが、攻撃の種類を考えれば・・・・圧倒的に方天戟を使う男が

有利だ。


そして気迫だ。


「夜姫は渡さん!渡さん!渡さんぞ!!」


ひたすら前へ、前へ、前へ、と攻撃を繰り出す男に蛇矛を持つ男は押されて行く。


『こいつの力は何処から来ているんだよ?!黄巾の乱より強いぞ!!』


蛇矛を扱う男---張飛は内心で疑問を投げた。


方天戟を扱う男---董卓とは黄巾の乱から知っている。


左右の手で弓矢を引けて、その威力は敵兵を数人は一度に射抜ける程だ。


以前でも強かったが、今はそれ以上に強い、と正直に思う。


だが・・・・・・・・


「俺も負けられねぇんだよ。夜姫様は返してもらうぞ!!」


「むっ!!」


それまで押されていた張飛だったが、ここで一気に押し戻した。


「俺は夜姫様を傷つけた。だから、今度は傷つけない。無傷で義兄者の下へ連れ帰るぞ!!」


「ほざくな!!」


董卓は張飛の言葉に最初こそ直ぐに反論した。


しかし、直ぐに二の次が言えない。


何と言えば良い?


天の姫---織星夜姫は連合軍から連れ去った娘だ。


張飛が連れ帰ろうとするのも道理だ、と納得する。


それでも自分は夜姫を手放せない。


利用価値があるのは否定できない。


天の姫を手中にしていれば、自分に逆らう者は即ち天に弓を引く、と意味する。


董卓だけではなく連合軍も同じだ。


しかし、今は違う・・・・変化していた。


「あの娘は・・・・・夜姫は、わしの・・・・・我が手元で生きるのだ!!」


ここで董卓は己が心の内を曝した。


夜姫をどう思っているのか?


未だに自分でも分からないが、それでも夜姫を手放したくない、という気持ちは解かる。


あの娘を手放す事は・・・・・昔の自分となる。


いや、違う。


彼女と居れば、自分の何かが変わり・・・・・・新しい何かを得られる。


そう告げていたのだ。


それが何なのかは分からないが、手放したくないのは事実だ。


「夜姫を取り戻したいのなら・・・・・わしを討ち取ってみせよ!この天下に悪名を馳せている董卓の首を取ってみせよ!!」


「・・・・・・・・」


張飛は雷雨が鳴る中で高々と宣言する董卓に感動を覚えた。


敵であり、悪名を馳せている彼だが・・・・何故か酷く哀憫が宿っている。


何故なのか?


張飛に答えを見い出す事は出来なかった。


しかし、分かる事はある。


「ならば、貴様を倒して夜姫様を取り戻させてもらう!!」


眼前で方天戟を持つ男---董卓を打ち倒さなければ・・・・・自分は先に行けない。


部下達がやってくれる、と信じて自分は戦うしかないのだ。


雷雨はまた激しくなる。


そんな中で二人の戦いは再び・・・・・始まった。


だが、その一方で別の方角---正確に言えば、後方でも戦いは始まろうとしていたのだ。

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「くそっ、邪魔だ!!」


一人の兵士が雷雨の中で槍を振う。


すると、数名の民達が泥沼に身体を沈めた。


張飛が率いる兵士達は前方を、後方を別の兵士たちが奇襲した。


これは決定していた事で混乱したとか、誤っての事ではない。


後方に奇襲を掛けた兵達は夜姫を取り戻し、逸早く離脱する事が任務だった。


そして夜姫は馬車に居り、目と鼻の先の距離に居たから幸いと言える。


だが、ここで問題が発生した。


民達だ。


民達は逃げる所か・・・・・自分達に刃を向けてきたのだ。


彼等としては逃げるか、助けてくれ、と懇願してくる・・・・・・想像していたが、まったく違う。


「死ね!この下種野郎!!」


「董卓を早く倒さないで、天の姫を助けに来やがって!!」


と口々に悪態をついて彼等は兵達を攻撃する。


無論、董卓軍も見ているだけではなく、これに乗る形で攻撃をしてくる訳だ。


奇襲などは少人数で敵の大将などを倒す。


この戦いは董卓を倒すのは二の次。


先ずは天の姫こと織星夜姫を奪還して連れ帰る。


運が良ければ敵に手傷を負わせる事も含まれているだろう。


それでも・・・・くどいようだが、先ずは夜姫を救出する事が第一だ。


董卓も倒したいが、“二兎を追う者は一兎をも得ず”という諺もある。


つまり、どちらか一つの目標に集中しなければ・・・・どちらも達成されない、という意味にも取れる訳だ。


だが、後方だけ奇襲したとなれば・・・・・・いや、既に理由は明白である。


しかし、前後を遮断する事は決して間違いではない。


もっとも・・・・・それが裏眼に出た。


前後を遮断したが、逆に自分達も連携が取れない、という事態である。


そして想定外の事に民達が自分に刃を向けて来る。


戦に想定外の事はよくある事だが、こんな事まで想定できるほど彼等は出来ていない。


それでも眼の前の敵は倒す、という事は知っている。


自分達の当主である劉備玄徳は民達を大事にしている・・・・・・・・・


部下である自分達も倣っているが、こればかりは仕方が無い。


もし、罰を受けるなら甘んじて罰を受ける。


今は・・・・・・・・


『夜姫様を助けろ!!』


この言葉通り彼等は民達を退けて前へ前へ、と進んで行く。


だが、民達も負けていない。


彼等から言わせれば、義勇軍が来た時は自分達を助けに来たんだ、と勝手に思っていた。


それがどうだ?


彼等は自分達を無視して馬車へ向かっている。


馬車には天の姫が乗っている・・・・・・彼等は天の姫を助けに来たのだ。


自分達ではない!


虐げられた自分達ではないのだ!!


「てめぇら、こいつ等を殺せ!!」


民の一人が叫んだ。


血を吐き出すような声で・・・・・・・・


「俺達は虐げられて来たんだ!それなのに誰も助けない!皆、天の姫ばかり眼を向ける!!こいつ等を殺せ!!誰も彼も殺してしまえ!!」


その後で・・・・・・・・・・


「俺達の“国”を作るんだ!天の姫はその“材料”に過ぎん!天の姫は殺さず生け捕りにしろ!!」


“・・・・・まるで暴徒、だな”


“暴徒?いいや、違うぞ。兄弟。このような輩は屑、と言うのだ。もっとも・・・・・それが人間、というものだが”


誰かの声がしたが、誰も・・・・・この状況では聞こえなかった。


“さてはて、どうするべきか・・・・・・・・?”


“我らが行った所で嬲り殺しにされるのは眼に見えている。今のままでは、な”


“ヨルムンガルドは?”


“あ奴も完全ではない。しかし、何とかせんといかんな”


“確かに・・・・・・ん?兄弟よ。馬車を見ろ”


片方の声が馬車に向かった。


すると、もう片方も馬車に気を向ける。


“ちっ・・・ますます厄介だな。前後から屑どもが迫って来た”


前後に遮断した訳だが、張飛達もまさか民達が攻撃して来る・・・・・とは想定していなかったようだ。


その為、民達は前後から馬車へと突っ込む。


“どうする?”


“どうするも・・・・・何も出来ん。忌々しい事だが”


“そうだが、どうやら董卓の配下は違うようだぞ”


「全員、民達を蹴散らせ!ただし、ただ蹴散らすだけだ!我々はこのまま真っ直ぐ行くぞ!!」


槍を掲げた武将---華雄が民達を蹴散らし、泥沼を馬に乗り進む。


彼は董卓の配下で胡しんの副将である。


実力と人望で言うなら・・・・上司の胡しんより上、と言われている。


今の状況を見ても納得するものだ。


華雄たちは民達を退けて、ひたすら泥沼を進んで行く。


泥沼に馬は脚を取られ、車輪も同じだ。


そして民達が亡者のように襲い掛かるから堪らない。


馬車を護る四人の者達は心底、民と言う存在が恐ろしかった。


それでも・・・・・・・・


『護らなければならない』


と思っている。


華雄の命令、ではない。


それもあるだろうが、根本的に身体の奥底から護らなくてはならない、という衝動に駆られるのだ。


特に四人の内一人の者--―文秀はその気持ちが強かった。


『何があろうと、この身が朽ち果てようと護らなければならない!!』


身体から闘志が漲り、今までにない力を発揮している。


ただ、名前を聞かれた。


それだけだ。


それだけの事だが、彼は・・・・・彼にとっては全てとなった。


恐らく、それこそが天の姫の力、と皆は思うだろう。


そんな彼は一瞬の隙を見て、馬車を見る。


馬車に寝ていた娘は銀と紫が混ざり合った髪をしており、白い肌は雪のようであり絹のように美しい。


眼は・・・・開けられていたが虚ろだった。


怯えているのが解かる。


『ご安心ください。私が必ず護ります』


心の中でそう言った瞬間である。


・・・・・身体を貫かれる感覚が文秀を襲う。


見れば民の一人が歩兵から奪った槍を持ち、自分自身を貫いているではないか・・・・・・・・・


「文、秀・・・・・・・・」


娘--―織星夜姫の震える声が薄れ行く意識の中で聞き取る。


霞む眼でも見れた。


月色の瞳をしている。


『何と、美しい・・・・・瞳、か』


その瞳が見れた。


もう死んで良い、とさえ彼は思う。


だが、直ぐに腕を掴まれて馬車に乗せられる。


そこで彼は意識を失い、どうなったか・・・・・・分からなかった。


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