第四十九幕:今も夢見て
五十話から戦闘シーンが入ります。
それと・・・・大事な人物---それこそ三国志でも一際目立つ武将を出す事を忘れていました。(汗)
まぁ、かなり無茶な設定で出しますが・・・・・・・・・どうなる事やら。
「・・・・そんな事があったか」
前方を視察していた壮年の男---董卓は部下から伝えられた事実を静かに受け取る。
「はい。驚きましたけど、天の姫に従う者なら納得できます」
部下は直に見た者---名を教えた文秀だった。
「そうか。それで天の姫は?」
「寝ております。ただ、蛇---ヨルムンガルドなる者は起きており姫を護っております」
「なるほど。分かった。そなたは引き続き護衛を続けよ・・・・どうも嫌な予感がする」
「御意に・・・・・・・」
文秀は頷いて元来た道を戻る。
「・・・・どう思う?華雄、胡しん」
董卓は左右に控える華雄と胡軫に尋ねた。
「ただの蛇ではない、と思っておりました。しかし、馬車を持ち上げるとは・・・・・・」
「私もだ。恐ろしいな」
華雄と胡軫はヨルムンガルドに僅かな畏怖の念を覚えた。
「もし、私が夜姫に不埒な真似をすれば・・・・一飲みだな」
自分がそんな真似する訳ない、と董卓は解かっている。
怖いのだ。
天の姫---織星夜姫に嫌われる事が・・・・・・・・
そう・・・・かつて若かった頃に一度だけ経験した時と似ている。
恋した相手を少しでも傍に置きたい。
故に彼女を力づくで遠出に連れて行った。
しかし、直ぐに追っ手が来て袋叩きにされた。
そんな自分を娘は冷たい眼で見下して・・・・・・・・・
『二度と私に近付かないで!!』
これを言われた時、自分は頭の中が真っ白になった。
それ以来・・・・そんな気分になった事は無い。
所が織星夜姫に対しては違う。
あの気持ちになる。
だから、下手な真似は出来ない。
それでも他の男に触れて欲しくない。
故に・・・・・彼女を傍に置きつつ手は出さない。
それで自分の気持ちが苦しくなるが・・・・・・・
「華雄、そなたは夜姫の所へ行け。胡軫、そなたは前方だ」
わしも前方に行く、と董卓は言った。
「では、何か得物を・・・・・・・」
胡軫が言えば董卓は近くに控えていた兵の槍を取り上げた。
「これで良い」
片手で槍を振り回して、自分の身体に慣れさせる董卓。
その姿は立派な壮年の武将だった。
華雄は後方へと行くが、ふと上を見る。
丘があり、誰も居ない。
しかし・・・・・・・
「・・・不味いな」
ここは長安へ通る道であるが、丘などもあり奇襲や待ち伏せには持って来いだ。
昔は高台などがあったが、それも時代が経つと朽ち果てて無くなってしまった。
故に不味いのだ。
しかも、雷雨で音は聞こえない。
つまり敵が眼と鼻の先でも眼しか頼れない。
後は武将としての勘くらいだ。
それを華雄は危惧した。
後方へ行くと馬車が緩やかに進んでいる。
馬車を四人の武将が囲み護っていたが、華雄を見ると一礼した。
「・・・・・・・」
華雄は武将達に頷いてから、馬車に乗った娘を見る。
紫と銀色の髪が絶妙に交ざり合い、妖艶と清楚の両方を兼ね備えていた。
白い肌は髪の色を余計に際立たせており、少し力強く握れば痕が出来そうだ。
だが、直ぐ脇には鞘に収まった無骨の剣があった。
そして一匹の蛇が油断なく華雄を見つめている。
「・・・何もせん。姫様は寝ているか?」
華雄は蛇---ヨルムンガルドに小声で話し掛ける。
『寝ている』
ヨルムンガルドは縦眼で華雄に答えた・・・・・ように見えた。
彼の蛇が人語を話せる訳ない。
だから、あくまで想像だが・・・・華雄には見えたのだ。
「そうか。殿から命令された。私も護衛に加わる」
ヨルムンガルドは縦眼を補足したが、直ぐに丸くなった。
まるで・・・・・何かが起こる、と示しているようだ。
「全員、周囲を警戒しろ。もう直ぐ・・・・丘がある」
そこから敵が来る可能性が高い。
『御意に』
華雄の命令に四人は頷いて、先ほど以上に気を周りに巡らせた。
“ほぉう・・・・・中々の者、だな”
誰かの声がした。
酷くしゃがれた声で聞き取り辛いが、誰にも聞こえないから良いだろう。
“その男は確か、あの髭がやたらと立派な男に斬られる運命、だったな”
“その通りだ。兄弟。しかも、酒を飲んで、酔いが醒めない内にな”
また誰かの声がした。
どちらも似たような口調と声色で、どちらがどちらなのか判断できない。
しかし、これも聞こえないから良いだろう。
“その運命は別世界の話だ。ここでは分からんぞ”
しゃがれた声が、先ほど話した2人--―と思われる声に話し掛けた。
“ヨルムンガルドよ。そなたとしての見方はどうだ?”
“左様。姫様から名を頂戴したのだ。少しは力を使えるだろ?”
2人と思われる声は、しゃがれた声--―ヨルムンガルドに返答する。
“さぁて・・・・まぁ、長安へ行くまでは死なん、だろうな”
ヨルムンガルドは、しゃがれた声で自分の考えを答えた。
“根拠は?”
どちらか分からないが、片方が尋ねた。
“姫様が傍に居る事だ。加えて言うなら文秀、という者も同じだ”
自分達が仕える姫君--―織星夜姫に名を尋ねられた・・・・・・・
これは自分達にとっては・・・・・非常に不味い。
名を教える、とは他者に自分の正体を明かす事を意味する。
要は正体を知られたら対策を練られるか、名を呪縛されてしまう。
この為、自分達は名を教える事は滅多にない。
それこそ仕える主人と家族位だ。
人間にも昔は・・・・値したが、今では名を名乗るのが流儀となっている。
これが通用したのか・・・・人間達は名を明かしても問題ないのだ。
だが、相手は夜姫だ。
自分達が絶対的に忠誠を誓い、万が一にも裏切る事など考えない姫である。
そんな夜姫だが、人の姿をしているが・・・・・人ではない。
人ではないが、人のような所もある。
彼女が名を尋ねた。
それだけでも意味があり、力が弱くても込められている・・・・・・・・
“・・・・・・・・・”
“・・・・・・・・・”
2人の声は何も言わず沈黙する。
しかし、ヨルムンガルドは・・・・・しゃがれた声で喋った。
“まぁ、あの男なら一先ず安心であろう。奴も居るが、恐らく身体を手に入れるのは長安に入ってからだ”
奴とは恐らく剣の事だろう。
その剣もかつては人だった。
だが、実力で言うなら人を超越しており、自分達--―人外の者に加わる事さえ出来るだろう。
稀に居るのだ。
人の身でありながら伝説になるような者が・・・・・・・・・
その者は夜姫に見染められて名誉ある近衛兵の長に任命された。
所が・・・・己が力を過信し他人を操る事に不慣れな事から身を滅ぼす。
それを夜姫は助けようとしなかった。
何故なら彼自身が拒否したからに他ならない。
どんな会話をしたのかは彼等も分からないが、一つだけ言える事はある。
最後まで己が矜持を貫いた。
だからこそ、夜姫は彼に誓いを立たせたのだ。
何時の日か必ず自らが迎えに行く事を・・・・・・・・・
それがやっと叶った訳だが、生憎と身体は存在していない。
近い内に手に入る予定だが・・・・それまで夜姫を護る事は出来ない。
そこを踏まえてヨルムンガルドは文秀、という者が役立つと言ったのだろう。
“では、あの者も何れは臣下に?”
“かもしれん。それを決定するのは姫様だ。我々は従うまでだ”
片方の声にヨルムンガルドは答えて閉めの言葉を言った。
“案ずるな。道化も考えておる。あ奴は新参者、と言えるが姫様の事を第一に考えている”
彼の者---道化は夜姫と敵対していた者だったが、現在では臣下の一人である。
性格は些か眼に余るが、夜姫を第一に考えている所は変わらない。
その者は恐らく今も考えている事だろう。
“勿論、我等も動く。そして・・・・・今度こそ姫様と共に幸せになるのだ”
それこそ自分達が夢見て今も叶えようとしている事なのだから・・・・・・・・・




