第四十一幕:汚名と野心
PCの修理はもう少し掛りそうで、現在も・・・・ちゃんのPC借りて執筆中です。
どうも、この小説は波が激しくて安定が難しいです。(汗)
とは言え、週一の更新は護りますので、まだまだ続きますが付き合って下さい。
劉備ならびに袁術が指揮する軍は休む暇など無い、かのように走り続けていた。
汗を流す者は居るし、馬なども倒れる寸前だった・・・・・・
それでも彼等は止まらない。
これを愚かと称するか、忠義深いと捉えるかは人によって異なるだろう。
“おい、そろそろ一休みしろ”
誰かの声が聞こえてきた。
『道化か!!』
劉備と袁術には聞こえたのか、声を揃えて宙を見上げる。
“このまんま行くと死ぬぞ?”
深刻な事を言っているのに声は何処か気楽な声だった。
『後方には呂布。前方には董卓。どちらを選べ、と言われたら董卓を選ぶぞ』
袁術が答える。
後方には殿を務め曹操軍を蹴散らした呂布軍が居る。
彼等を敵に回すなら、このまま突っ込んで董卓と戦うべきと袁術は判断した。
何故なら向こうには夜姫も居るし、民達も居る。
酷な事を言うが、民達が居れば思う様に動けない。
そこを突いてドサクサに紛れる形で夜姫を奪還する。
それが袁術の考えだった。
“それで仮に董卓の所へ着けず、呂布に追い付かれたらどうする?完全な無駄死に、犬死にだぞ”
何処かでも気楽な声だが、言っている事は何処までも現実的な中身であり、冷たかった。
“姫さんは何時も戦の前に言ったぞ”
『軽はずみな死は求めるな。死を求めるなら、確実に敵を道連れにしろ。そうすれば、敵が一人消えるの。一人で死んだら犬死によ。そして、休める時は休みなさい。満身創痍で戦うなんて馬鹿よ』
随分と辛口な言葉だが、内容からは指揮官らしい合理的な考えだった。
『・・・そう夜姫様は言ったのか』
“あぁ。だから、俺たちは死ぬ時、必ず道連れにする。敵を、な”
それで勝てるのなら良いだろう。
死して肉体を失っても魂は永遠に夜姫と共に・・・・・・・・・・
『道化師、その夜姫様は今、無事か?』
劉備が落ち着いた声で訊ねる。
“あぁ。それ所か・・・・嬉しい悲鳴を上げたいぜ”
『どういう事だ?』
劉備には意味が解からない。
その為、訊ねたが声の主---道化師は答えない。
“道化に代わって我が答えよう”
先頭を走る狼---フェンリルの声が聞こえた。
“姫君は、かつて自分が愛した男と会った”
簡潔にフェンリルは言った。
『かつて愛した男・・・・・・・』
袁術と劉備は僅かに嫉妬を抱いた。
と言っても劉備は父として、娘に好きな男が出来たというような父親的な嫉妬である。
ここには居ないが、孫堅が居たら劉備と同じく・・・・以上に父親として嫉妬した事だろう。
対して袁術は恋する女が、他の男を好きになったという嫉妬だった。
“と言っても、姫君は恋多き女性だ。いや、違うな。平等に我を含めて愛している”
だから、彼もまた大勢の中の一人だ、とフェンリルは付け足した。
どちらにせよ二人にとっては嫉妬の対象に変わりは無い。
『そう、ですか。それで相手は?』
劉備は納得しつつも訊いた。
“何れは知る。だが、これだけは断言できる”
その者は呂布などより遥かに強い、と・・・・・・・・
あの呂布より強い・・・・・・・・・・
この言葉に劉備と袁術は疑問を抱かずにはいられなかった。
何せ呂布は今の時代において、いや、恐らく遠い未来においても歴史上に名を残す。
それだけ強いのだ。
その彼を越える人物・・・・・・・・・
“まぁ、上には上が居るんだよ”
道化が話を打ち切るように言った。
『・・・・・・・・』
二人はその言葉に従う形で無言になるが、直ぐに馬の手綱を引いて止まった。
「全員、疲れたであろう。暫し休むぞ」
袁術が後ろを振り返り兵達に言うと、兵達はドッと倒れるように地面に座り込む。
中には息も絶え絶えで水をがぶ飲みする者も居た。
馬もまた同じだった。
「やはり無茶をやり過ぎた、な」
「そうですね。しかし、ここからが問題です」
「・・・そうだな。そなたとしては、どう出る?」
「このまま突き進む、ですね。前進あるのみ、では語弊があるかもしれません。ですが、今の状況を考えると前身しかありません」
「確かに。だが、この大人数では直ぐにでも見つかってしまうし、呂布に捕えられてしまうな」
「・・・二手に分かれますか」
劉備は袁術の言いたい事が解かり、続きを言った。
「それが望ましいだろう。とは言え、誰を分けるが問題だ」
「私が考えても良いですか?」
「あぁ。構わん」
「では、益徳に兵達を連れて行かせましょう」
「張飛を?」
「はい。雲長は後方の殿を任せます。二人に“汚名返上”をやらせたい、と思います」
「・・・・なるほど。良いだろう。では、我々はこのまま真っ直ぐ行くか」
「はい。私は二人に言ってきます」
劉備は一礼して、袁術の所から離れた。
袁術から離れた劉備は直ぐに義兄弟の関羽と張飛に命令した。
「益徳、雲長、そなたらに命令する。益徳は兵を率いて別道を行け。雲長は殿をしろ」
「俺たちが、ですか?」
張飛は劉備に確認するように訊ねた。
夜姫を傷つけた時から、劉備は自分たちを冷たく見ていた。
それが被害妄想なのかは不明だが、いきなり言われた命令に動揺するのも仕方ない。
「貴様らも反省したであろう?今回で、汚名を晴らせ。そうすれば、夜姫様も見直すだろう」
義兄の温情ともいえる命令に張飛は涙を流さずにはいられなかった。
関羽も同じであったが、すぐに険しい顔をした。
「義兄者よ。後方には呂布が居ります。もし、来たら・・・・戦っても良いですか?」
「当たり前のことを訊くのか?」
「あ、いえ、そうではないんです。一騎で挑んでも良いでしょうか?」
名だたる武将である呂布。
腕に覚えがあるなら、是非とも立ち会いたい。
武人である関羽も例外ではなかった。
「・・・良いだろう。ただし、大局を見極めろ」
暗に頃合いを見計らって戻って来い、と劉備は言った。
「わかりました。必ず殿を務めます」
「俺も必ず別道から合流します」
「頼むぞ」
劉備の言葉に二人は頷き、休みを終えた兵たちを引き連れて行動を開始した。
『夜姫様、待っていて下さい・・・・・必ずや貴方様を助け出します』
今、どこに居るのか分からない夜姫の無事を劉備は祈らずにはいられなかった。
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「殿、袁術様たちは夜姫様を助け出せましたかね?」
洛陽で被害報告を待っている私に護衛の者が訊いてくる。
「まだ、だろうな。董卓も馬鹿ではない」
董卓は辺境の将軍と蔑まされているが、辺境だからこそ計り知れない。
辺境は一歩でも足を踏み入れたら別世界だ。
それこそ異民族の襲撃が常に付き纏う。
そんな所で董卓は生まれ育ったのだ。
追っ手の事も考えて何かしらの手を打っているに違いない。
果たして袁術様たちが突破できるか?
いや、できよう。
夜姫様の加護を受けた袁術様たちだ。
絶対に夜姫様を奪回できよう。
そう結論づけた私の所へ血相を変えた部下が走り寄ってきた。
「と、殿!こ、これを!!」
部下が震える両手を差し出す。
その両手には小さな、しかし、金色の印璽があった。
「それは・・・・“伝国璽”ではないですか!!」
私の家臣である程普が声を荒げた。
伝国璽とは歴代皇帝に受け継がれて来た玉璽---印の事だ。
「これを何処で?」
「い、井戸です。そして、こちらも・・・・・・・・・」
部下は震える手で、綺麗な櫛を取り出した。
「それは・・・・・夜姫様の・・・・・・・」
「夜姫様は居ませんでした。ただ、これがあるという事は・・・・・・・・」
最後まで言おうとした部下に私は剣を向けた。
「それ以上、言うな。言えば首を斬る」
「は、はい・・・・・・・・・・・・」
部下は首を何度も動かす。
「殿、こちらはどうなさいますか?」
程晋が伝国璽を差し出す。
「それは皇帝陛下の物だ。然るべき時に返上する」
「良いのですか?」
「構わん。それとも私に野心を持て、と言いたいのか?」
「それは・・・・・・」
「野心なら持っている。夜姫様を我が娘にすることだ」
と言っても、養女にする訳ではない。
ただ、夜姫様から「父上」と呼ばれたいだけだ。
それを聞いた部下たちは呆れ果てたが、すぐに笑い出して再び作業に戻った。