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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
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幕間:洛陽の殿

今回は曹操視点です。


恐らく呂布に追いかけ回されて九死に一生を得た彼の気持ちは、正に項羽に追われた劉邦では?


と思い書いてみました。

わしは軍を率いて袁紹と共に洛陽に押し入ったが、どういう訳か敵の攻撃は来ない。


「どういう事だ?」


直ぐに疑問は解けた。


なるほど・・・ここを捨てたか。


都を移動させるのは最大の悪、と儒教では説いている。


しかし、田舎出身の董卓には分からないだろうな。


いや、逆にそれが英断と言えるかもしれない。


陽人を落とされた今となっては洛陽に籠っても・・・・・万に一つも勝ち目はない。


となれば、ここを捨て長安へ逃げるべきだ。


戦略的に見れば奴の考えは決して馬鹿に出来ない。


田舎出身の武将と侮っては痛い眼を見る。


かと言って長安に逃げ込んだから、絶対に負けないという保障など無い。


何より洛陽を陥落させたとなれば・・・董卓に味方する者達も少しずつ離れて行くだろう。


もちろん宦官が裏で手を引いている事も否定できないが。


「どうする?」


元譲が馬を近付けて、わしに訊ねてきた。


「今から追う。裏門にはまだ袁紹の軍は居ないだろ?」


「あぁ。しかし、下手に動くと危険だ。殿の存在がある」


「殿?ああ、そうだな。だが、呂布ではあるまい」


「何故だ?殿ともなれば、呂布が最適だろう」


「確かにそうだ。だが、あいつがそんな任を受けると思うか?」


「受けるさ。養父の命令だ」


「わしは思わん。恐らく華雄辺りだろう。呂布に比べればまだ弱い」


董卓の下に居る武将は、呂布、華雄、胡軫だ。


他にも居るが、奴らがわしの眼で見ると上位に食い込んでいる。


その内、一番が誰か?


問われたら呂布だ。


あの男に勝てる者など今の世に果たしているか、どうか疑問を抱く。


そうさな・・・“項羽”などの豪傑ならば相手に出来るだろう。


だが、項羽の実力も果たしてどうなのか疑問だ。


となれば、やはり呂布に勝てるのは並大抵ではあるまい。


そんな人物を殿に就けるか?


否・・・寧ろ自分の傍に置いて護らせる筈だ。


それがわしの考えた結論だった。


「・・・・・・・」


元譲は気に入らないのか、眉を顰めた。


だが、直ぐに嘆息すると先行するように前を行く。


それで良い。


さて、華雄が相手ならば時間は掛るまい。


向こうも討ち死にする気は無い筈で、頃合いを見計らって逃げる筈だ。


それなら追い掛けて撃破出来る。


そうなれば呂布とも戦う可能性もあるが、奴は裏切る癖がある。


そこを突いてやれば、こちらに転がる可能性は十分に高い。


恐らくは董卓と夜姫あたりを手土産に来るだろう。


それをわしは望んでいる。


わざわざ向こうから持って来るのだから嬉しい限りだ。


呂布を上手く使いこなせば怖い物は無い。


いや、敵は恐れて無闇に戦いを挑んで来たりはしないだろう。


今は兵が足りないし、他に比べれば弱いのは否めない。


だが、呂布さえ来れば問題は解消される。


夜姫も一緒となれば尚更だ。


天の姫に弓など引けんだろう。


ふふふふふ・・・褥の中ではどのように舞うのであろうな?


あの白豹のように艶やかで白い肌に、わしの口付けの痕が残る。


それを思うだけで嬉しくて仕方が無い。


しかし、夜姫を手に入れただけでは物足りない。


男子足る者、やはり野望は大きい方が良い。


天下を手に入れる。


この中華を我が物にして、歴史に曹猛徳の名を歴史に残す。


「殿、裏門が見えました」


元譲の従兄弟である夏候淵---妙才が馬を近付けて伝える。


「では、英雄となるか」


「・・・・油断はいけません」


「何を油断する?そなた等が居れば事は足りる。違うか?」


「その信頼は嬉しいですが、董卓のような人物が相手となれば、油断はできません」


「元譲と言い、そなたと言い・・・些か臆病ではないか?」


「何を言います。ですが、多少の臆病は必要と思います。向こうには呂布も居ます。何より天の姫---夜姫様が居るのです。董卓としては何としてでも護り通したいと思いますが」


「そなたとしては夜姫をどう見る?」


「どうとは?」


「そのままの意味だ。女子としてどう見る?」


「それは・・・綺麗な方だと思います。おまけに礼儀も正しいですし、ただ失礼な事を言うと殿を怖がっておりますね」


宴の席でわしが挨拶するなり、夜姫は怯えていた。


そして小うるさい狼---フェンリルとかいう狼が唸り声を上げたのは記憶に新しい。


「なぁに・・・褥の中では綺麗な声で啼くであろう」


「・・・・・・」


妙才は元譲のように眉を顰めて、些か呆れていた。


「裏門が開いたぞ。全軍、一気に裏門を潜り董卓の首を討ち取れ!!」


わしは剣を抜いて先頭を切った。


「殿!!」


妙才が慌てて追い掛けて来るが、わしの馬の方が速く追い付けない。


それを尻目にわしを筆頭にした兵達が裏門を潜り抜ける。


華雄の軍勢が居る筈だった。


だが、現実は・・・・・・・・・


「り、りょ、呂布だ!?」


兵の一人が腹の底から悲鳴を上げる。


わしの眼前には呂布の旗があった。


そして今にも襲い掛からんとばかりに、こちらを睨んでいる呂布も・・・・・・・・・・・・


「・・・読みが外れたな」


わしは自分の読みが外れた事に憤りを覚えたが、それ所ではない。


今の兵力では・・・・否・・・・・今以上に兵を持とうと呂布には勝てないだろう。


正面切っては・・・・・・・


「敵を葬れ!!」


呂布が赤兎馬の腹を蹴り、こちらに突進して来る。


それに従う形で五平原騎馬軍も突進して来て、迎撃態勢を取らせようとしたが兵達は我先にと逃げて行く。


わしの親衛であり精鋭の兵士である青州兵でさえも恐怖で顔を歪ませている。


それでも逃げないのは、わしが助けた恩と任を全うせんとする気持ちからだ。


くっ・・・・・・・


「全軍、逃げよ!!」


わしは直ぐに命令をして自らも逃げた。


これは明らかに屈辱だ。


だが、背に腹は代えられない。


ここは逃げるべきなのだ・・・・・・・・・


「敵将を討ち取れ!逆らう者は皆殺しにしろ!!」


呂布が数十名の兵達を片手で振う方天戟牙で薙ぎ払う。


恐怖で身が竦む。


初陣から何度の戦場を経験しただろうか?


考えてみたが、分からない。


それでも慣れは来る。


恐怖も例外ではない。


それなのに初陣に参加したような恐怖を・・・・・わしは感じた。


「曹操様を護れ!!」


青州兵がわしの背後に立ち呂布を相手にする。


その音が聞こえると同時に・・・・耳から離れない。


『邪魔だ!雑魚共が!!』


身体を切り裂かれる音、悲鳴と罵声、馬の蹄が大地を抉る。


わしは身体が震えた。


ここまで恐怖を感じるのは久し振りだ。


相手が呂布だからだろう。


「初代漢王朝皇帝“高祖”も項羽に追われた時、こんな心境だったのかもしれんな」


高祖とは漢王朝を築き上げた劉邦の諡号だ。


本当は高皇帝だが、大抵は高祖と呼ばれている。


高祖は項羽に追われた際、自分の息子たちを馬車から落としたと言われている。


儒教においては「子供は親の為に死ぬ事が出来てこそ最大の善行」であるから、高祖のやった事は儒教においては間違いではない。


今の世もまた同じ事だ。


例え我が子だろうと・・・・自分が生き残る為ならば、と親でもやる。


現にわしも兵達を見捨てて逃げているのだから当然と言えた。


しかし・・・・・・・


『必ず生き残ってやる。生き残って天下を取る』


その時は戦死した部下達の為に盛大な弔いを行う。


家族たちが居るのならば、生涯を賭して彼等の面倒を見る。


それが部下達に対する恩義であり義務なのだ。


それを誓い、わしは必死に逃げ続けた。


落馬したら、足で逃げる。


死体があれば、死体の影に隠れて逃げる。


とにかく生きて、ここから逃げて力を蓄えなくてはならない。


そう・・・・天下を取るまでは。


何があろうと生き続けなくてはならないのだ。


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