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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
45/155

第三十一幕:後一歩で・・・・・・・・

洛陽の後宮にある寝室。


その寝台に眠る娘が居た。


天から降りて来たと言われる天の姫こと織星夜姫である。


夜姫は未だに眠り続けていた。


可愛らしい寝息を立てていた夜姫だが・・・不意に呻き出した。


「・・・・や・・・・いや・・・・・て・・・・・・は・・・・・・が・・・・・・」


夜姫の脳裏に思い出したくない過去が出て来る。


雪が降り積もる中で、夜姫が立っており、誰かを待っていた。


しかし、一向に来ない。


右手に填めた時計を見る。


もう数時間は経過しているのに・・・・来ない。


どうして来ないの?


「・・・・・は・・・・・・を・・・・・・・」


夜姫の閉じられた瞳から一筋の涙が零れ落ちる。


本来なら、それを拭ってくれる者が居る。


今は居ない。


いや・・・もう何年も前から居ないのだ。


何故なら・・・・・・・・


不意に夜姫は振り返る。


そして、その眼に入ったのは、かつて・・・・・・・・・・・


「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


ガバッ・・・・・・・・・


夜姫は寝台から上半身を起こして、絶叫をした。


「・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ゆ、夢?夢、なの?」


空虚な瞳で周りを見るが、何も見えない。


それでも、“あの場所”でない事は雰囲気などで判った。


「・・・・・はぁ」


大量の汗を掻いていると、額に手を当てて判り軽く手で拭う。


「・・・もう、何年も前の事、なのに」


無意識に首に掛けたネックレスを握り締めて、吐息を吐いた。


何年と言っても、彼女がまだ18歳の時である。


つまりまだ2年しか経過していない。


しかし、夜姫にとっては、もう何年も前の事である。


もう既に遠い過去の事だと思う事で、忌々しい記憶を消そうとしているのかもしれない。


「・・・フェンリル」


夜姫は、先日から自分に懐いてきた狼の名前を呼ぶ。


彼なら何処へ行っても直ぐに駆け付けてくれる。


今は、そんな忠実で家族思いな狼に慰めて貰いたい。


そう思い声を掛けた。


しかし、返事も無いし来る気配も無い。


「フェンリル、何処?」


再度、夜姫は声を掛けるが返事が無い。


いや・・・・部屋の雰囲気も違う。


その事に遅くも気付いた。


連合軍の天幕ではない。


「・・・ここは、何処?」


夜姫が見えない眼を動かし、虚しく手を彷徨わせて棒を探そうとした。


しかし、誤って空を掴み寝台から落ちてしまう。


「痛ッ・・・・・」


身体に鈍い痛みを覚えた。


だが、夜姫は手を、這うようにして入口を探し始める。


「出口は、何処?」


床を這い、出口を探すが・・・広いため見つける事が出来ない。


だが、何とか机を見つけて立ち上がる事は出来た。


そして怖がりながらも手を前に出して・・・・出口を探し続ける。


「誰か、誰か・・・居ないの?」


誰も居ないし、何も見えない。


この二つが彼女の心理状態を極限にまで追い詰めていた。


先ほどの悪夢もあるが、来た事も無い世界に理由も分からず送られたのだ。


それを今まで我慢して来ただけでも凄い事である。


しかし・・・・もう限界に近かった。


「誰か・・・居ないの?私、また、一人ぼっち・・・・・・・・・・・・」


夜姫はポロポロと涙を流す。


“姫さん、あんたは一人じゃない”


誰かの声がした。


何時もなら聞こえないのだが・・・・今回は夜姫に聞こえた。


「貴方は、誰?」


涙を流しながら夜姫は声の主に訊ねた。


“あんたを昔から知っている男だ。今は名乗れないが・・・何れは思い出す”


「思い、出す?もしかして、夢に出て来る人?」


“そうさ。幼い頃から見ている夢に出て来る奴さ。今はまだ、皆は来ていない。しかし、必ずここへ来る。あんたを迎えに、な”


「私を迎えに?まさか、あの劇団の事務所での事も・・・・・・・・・」


“それは違う。だが、あれは姫さん自身も関係している”


「私自身?」


“あぁ。まぁ、今はそれ所じゃないな。そこから真っ直ぐ進んでくれ。そうすれば、ドアがある。そこを出たら壁伝いに行ってくれ”


そうすれば出口がある、と声の主は言った。


「ここは、何処なの?連合軍の陣じゃないんでしょ?」


涙を拭きながら夜姫は声に問い掛ける。


“あぁ・・・董卓の居る洛陽さ”


「董卓・・・・・・・」


夜姫は連合軍が倒すべき相手の居る都だと聞かされて愕然とした。


“姫さんが一人走りして力尽きたんだ。自業自得と言えば、それもあるが・・・・・・・・・”


“貴様!姫君の行動を自業自得と抜かすか!!”


またもや誰かの声が聞こえた。


「あの、貴方は・・・・・・」


何故か懐かしい声に聞こえて、夜姫は戸惑いながら訊ねた。


“姫君っ。我らの姫君っ。ご無事でしたか?!”


「あの、貴方は・・・・・・」


“姫君、待っていて下さい。必ずや貴方様を助け出しに・・・・・・・・”


“姫さんの問いに答えろよ”


片方の声が酷く興奮している声を宥めた。


“これは失礼しました・・・・姫君、貴方は先ほど我が名を呼んだではないですか”


「先ほど・・・・フェンリル?フェンリルなの?」


“はい。貴方様を護る為に存在するフェンリルです。この度は我が力不足故に、このような事になってしまい・・・・・・・・・・・”


「貴方、喋れるの?」


“えぇ。あの、姫君。我に命令した事を覚えていないのですか?”


「命令?あの、一体・・・・・・・」


“まだ完全に姫さんは覚醒していない。覚えてないんだよ”


“そうであったな・・・・・・申し訳ございません。姫君”


「あの、さっきから話が理解できないんですけど・・・・・・・・」


“それも何れ分かる事さ。それはそうと、ドアに行きな。もう直ぐ董卓が来る”


その前に遠くへ行くのだ。


そして身を隠して、自分達が来るのを待ってくれ。


暫くすれば、“誰か”が来る。


「劉備様達では、ないんですか?」


出来るなら劉備が来て欲しい、と夜姫は切望したが、声の主は違うと言った。


“生憎とまだ来れない。だが、もう直ぐ姫さんを昔から知っている奴が来る”


“おい、我は聞いてないぞ”


“言う必要があるか?”


“ある”


“それじゃ今度から気をつける。まぁ、そういう訳だから姫さん、ドアを開けて隠れるんだ”


「・・・・・・」


夜姫は言われるままにドアまで進んだ。


声の主が何者なのか?


それは覚えていないし、知らない。


だが・・・何故か懐かしい気持ちを覚えるのは気のせい・・・ではないだろう。


『この声・・・私は知っている』


何処で知り合った?


『・・・・あれは』


夜姫は空虚の眼差しを真っ直ぐに向けながら思い出した。


何処とも知れぬ戦場・・・・・・


雨のように矢は降り注ぐ。


そんな中で自分は甲冑を着て、直立不動で一点を見ている。


傍らには黒毛で立派な体格をした狼が・・・・・・・・・・


そして背後に一人の男が現れて、話し掛ける。


何を話しているのかまでは分からない。


しかし、知り合いであるような会話だったのは口の動きで分かる。


『私は・・・知っている』


だが、それが何処で、誰なのか、までは未だに分からない。


“・・・・思い出し、始めたか”


先ほどの声がした。


所が、今度は夜姫に聞こえない・・・聞こえないようにしている。


“あぁ。やっぱり姫さんもまだ覚醒し切れてないな。とは言え、あいつ等と会えば・・・後一歩だ”


“あ奴ら、か・・・二羽で一組・・・昔を思い出す”


かつて自分と二羽は、戦場において斥候ならびに偵察、そして夜姫の護衛を担っていた。


二羽が上空から、そして自分が地上で夜姫を補佐していたのだ。


そして、誰よりも夜姫の傍に居り可愛がられていたと自負している。


“後一歩・・・・後一歩で我らの願いが叶う”


“そうだな。後一歩だ。覚醒すれば、こちらの物だ”


皆で幸せになるという・・・・願いを叶えられる。


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