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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
44/155

第三十幕:厄介な相手とは

後漢王朝の都である洛陽。


その城の中は騒然としていた。


誰もが身支度を急かされて、出る準備をさせられている。


逆らえば殺されるか、強制される。


そのため誰も逆らえずに黙々と準備をしていた。


理由は何だ?


それは、分かり切っている。


この洛陽を捨てる為に他ならない。


と言うのも、ここ洛陽を支配しているのは皇帝ではなく、辺境の将軍である董卓だからだ。


皇帝が支配していれば、このような真似はしない。


何故なら当時、都を移す行為---“遷都”は儒教では墓荒らしと同じく最大の悪行とされていたからだ。


しかし、辺境の将軍でしかない董卓はそれを無視するのだが、戦で言うなら寧ろ良い判断と言える。


何故なら洛陽の先---眼と鼻の先には前線基地とも言える陽人という城がある。


ここを奪われたとなれば、戦略的に不味い。


何せ急所に牙が当たっているに等しいのだから。


儒教では、最大の悪という理由で無理など馬鹿馬鹿しい。


それを董卓は知っているからこそ、敢えて遷都する事に決定したのだ。


連合軍は、もう来るから慌てるのも無理は無い。


民達から言わせれば、董卓を倒し平和に暮らせるという希望だが、本人から言わせればとんでもない。


わざわざ自分を殺しに来る相手を、どうして待つ必要があるのか?


そう思うのが普通だ。


「・・・まったく。どうして俺たちまで移動するんだか」


忙しなく荷物を纏めながら民の一人が、愚痴を零した。


「余り声を出すなよ。何処で密告されるか分からないぞ」


隣で準備をしている民が、小声で窘めるように言う。


「本当の事だろ?俺たちは別に悪くないんだぞ」


全ては董卓と言う野蛮な男のせいだ。


「そうだが・・・・従わないと、ああなるぞ」


男は指を指す。


その先には四肢を八つ裂きにされた死体が晒されていた。


董卓に逆らった者の末路だった。


自分に逆らえば、こうなる。


そう教えているように死体は、鴉や犬に喰われた痕があり、見る者を竦ませた。


「・・・早く準備するか」


「それが賢明だ」


二人は死体から眼を逸らして黙々と作業を続ける。


それだけの効果が死体にはあった・・・何も言わないが。


場所は変わって連合軍の陣。


現在、連合軍は二つに別れていた。


袁術を大将とする離反組と袁紹を大将とする残存組である。


元々は一つだったが、度重なる問題で袁術が離反した。


その中には江東の虎という異名を持つ孫文台も居り、黄巾の乱から義勇軍として参加していた劉備玄徳も居る。


この二人が袁術に従っており、残りは袁紹に組している。


圧倒的に袁紹の方が兵の数などは多いも、士気の高さ及び実力で言うなら袁術の方が上であろう。


何せ孫文台が居るのだ。


董卓が最も恐れている男が、孫文台であり彼が袁術に居るだけで身も心も引き締まる。


それだけ存在感がある袁術の軍を民達が見たら、こちらが連合軍だろうと思う筈だ。


対する袁紹は数などは多いが、董卓と真正面から何度も戦ったのは曹操位で、後は損害を恐れて戦わない者たちである。


そのため士気も余り良くない。


所が一度は袂を別ち合ったが、相手が相手だけに会議を開く事になった。


元々倒す相手は共通しているから、それほど問題は無い。


ある一つの問題を残しては・・・・・・・・・・・


腕を組み不機嫌そうな顔をする男---袁術は同じく、腕を組み不機嫌そうな顔をする男---袁紹を睨んだ。


この二人は腹違いの兄弟であるが、仲は悪く顔を合わせれば喧嘩する。


それは周囲に知られている。


現にこうして会議を開いている訳だが、一触即発の状態だった。


「そんな条件を私に飲めと?」


袁術は腕を組んだまま、袁紹に訊ねる。


「そうだ。元々、貴様は連合軍の総大将だ。しかし、私より下だ」


故に私の命令に従うべきだ、と袁紹は腹違いの兄弟に言う。


「確かにそうだが、もう連合軍から離反した。貴様の命令に従う理由は無い」


「いや、ある」


「何故だ?貴様は夜姫様を助けられなかった男だぞ」


そんな男の命令に従う気は無い、と袁術は言い切る。


「さっきからそれしか言わないな」


「事実だからな」


『・・・・・・』


互いに無言で腹の探り合いをする。


とは言え、どちらも答えなど当に見つけていた。


天の姫である織星夜姫を手に入れる事。


これが二人の考えている事だ。


だが、袁術はあくまで夜姫を護る事が理由であり、袁紹のように邪な考えは持っていない。


それが違う所と言える。


「とにかく命令に従え」


「断る。貴様の命令に従って夜姫様を助けられなかったら、私は死んでも死に切れん」


「では、訊くが・・・そなた等だけで董卓を打ち破れるのか?」


「・・・・・・・」


痛い所を突かれて袁術は無言になる。


「出来ないだろ?如何に孫堅が居よう、とな」


「・・・・・・・」


袁紹の勝ち誇った顔に、袁術は拳を握り締める。


「所詮、貴様に出来る事など・・・この程度だ」


「・・・・・・・」


この勝ち誇った男の顔を思い切り殴りたい。


そんな激しい衝動に袁術は覚えた。


だが、それを必死に抑えて・・・黙る。


「話は終わりだ。さっさと自軍へ伝えろ」


私の傘下で戦う、と・・・・・・・・・・


「断る。しかし、共同戦はする。だが、覚えておけ」


袁術は沈めていた顔を上げた。


瞳は燃えるような火が宿っており、袁紹を真っ直ぐに見え透いている。


「もし、また前みたいな事をしたら貴様を・・・殺してやる」


何時にない殺気を込めて、袁術に袁紹は少しばかり恐怖を覚えた。


「ふ、ふん・・・やれるものならやってみろ」


「やってやる。貴様と刺し違える形になろうと、な」


それだけ言い残すと袁術は天幕を出た。


そして、その足で自陣へと戻る。


「どうでした?」


自陣へ戻ると彼の腹心である閻象が真っ先に訊いてきた。


「この顔で良い答えが得られたと思うか?」


袁術は自分の険しい顔を見せる。


「いいえ。まったく」


「だったら訊くな。思い出すだけでも腹立たしい」


「そう怒っても仕方ないでしょうに」


「煩いっ。それで、何の用だ?」


「劉備殿達をどうしますか?」


「どうする?」


袁術は閻象の言いたい事が解からずに訊ねる。


「義勇軍は負傷兵なども多く厳しい言い方ですが、足手纏いです」


「・・・それで?」


「ここは動ける者だけを連れて行くべきかと。勝負がつけば、連れて来る」


それでどうでしょうか?


「良いだろう。ただし、決して見捨てないぞ。仲間は見捨てない」


それが夜姫様の望む事だ、と袁術は言い切る。


「分かっておりますとも」


閻象はそれに頷いた。


袁術が横を去り、閻象はその背中を見て眼を細める。


しかし、彼が眼を細めたのは袁術に対してではない。


もう直ぐ到着する洛陽に、だ。


『・・・洛陽を焼き払う、か。董卓ならやりかねない』


董卓の配下に潜入させた間者から得た情報によれば・・・・・董卓は長安へ逃げるらしい。


それは予想していた事であるが、董卓は自分達に利用されないように洛陽を焼き払うと言う。


儒教において都を移す事は墓荒らしと同じく最大の悪である。


如何に戦術的、戦略的に良くても・・・悪とされてしまうのだ。


これを実行すれば確実に、こちらには不利であるが、同時に董卓側にとって不利になる。


民衆の支持などを得られなくなる。


以前から民衆に対して苛烈な行いをしており、支持など皆無であるが、それを行えば確実に国全体を敵に回すと考えて良い。


董卓ならやるだろう。


国全体を敵に回そうと、勝てば良い。


そう董卓なら言うに違いない。


歴史に自分の汚名が残ろうと、生きている間に勝てば良いのだ。


そう言うに違いない。


『・・・厄介な相手だ』


その厄介な相手とは董卓だけではなく、連合軍にも向けて閻象は言った。


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