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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
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幕間:龍の流した涙

今回は少し短めの物で劉備視点です。

私は袁術殿の陣へ赴いた。


閻象殿が私を迎えたが様子を見て何が起こったのか理解した様子だった・・・・・・・


「その様子では・・・敵が投げた言葉は事実、ですか」


「・・・はい」


私は自分の無力さに憤りを覚えながら頷いた・・・・顎が重くて動かすのに苦労する程だった。


まるで自分の身体ではない気さえする。


それだけ私は夜姫様を大切にしていたんだと改めて思う。


織星夜姫様・・・私がこの手で抱き止めたあの方は天の姫だ。


きっと天の国では父と母の愛情を真摯に受けて蝶よ花よと愛おしくも大切に育てられたに違いない。


そんな夜姫様を私は娘と称した。


彼女が誰も頼る相手も居ない事と・・・見ていて助けなければと思ったからだ。


何時しか・・・娘のように思えたのは必然と言えるだろうか?


傲慢にも程がある・・・しかし私は娘と思い護っていた。


それなのに護り切れなかった・・・・・・護り切れなかったのだ!!


何で護り切れなかった?!


あんなか弱い娘を・・・・・・・・・


私は何て無力なんだ・・・・・・・・・


「劉備殿。そのようにご自分を責めるのは良くないですよ」


閻象殿は慰めるような言葉を投げてきた。


しかし、それで私の心は慰められる訳ではない。


それでも私は気を持ち直して袁術様の所へ行った。


「袁術様、申し訳ありません」


天幕の中で袁術様は私の話を最後まで聞いた。


入ってから直ぐに謝罪した私に最初こそ驚いたが、その意味を知った袁術様は静かに話すように促したのだ。


「・・・敵に奪われた、か」


バキッ


袁術様は持っていた棒を折り地面に捨てるとこう言った。


「これで腹は決まったな」


「・・・どういう事、ですか?」


私は伏せていた顔を上げると袁術様は何かを覚悟した顔つきで喋り出した。


「こんな事態に陥ったのも連合軍内で我々が浮いていた事と連日の連勝で味方が浮かれた事が原因だろ?」


「確かに・・・ですが・・・・・・」


「言うな。そなたの言いたい事は解っている。我々だけでは敵を打ち破る事は出来ない、と言いたいのだろ?」


「はい。私たち義勇軍では当たり前ですが袁術様の軍でも董卓軍を単独で討ち破るのは無理です。孫堅殿も同じかと・・・・・・・」


「そうだ。しかし、それは正面から立ち向かえば、だ。奇襲などを繰り返して行けば勝つ見込みはあるし呂布を除けば更にそれは高まる。違うか?」


「いいえ。では、態勢が整い次第・・・・・・・」


「うむ。我らは連合軍より脱退する。孫堅には既に了承を得ている。私とそなた、そして孫堅の三人で夜姫様を助ける」


“ご立派な心構えだ”


何処からともなく声がした。


「道化、か?」


私が訊ねると声の主はそうだと答えた。


“姫さんを敵に奪われたな”


「面目ない」


“あんただけが、悪い訳じゃない。それに姫さんの軽はずみな態度も原因だ。まぁ、昔から陣頭指揮が常だったからな・・・姫さんは”


“そこが姫君の良い所であり悪い所だ。とは言えそれで我々みたいな寄せ集めが一団となれたのも否定できない”


また声がした・・・しかし、今度は天幕が動き黒い毛の狼---フェンリル殿が現れた所が違う所だ。


「フェンリル殿、夜姫様を・・・・・・・」


“言うな。そなたのせいではない。それは袁術も道化も承知している。我もまた同じだ。それに・・・姫君ならそなたが心配している以上に強いお方だ。案ずる事はない”


かと言ってノロノロしている時間も無いが。


“で、態勢を整えるのにどれ位かかる?”


道化が訊ねると袁術様は少し考えてから答えた。


「三日から七日だな。我が軍だけならそうでもないが孫堅の軍も合わせるとそれ位は掛る」


“三日でやれ。迅速に行動し敵を倒す。これが姫さんの戦術だ”


「そうか。夜姫様の戦い方は速さで出来の動きを封じる事か」


“あぁ。風のように速く動いて敵が陣を組む前に出鼻を挫く。そういう戦いが多かったな。まぁ、相手にもよるが基本はそうだ”


「・・・閻象」


袁術様が閻象殿を呼ぶと彼は直ぐに現れた。


「お呼びですか?」


「今から三日で出発の準備を終えろ。我らはこれより連合軍より脱退し独自で夜姫様を助ける」


「御意に・・・・」


何も言わず閻象殿はただ頷いた。


「腹は決まった。劉備よ、そなたも良いのだな?」


「勿論です」


私は胸を張り答える。


「私は夜姫様を護れませんでした。しかし、今度は・・・必ず護ります」


その為にもここから出るしかないなら出る。


仲間もその積りだと私は確信していた。


苦難を共にしてきた彼等だ・・・私の意を組んでくれるし負け続きなど我慢できないだろう。


「そうか。では直ぐに準備をさせておけ。私も急いでやる」


「はい」


私は頷いて天幕を後にした。


そして自分の陣へ戻ると負傷兵などが手当てを受けていた。


「殿、袁術様は何と?」


諸葛亮が私に話し掛けて来て私はありのままに答えると諸葛亮は眼を細めたが直ぐに頷いてくれた。


「分かりました。しかし、動けない者も居ます。その者は・・・・・・・」


「劉備様、私たちの事は置いて行って下さい」


負傷兵の一人が私に進言してきた・・・しかし、到底受け入れる事など出来ない進言だ。


「馬鹿を申すな。そなた達も連れて行く。皆で夜姫様を助けるのだ。これは何があろうと譲らん」


「劉備様・・・・・」


私の言葉に涙を流す者までいたが私は当たり前の事を言っただけだ。


負傷兵だろうと私の下で戦い続けた者たちを置いて行くなど出来ない・・・そこが私の弱い所だと実感はしている。


甘いのだ・・・負傷者が行けないなら置いて行けば良いのにそれが出来ない。


乱世では命取りになる・・・それでも私は非情になり切れないのだ・・・・情けないと思ってしまう。


“そう自分を卑下するな”


道化の声がした。


『道化、か。卑下するなと言ってもこの場合は置いて行くのが良いだろ?』


“そりゃそうだ。しかし、姫さんだってこんな時はあったが・・・何があろうと仲間は見捨てなかったぜ。死体だろうと持ち返り家族へ返した”


そこが似ている・・・そして部下に好かれる要因でもあったと道化は言った。


『そうか・・・・・・』


“あぁ。皆あんただからこそ付いて行くのさ。あんただからこそ正直に言うんだ”


『・・・・・・・』


“連れて行ってやれ。もしもの時は俺が力を貸してやる”


『・・・良いのか?』


“俺は姫さんの為に居る。しかし、あんたは気に入っているからな。助けてやるさ”


『礼を言う』


“それは姫さんに言え。俺は姫さんが望む事をやるだけだ”


そして声は途切れた。


「もう一度言う。負傷者は置いて行かない。全員を連れて行く。各自、準備をしろ」


『はっ!!』


部下達は頷いて準備を始め私もまた準備を始める。


私たちの準備が終わった頃だ・・・・・・・


「劉備殿、そちらの準備は出来ましたか?」


孫堅殿が私に話し掛けて来て私は出来たと答える。


「私の軍も出来ました。後は袁術様の準備が出来次第、出発ですね」


「孫堅殿も来るのですか?」


「勿論です。袁術様も出て行き貴方も出て行くのに私だけが連合軍に残る理由はありませんからね」


「・・・・・・」


「それに夜姫様は私にとっても娘同然。その娘を攫われたのに暢気にしていられるほど私は愚かな親ではありません」


「そうですか・・・・」


「はい。一緒に董卓を打ち倒し夜姫様を助け出しましょう」


「・・・はい」


私は孫堅殿の言葉に静かに、しかし力強く頷いた。


そして袁術様の軍も準備が終わり私たちは一度集まり簡単に確認をする。


「これより我らは連合軍から離反して行動する。よって味方は我ら三人だけだ」


私、孫堅殿、袁術様。


この三人でこれより行動するからこの三人以外の味方は居ない。


しかし、不思議と不安も恐怖も無い・・・寧ろこの三人なら出来ると思う。


不思議な物だ・・・・・・・


「我らはこれより一蓮托生。我らが望む事はただ一つ」


夜姫様を助け董卓を打倒する事。


私たちは頷き合った。


「では・・・出発だ!!」


袁術様が兵達に命令し私たちは出発した。


待っていて下さい・・・夜姫様。


必ず貴方様を助け出します。


私は義勇軍を率いながら夜姫様の無事をただ祈った。


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