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月の姫と英雄たち  作者: ドラキュラ
反董卓連合軍編
28/155

幕間:江東の虎と月の姫

更新が遅れました!!


レビューを書いてもらったお陰でお気に入り登録数などが多くなり嬉しいです。www


ですが、どうも最近はちょっと書けなかったので遅れました。(汗)


私は自分の寝台で眠る娘---織星夜姫様を見ていた。


規則正しい寝息を立てながら眠る夜姫様は私の娘より少し年上だが夜姫様の方が年下に見えてしまうのは性格のせいか?


まだ本の数回しか話した事はないが可憐という言葉が似合う性格であり容姿だとは判る。


誰に対しても礼儀正しく、相手が誰だろうと自分が世話になっている者を侮辱されたら怒る。


だが、時節・・・分からない行動を取る時もあるし、とてつもない行動を取る事もあるのは未だに判らない。


一緒の陣に居る劉備殿と袁術様も判らないのだから離れた陣に暮らす私には尚の事だ。


しかし、こんな娘なら眼に入れても痛くないほど可愛い---溺愛するだろうなと思ってしまう。


私の娘は女だてらに腕っ節が良い。


それこそ下手な男よりも強いから親としては悲しい事だ。


渾名が“弓腰姫”という女として悲しい渾名を持っているから自ずと想像できる筈だ。


小さい頃に何か欲しい物はあるか?と訊いた時など・・・・・・


『男物の衣装に剣と弓が欲しい』


と言ったのだ。


あんな風に育てた覚えなど無い。


それなのにどうしてあんな娘に育ったんだ?


上に兄が二人いるからその影響が強いのかと思ってしまうが、それでも女らしく教育した。


それなのにどうして・・・・・・


溜め息を吐かずにはいられない。


夜姫様を見れば尚更だ。


きっとこの方を娘として儲けた父親は誇りに思っていただろうな。


こんなに綺麗で大人しく相手を立てる娘だ。


何れは何処ぞヘ嫁にやらなくてはと思いながらも溺愛する事だろう・・・私ならそうする。


と自分の考えを片隅へ置いて私は夜姫様が何故あんな所で一人いたのか考えた。


何時もなら護衛として誰かが居るし典医も居る。


それなのにあの時は居なかった事は疑問だ。


しかし、幾ら考えても答えは見つからない。


「う・・・ん?」


夜姫様は空虚な眼を開けて当たりを見回す。


「気が着かれましたか?」


私が声をかけると声のする方向へ視線を夜姫様は向けて掠れた声で訊ねてきた。


「そん、けん様、ですか・・・・・?」


「はい。一体どうなされたのですか?雨の中で倒れておりましたが・・・・・・」


「・・・・・・・」


私の問いに夜姫様は無言で答えなかった。


しかし、何か良からぬ事が遭ったんだとは無言で理解できる。


「お話し出来ないのなら良いですよ。先ずは着替えましょう。それでは風邪を引いてしまいます」


私が指摘すると夜姫様は可愛らしいくしゃみをした。


それだけで何で自分の娘は・・・・・とついつい比べてしまう。


悪い事だと思いながらも比べてしまうのは男親の心理と言うものか?


下らない事を考えるのは止めて私は腰を上げた。


「私は出て行きますので、ご自分で着替えは出来ますか?」


生憎と私の陣に女は居ない。


いや、何処の陣にも居ないからこういう事は夜姫様一人で行ってもらうしかない。


まさか私や部下達にうら若き女性の着替えを手伝わせる訳にもいかないからな。


「大丈夫、です。あの・・・・ありがとうございます」


夜姫様は去ろうとした私に気付いたのか呼び止めて礼を述べてきた。


「いいえ。礼を言われる程ではありません」


私は見えないのに苦笑して天幕から出た。


もう雨は止んでいたが、地面は抜かるんでおり少しでも力を抜いたら足を取られそうだ。


「殿・・・袁術様達が参りました」


部下が袁術様達が来た事を伝えに来て前を見れば馬に乗った袁術様達が見えたと同時に一直線に走って来る黒い狼---フェンリルの姿も見えた。


フェンリルは疾風の如く私の横を通り過ぎて夜姫様の居る陣へ入ってしまい、軽く夜姫様の悲鳴が聞こえたが直ぐに「貴方だったの」と安堵の声が聞こえてくる。


「主人想いな狼ですね」


私は下馬する袁術様に話すと袁術様は「そうだな」と険しい顔で相槌を打った。


「どうかなさったんですか?」


見れば劉備殿もまた険しい顔だったが、義弟である関羽殿と張飛殿は顔が痣だらけで沈んでいるではないか。


「夜姫様はその陣か」


袁術様は私の背後にある天幕を見て訊ね私は頷いたが「ただいま着替え中です」と言い入るのを待たせた。


「そうか。孫堅。夜姫様の御身体に何か異常は?」


「いえ。ただ、雨の中で倒れていたので軽くくしゃみはしました」


「・・・雨の中で、か」


「何か心当たりがあるのですか?」


袁術様の口ぶりから私は指摘したが袁術様は無言で関羽殿と張飛殿を顎でさした。


「この愚か者が原因だ」


「愚か者、ですか・・・・・?」


どういう事かサッパリ判らない私に劉備殿が近付き「義兄である私から全てお話します」と言ってきた。


立ったまま私は劉備殿の話を聞いたが最後まで聞き終えた時は怒りで震えていた・・・・・


「・・・些か、お二方を買い被り過ぎましたかね」


私は厳しい眼差しを関羽殿と張飛殿に向けて重い声で言った。


夜姫様が足手纏い・・・夜姫様が居なければ戦える・・・居なくなれば・・・・・・・・・


この二人は夜姫様をそう言ったらしく、運悪くそれを本人に聞かれてしまったようだ。


だから、あんな雨の中で一人倒れていたのかと納得するが怒りの方が強い。


「貴方達は夜姫様を何だと思っているのですか?」


私は二人に訊ねたが、答えを言う前に言葉を放った。


「夜姫様は天の姫です。しかも眼は見えない上にたった一人。その夜姫様を追い出すような言葉を放つとは呆れ返ってものが言えませんね」


夜姫様は天の姫で本来ならばこんな血みどろの乱世に来るべき方ではない。


だが、どう言う訳か来てしまい眼が見えない上に共も友人も誰も居ないという状況に陥ってしまった。


それでも前を向いてひた向きに生きようと・・・私たちの邪魔にならないようにしているのにこの二人は邪魔者扱いする言葉を言った。


これは武将云々よりも男として恥ずべき事だと私は断言した。


『・・・・・・・』


二人は何も言わずに顔を俯かせた。


「孫堅様、着替え終わりました」


天幕の中から控え目に私を呼ぶ夜姫様の声が聞こえ私は直ぐに天幕の中へ戻る事にしたが、一度だけ振り返り袁術様達に待つように眼で言った。


「誰かとお話していたのですか?」


夜姫様は私が渡した赤い生地を主体とした服を着て寝台に腰を下ろした状態で訊ねてきた。


その足元にはフェンリルが座り私を見上げているが敵意は感じられない。


「はい。袁術様達が貴方様を探しに来ました」


「・・・・関羽様と張飛様も一緒、ですか?」


「はい。夜姫様、どうなさいますか?」


「どう、とは・・・・・・?」


「ここは私の陣。もし、貴方様が会いたくないと言うのなら追い返します」


出来るなら会わせたくないと私は思っていた。


夜姫様は娘とそんなに歳は離れていないからついつい娘と見てしまう。


まだ殆ど会話らしい会話もしていないのだが、夜姫様を見ていると父性本能とも言える感情が出て来るのだ。


例えで言うなら娘を泣かせた男が謝りに来たとしよう。


その男を父親が見たらどうする?


私なら即座にその男を追い出す所か殺す。


娘を泣かせた者は誰だろうと許さない、というのが私の中にある父親としての考えで夜姫様にはその感情を出してしまうのだ。


「どうなさいますか?」


「・・・入れて、下さい」


フェンリルが顔を上げて夜姫様をマジマジと見つめるが、明らかに「入れさせたくない」と言う眼でそれが印象的だった。


「・・・宜しいのですか?」


私は確認としてもう一度だけ訊ねると夜姫様は頷いた。


「入れて下さい。私も言いたい事があるので」


「・・・分かりました」


私としては出来るならば入れたくない気持ちだが夜姫様本人の頼みを無視する訳にもいかないので仕方なく了承した。


天幕から出て袁術様達を入れるが関羽殿と張飛殿は止めた。


「もし、ここで夜姫様をまた愚弄するような事を言ったら・・・この陣から生かして帰さない、と言っておきます」


もはや父親としての気持ちだったが、それはそれで良いと開き直る。


関羽殿と張飛殿はこれに驚いたが直ぐに了承してくれた。


そして中に入る。


夜姫様はフェンリルを撫でながら虚ろな瞳で関羽殿と張飛殿を見て、二人もまた夜姫様を見たが直ぐに土下座をした。


『申し訳ありません!!』


声を張り上げて額を地面に擦りつけて二人は夜姫様に謝罪の言葉を口にする。


「夜姫様、俺が、俺が悪かった。あ、あんたを足手纏いなんて言ったのは取り消す!!」


「夜姫様。私も貴方様を邪魔などと言って申し訳ない。私がどうかしていた・・・どうか許して下さい」


二人はそれからも思い付く限りの謝罪を口にするが誰も喋ろうとはしなかった。


それは二人の犯した事が余りに大き過ぎたからかもしれない。


フェンリルは二人の謝罪を聞いても敵意を剥き出しにしているが、夜姫様は何を考えているのか分からない空虚な瞳で二人を見つめていた。


一体なにを考えているのか・・・・・・・・・・


「夜姫様、失礼とは思いますが意見を言わせて頂きます」


袁術様がここで夜姫様に話し掛けた。


「何でしょうか・・・・・?」


「恐れながらこの二人は自分を過大とも言えるほど自己評価しております。だからこそ、こんな失礼を通り越して貴方様を侮辱する言葉を放ったんです」


その通りだと私達は頷き続きを聞く。


「ここはこの二人に何かしらの罰を与えるのが良いと思われます」


「罰、ですか?」


「はい。本来ならば極刑を与えても良いです。ですが、貴方様はそれを望んでいないんですよね?」


「・・・はい。それに、私が邪魔と言うのも頷けます。だって、私が居なければ劉備様達も戦えるんですもん」


「それも一理あると言えます。ですが、義勇軍は私を始めとした軍に比べて貧弱です。仮に戦えたとしてもこの二人のような豪傑を除いて後は殆どが戦死し壊滅してしまいます」


それを鑑みれば夜姫様は兵達の命を救っているという事になるが、この二人はそれを知らない・・・気付かなかった。


「それをこの二人は気付かずに他の者も自分達と同じ強さを持っていると慢心した。それで兵達が死んだらどうなるか・・・・・・・・」


「・・・・・・」


最後まで袁術様は言わずに夜姫様もまた訊かなかった。


「夜姫様。確かに貴方様は戦においては何も出来ないですし、彼等の行動を止めている部分もあります。ですが、決して貴方様は邪魔ではありません。私はそう思っております」


袁術様はそう言ってから罰は何にしましょうと訊ねた。


「・・・不問にする、というのは・・・・・・・・・」


「夜姫様。お気持ちは理解できますが、それではまた同じような事が起こり得ます。それを阻止する為にもここは何かしら罰を与えなくてはいけません」


「そうです。何より義兄である私が不問など許しません」


劉備殿がここで口を開いた。


「私は、夜姫様・・・貴方様を娘のように思っております」


「私を娘?」


「はい。恐れながら私はまだ子を儲けた事がありません。ですが、もし、貴方様のような娘を持ったら・・・と思うとこの二人の行動は義兄として、父親として許せません。ですからここは罰を与えたいと思います」


「夜姫様。殿は信賞必罰は当然と考えておられます。私もその意見に賛成ですが」


諸葛亮殿もまた口を開いた。


「信賞必罰があってこそ人の世界というのは出来ているのです。特に軍ではそれが顕著な程に必要なのです。もし、これを不問にしたらまた次の者が出てしまう恐れがあります」


それを防ぐ為にも罰を与えなくては示しがつかないと諸葛亮殿は実に的を射た言葉を放った。


「・・・・・・・・」


夜姫様はそれを聞いて無言となり何かを考えている様子だったが、恐らくどんな罰を与えるのか考えているのだろう。


私なら極刑を与えても良いと思うが、それでは戦力が低下してしまう事を考えると命までは取らないが厳しい罰を与えるのが望ましいと思った。


フェンリルもまた夜姫様の言葉を待っているかのように夜姫様を見続ける。


「・・・では、罰を与えます」


夜姫様の眼が変わった。


空虚な瞳が金色の色へ・・・月の色へと変化した。


あの瞳は・・・・・・・


「関雲長、張益翼。そなた達二人に罰を与える・・・顔を上げよ」


夜姫様の声もまた先ほどまでの声と違うが、誰もが口を開けないでいた。


名を呼ばれた二人はまるで糸で操られる人形のように顔を上げたが顔が、身体が吹き飛んだ。


何があったのか分からなかったが二人の方を見て分かった。


二人の顔には“赤い花”が咲いていたのだ。


「これが罰よ。少々力を込めたから・・・7日間ほどは消えないわ」


何処へ行こうとその痣が見える、と夜姫様は言った。


つまり戦に出る時もこの赤い花を敵に見せる訳で、ある意味では女に叩かれたという事を知らせるという事だ。


これはかなり厳しい。


罰と言えば痛くて酷いものと想像するが、これもまた男から言わせれば酷い罰だと言わざる得ない。


「袁術、劉備。これで良しとしましょう。良いわね?」


夜姫様は二人を呼び捨てにしながらこれで終わりと告げた。


「で、ですが・・・・・・」


袁術様が食い下がろうとする。


「私は良いと言ったの。侮辱された私が許すの。それで良いわね?」


強い口調で同意しろと夜姫様は求め袁術様は仕方ないとばかりに頷いた。


劉備殿もまた自分が言っても無理と判ったのか夜姫様が言う前に頷き従うのだが、フェンリルだけは違っていた。


「フェンリル。私はこの二人に侮辱されたけど、こんな侮辱は何時もの事でしょ?」


フェンリルの毛を撫でながら夜姫様は月の瞳で見るが、フェンリルは納得できない顔をしている。


「貴方の気持ちは嬉しいわ。でも、これ位で怒って極刑にしていたら切りが無いわ。それに私自身が良いと言ったのよ。それを部下であり家族である貴方は納得できないの?」


両手でフェンリルの顔を固定して訊ねる夜姫様にフェンリルは二人を一瞥してから小さく頷く事で納得した・・・ように見えた。


「良い子ね。さぁ、これで終わり。帰るわよ」


夜姫様はそれだけ言うと寝台に倒れた。


一体なにが何なのか分からない・・・だが、今の状況は把握できる。


「袁術様。今宵は、私の陣にお泊りになられますか?」


「・・・そうする」


袁術様は夜姫様を寝台に優しい手付きで寝かせてから関羽殿と張飛殿を見て冷たい言葉で言った。


「・・・夜姫様の寛大な御心に感謝するんだな」


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